俺様とうさりす3

こうして少年の良い匂いのする手の中で色々整えてもらっていると、ふいにするノックの音。

『フランシス?もう博士の所でポケモンをもらってきたの?』
というのは女性の声だ。

「うん。もらってきたよ。今ブラッシングしてる」

『そう。ママにも見せて?入るわよ』
と、ドアが開いて、少年にそっくりの美しい女性が姿を現した。

しかし、少年の膝の上のアーサーを見て、女性の表情が硬くなる。
明らかに好意的ではないその視線。

「フラン…ゼニガメは?いなかったの?」
という声は固くて、アーサーは思わず少年の腕にしがみついたが、少年はアーサーを脇のテーブルに降ろすと、母親を見あげた。

「いたけど…でも、これ新種のポケモン……」
「でも水タイプじゃないわよね」
と、少年の言葉を母親は遮って言った。

「良い?フランシス。
我が家は代々水ポケモンの優秀なトレーナーとして知られている名家なのよ?
ボヌフォワ家の人間で最初のポケモンに水タイプを選ばなかった人間なんて、今までただの1人だっていやしなかったのよ?」

「でも…」

「しかもね、」
と、さらに少年の言葉を遮って母親は言った。

「ローマ博士の所の新種って言う事は、まだ能力の解明もできてないってことよね?
確かにポケモンは美しかったり愛らしかったりする事も大事だけど、強くもなくちゃいけないわ。
その子は強くなれるの?おじい様やお父様のように、リーグに出て入賞できる?」

「………」

母親の言葉に少年はもう“でも”と言わなくなっていた。

「どうすれば良いかわかるわね?」
との母親の問いに、ただ
「うい、ママン…」
とうつむく。

それに満足げに頷くと、女性は部屋を出て行った。


──…きゅぅ?

アーサーは少年の膝に飛び乗ったが、少年は複雑な顔でボールを手にすると

「…戻れ」
と、アーサーをボールに戻して立ち上がった。



たぶん…自分は少年の母親をがっかりさせたのだろう。
水ポケモンを望まれているのはもうどうしようもない。
でも強くなれば…頑張って強くなってバトルに勝ちまくれば、少年にあんな顔をさせずにすむんじゃないだろうか……

…強くなろう……
頑張って頑張って強くなるんだ……

少し悲しい気分でそう思って、アーサーはその夜ボールの中で眠りについた。
でもそんな決意は全く無意味だったのを、翌日目覚めたアーサーは知る。



ボールから呼び出されて目が覚めた。
そして飛びだすとそこは見慣れた研究所。

目の前には浅黒い肌の大男。
白衣が妙に似合わない。

普段はニヤニヤ笑みを貼りつけている顔に少し困った表情を浮かべたローマ。

それでアーサーは悟ったのだ。
自分はあの少年…フランシスに見捨てられたのだと。



きゅぅ……
自分の泣き声で目が覚める。
寝場所はタオルを敷いた小さな箱の中。

研究所で飼われているポケモンは赤ん坊以外、夜になるとたいていはボールに入って眠るが、アーサーはあれ以来ボールに入れなくなった。

入ると死にたい気分になって、ボールから出ると涙が止まらない。
その日一日は何も食べられなくて、食べても吐いてしまう。
水すらも飲めない。

そんな事が2,3回続いて、ローマもアーサーをボールに入れるのは諦めたようだ。
それからはこの寝床を作ってくれて、アーサーだけは毎日そこで眠っている。




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