甲板でお姫さんが、ふぅ…とため息をつく。
「あ~…アフリカよりは北だけど、緯度的には南欧よりまだ南な感じだしな。
それでも夜は若干涼しいと思うが…」
と、ギルベルトはそれでも甲板に出たがるお姫さんに苦笑した。
海に出るまでは箱入りで、ギルベルトの船に乗るまではとても臆病に見えたお姫さんは、実は意外にお転婆だったらしい。
危ないから下船は避けていたが、その分、船ではあまり日差しが強くない時はよく甲板で風に吹かれながら飽きもせずに海や空に視線を向けていたし、ギルベルトが少し目を離すと、気づけばアントーニョに見張り台の上に連れて行かれてはしゃいでいた。
これに関してはアントーニョにはいつも注意をするのだが、
──あ~ちゃんが楽しんでるんやから、ええやん
と、流されてしまう。
まあ確かに眺めの良い見張り台で景色を見るのはお姫さんのお気に入りだし、アントーニョがついていてそこから落ちるなんてことはまずさせないので、仕方ないことなのか…と、半分諦めつつ、それでもそういう時はいつ落ちても大丈夫なように…と、ハラハラしながら下で待ち受けているのだが…
その日もそんな風にアントーニョに見張り台にお姫さんを拉致されたのだが、しばらくしてアントーニョが少し表情を引き締めて、スルスルと素早くお姫さんを連れて自主的に降りてきた。
「…珍しく早いな」
と、それにギルベルトが声をかけると、
「少し離れたとこに船影が見えたさかい、あ~ちゃんは自室待機な。
ギルちゃんは準備したって」
と、アーサーを連れて船内へと駆け込んでいく。
それを聞いて、久々の海戦か?
と、ギルベルトは本来の見張りに見張り台での監視を命じると、総員に戦闘配置について準備をしておくよう命じて、そのまま船内に戻る。
そしてすることは、アントーニョが部屋に連れ戻したお姫さんに念押し。
「絶対に絶対に絶対に!!戦闘が終わるまでは出てこないでくれよ?!」
と、かなり真剣に言えば、お姫さんは
「さすがに…戦闘の中に飛び込んだりはしませんよ」
と、苦笑するが、あの時だってまだ完全に制圧できていない敵の本拠地で船の乗組員の中でも一番くらいに護衛にならないフランシスと買い物に出たりしたのだ。
安心は出来ない。
「絶対だからな!」
と、言いおいて、念の為いつものようにお姫さんの部屋の前には、何があっても部屋からは出すなと厳命を下した手練の部下を二人配置して、ギルベルトは甲板へと戻った。
しかしそんな物々しい警戒体制の中、接近中の船はピタリと止まり、そこから二人ほどの人間を乗せた小舟がこちらへと接近してきた。
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