一方でフランスは元々良くも悪くもイギリスに執着していたと思う。
だから常に仲が悪く殴り合っているように見えても、国策的に敵対しなければならなかった時ですらイギリスにトドメを刺そうとはしていなかったし、どういう方向性であれ常に隣の島国を欲し、手中に収めようとしていたように見えた。
喧嘩をしようと殴り合っていようとフランスはイギリスの唯一で、その座だけは他国が取って変わることはできないのだと、もう数百年以上はイギリスを見つめ続けていたプロイセンは悲しいほどわかっていた。
おそらくフランスとイギリスはじゃれあいのような喧嘩の時代を経て今は随分と穏やかな関係になってきていたし、どちらかが素直に心を打ち明ければもう片方はそれを受け入れるだろう。
そう、ずっと覚悟はしていたので、フランスが限界という言葉を口にした時点で、ああ、終わったな…とプロイセンはひどく悲しい気分で思った。
フランスの方が意地の張り合い、そして、今の距離を保ちつづけるのに焦れたということは、プロイセンの長年の片思いに終止符が打たれると言うことなのである。
フランスはなんのかんので”愛の国”を自称しているわけだし、恋人になったらきっとからかいの言葉の代わりに愛の言葉を紡ぎ続けるのだろうし、イギリスはなまじ優しい言葉を掛けられ慣れていないので、そういう言葉にひどく弱い。
だから同じように素直に愛の言葉を口にできなかったとしても、口ほどに物を言う大きなグリーンアイに嬉しさをにじませて、照れたように笑うのだろう。
その笑みを向けられる相手は自分でありたかったな…とは思うものの、それでも好きな相手が悲しい思いをしているよりは幸せそうに笑っていてほしい。
相手が傷つくことを考えたなら、自分が心から血を流し続けることくらいはなんでもないはずだ。
幸いにしてビールのジョッキに顔をうずめていたせいで、そんな沈みきった表情は読まれずにいたらしい。
ややテンションが高いフランスが言う
「やだ…DTのギルちゃんにさえわかるくらいお兄さん必死に見える?」
と、失礼な物言いはこのさい聞かなかったふりをしてやることにする。
ただ、何故DTだったかなんて本当に思っても見ないんだろうな…と思いつつ飲み干したビールは、なんだかいつもよりもひどく苦い気がした。
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