ギルベルトさんの船の航海事情_34

──モガディシオに投資をしましょう!

と、言うお姫さんの提案で、その街にはかなりの額を投資した結果、少し時間はかかったが素晴らしく質の良い金が仕入れられるようになった。


もちろんその待ち時間もまたお姫さんの提案によって有効利用。

その金を延べ棒だけではなく、一部金細工に加工する。
お姫さんがデザインをした欧州風のアクセサリの数々は美しい。

──これをねアラブで流行らせれば、結果、金細工を作るために金がさらに値上がりすると思うんですよ

シャララと金鎖の音。
それが巻き付いたお姫さんの手は白く美しい。

「まずは豪商か貴族にコネクションを作って、できればヨーロッパの舞踏会のようなものが開ければ良いんですけど
購買力があるあたりに宣伝しないと意味ありませんし」

少し目を伏せて、ふふっと微笑みを浮かべるさまは少しいたずらっぽい小悪魔のようで、先日号泣するギルベルトを慰めた聖母のような顔とは別人のようだ。

なんとも不思議なくらい色々な面をもつものだと思うものの、それが全て魅力的なので困ってしまう。


さらに

「とりあえずまずはアラブ入りですね。
ソファラの方々からお聞きしたんですけどね、アラブ圏と言ってもインド洋の西側のいわゆるアラブをウッディーン商会、そして東側のインドのあたりをナガルプル商会という2つの商会が主に仕切っているそうです。
インド洋の入り口のソコトラの港はウッディーン商会の勢力らしいので、まずはそこからアラブを目指すのが順番的には良いように思います」

と、そんなアドバイスまでされて驚いた。
ギルベルトのお姫さんは綺麗で可愛くて優しくて…なのに賢くて芯が強い。
そんなすべてを兼ね備えた女性だったらしい。

「アフリカとアラブの金の貿易で資金を作ったあと、インドに入れば今度はコショウを始めとする香辛料が手に入ります。
本格的に香辛料で勝負するなら東南アジアですけどね。
あのあたりはやはりポルトガルとオランダの豪商が独占しているようなので、それに食い込むなら、先にアラブとインドでそれなりの資金を作らないとですね!
忙しくなりますよ、ギルベルトさん!」

先日の誘拐事件で懲りたので、自分が外に出向くことはせず、要件のある人間は向こうから出向いてもらうことにしていたのだが、お姫さんはなんと彼らが待合室で待っている間に色々聞き出していたらしい。

正直自分などよりよほど情報を持っていた。

──私みたいに無知な者はよく存じませんが、色々ご存知なんですねぇ、すごいですねぇ、とお茶をお出しすれば、色々教えて下さいます

と、笑顔で言われて、その情報収集能力と順応性に舌を巻く。

ついこの前、海賊船の最奥で震えて泣いていたのが嘘のようだ。
でも、そうやって生き生きと新しい生活に馴染みかけているお姫さんを見るのは楽しいし嬉しい。


ギルベルトが最初に海へ出た理由は本当に決して明るいものではなかったのだが、今こうして大切なお姫さんと気のおけない悪友二人と一緒に世界を回ると考えたら、これはとても楽しく幸せな航海に思えてきた。



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