さらに、アーサーは知らなかったが、水ポケモン使いの名家として知られるボヌフォワ家の一人息子だった。
そんな彼はその後、随分と長い間、アーサーにとって悲しい特別になるのだが、そんなことはアーサーもこの時はまだ知ることはなかった。
「うわ~、本当に見た事ないポケモンだね、お前。
今日から俺がお前のトレーナーだよ。よろしくね、おちびちゃん」
と、頭をそっと撫でる手は柔らかく心地良くて、アーサーはうっとりと目を細める。
他のポケモンのようにローマの研究所で産まれた卵から孵ったわけではないので、当然産まれた時には寄りそってくれる親はいなかった。
ローマ自身はというと、トレーナーに引き渡す事が決まっているポケモンについては、あまり情を通わせると譲渡先のトレーナーに懐きにくくなるだろうということで、特に慣れていない新米トレーナー用のポケモンには極力構わないようにしていた。
だからアーサーにとってこれが初めてくらいの自分だけに向けられた好意だった。
特に“お前の”トレーナーという言葉。
フランシスにとってはたいして深い意味のない言葉だったのかもしれないが、アーサーにとってはすごく特別な言葉だった。
嬉しくて嬉しくて…どう反応して良いのかわからないほど嬉しくて、ただただ“自分の”トレーナーを見あげて固まっていた。
その瞬間が、アーサーのポケモン人生の中で一番幸せな時だったのかもしれない。
綺麗な綺麗なフランシス。
ローマの研究所に居た頃に他の人間と言うものも見た事もあるが、その中で一番綺麗な人間だと思った。
そんな綺麗な人間が自分のトレーナーなのだ。
嬉しい…嬉しい…嬉しい…
「お前も可愛くしようね~」
とフランシスは綺麗な箱の中にいっぱい入ったリボンの中から、
「うん、これがお前の毛色に映えるかも」
と、綺麗なグリーンのリボンを出して、首元に結んでくれた。
たぶんすごく上等なものなのだろう。
ペット用ブラシで毛を梳いてくれる。
心がふわふわする。
こんな風に誰かが自分に特別に何かをしてくれたことなんて初めてで、それまで特に不幸だとか思っていたわけではないが、今すごく幸せだと思った。
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