ファントム殺人事件オリジナル9

一条家に集合したコウとユート。
青くなる二人に紅茶を出すフロウが当たり前に落ち着いた様子で宣言した。

「もしアオイちゃんがクリスティーヌなら無事に戻るはずですよ?」
「なんでそんな事断言できるんだよ?」
とアオイに事情を聞いていたユートは反応するが、コウは意味がわからない。


「なんだ?それ」
と聞き返すと、フロウは前回アオイと話したオペラ座の怪人の”ファントム”の話と金雀枝の花言葉について語った後、今度はユートの質問に答えた。
「クリスティーヌは一度ファントムにさらわれるんですけど、すぐ返されるんですよ、オペラ座の怪人だと。最終的には恋人のラウルとハッピーエンドです」
「そう…なの?」
青い顔で聞くユートにこっくりとうなづくフロウ。

まあ…例によって勘がいいフロウが落ち着いているうちは大丈夫なのかもしれない…と、ユートも少しホッとする。
二人がそんな話をしていると、コウの生徒会関係の連絡事項のため使っている携帯の方のメルアドに知らないアドレスからメールが入った。

”クリスティーヌはラウルに返す事にしよう。彼女は苦しい恋に包まれて○○公園の悪夢に満ちた空気の中で眠っている。ファントム”

どこからのメールでもいい。
とりあえずアオイの救出が先だ!
コウは即加藤にメールが来た事を連絡し、自分達はタクシーで現場にかけつけた。
3人が公園に着いた時にはすでに警察が到着している。

「加藤さん…アオイは?!」
ユートが駆け寄ると、加藤は黙って担架の上で眠っているアオイに目をむける。
息を飲むユートだが、すぐ
「気を失ってるだけだ。ここで手足をしばられて口をガムテープでふさがれた状態で転がされてたが、怪我もない。一応事情聴取はさせてもらうことになる」
という加藤の言葉に大きく息を吐き出した。

一方コウの方はもう一つシートに隠されているもののほうに目を向ける。
「ああ、あっちは遺体だ。例の…テニス部の候補者、松野美沙だ。滑り台で首を吊った状態で見つかった。今の時点では他殺か自殺かわからんが…まあこの状況だと他殺っぽいな」
と、加藤がそれに気付いて言った。

「どう思うよ?名探偵としては」
厳しい顔のまま加藤が言うのに、コウはちょっと眉をひそめた。
「順番がおかしいです。何故サッカー部の筒井舞花じゃないんでしょう…。脅迫状の順番からすると彼女が先のはずです。さらにもう一つ。まあこれは…もうちょっと確信ができてから。」

とりあえず慌ただしかったので落ち着いて考える間もなかったため、一晩考えをまとめてからとこの時に動かなかったのを、のちにコウは後悔する事になる。

コウとユートはそのまま意識を取り戻したアオイに付き添った。
「良かったぁ~。夢だったんだ」
目を開けて目の前にユートをみつけると開口一番そう言うアオイを抱きしめるユート。
コウはその二人にクルリと背を向け、加藤の隣にいる現場責任者田村に
「先に夢…という事で聞き出します。落ち着いたらきちんと事実は話しますが、彼女は暴走気質でこれが現実と知ってしまうと普通に有益な情報を聞きだすのは無理なので…。」
と、言う。
田村は若干微妙な表情を見せるが隣に控えている本庁警視に逆らえるはずもなく…しかたなしに聞きたい項目をコウに伝える。

アオイがつけられていると感じてから目を覚ますまでの状況と目を覚ましてから見たもの…コウが全てを聞き出して伝えると、田村は
「夢として…ではなく本当に夢なんじゃないですか?それは」
と、あきれた声をあげた。
加藤はその言葉に問いかけるような視線をコウに向ける。

「これは…夢でもなんでもなくて現実です。
もちろん実際にオペラ座の怪人なんているわけはありません。
これは”ファントム”に扮した”実在の人間”が起こしたれっきとした普通の殺人ですよ。」
「犯人…わかってるのか?天才少年」
言いきるコウに加藤が声をかけると、コウは小さく息を吐き出し
「まあ…ちょっとまだ考えがうまくまとまらなくて…ピースは集まってるんですけど…」
と、うつむいた。
その視線がコウを見上げてるフロウとぶつかる。
ジ~っとコウを見上げるフロウ。

「コウさん…事件…解決して下さい。事件…解決して欲しいなぁ…」
できるでしょ?と無言の圧力。
国家レベルの圧力ははねのけるこの意志の強いカイザーも、たった一人のこの美少女の圧力には屈してしまうのが常だ。
今回も…抵抗は無意味だと思ったのか
「わかった、やってみるから…例の奴頼む。」
と、コウはクシャクシャっと片手で頭を掻くと、うつむいたまま諦めの息を吐き出す。
その言葉にフロウはにこぉっと小さな右手の小指をたてた。

「コウさん…今回の一連の事件を解決して下さい♪でないと…」
そこでちょっと言葉を切ってコウを見上げて天使の微笑み。
「針千本です♪」

そして
「あ~、今回の容疑者はですね、初日生徒会室に来ていた女子高生達以外の人間です。」
説明を始めたコウの言葉に加藤はぽか~んと自分を指差す。
それにコウはうなづいた。
「はい、とりあえず加藤さんも容疑者ということで、俺達4人、加藤さん、東さん、井川さん、和馬、相田、佐藤、黒河先生を海陽学園生徒会室へ集めて下さい。
集める理由は…そうですね、こうとでも言っておいて下さい。
海陽のミスコンをオペラ座の怪人になぞらえて、参加者の一人がクリスティーヌに当たる人物の目の前で殺害された。”ファントム”を確保する予定だが、”ファントム”と知らずに関わってしまっている人間に自体の説明をして安全を確保したいので、とりあえず生徒会室に来て欲しい。
こんなところですか」

「わかった。連絡を取らせよう。」
加藤が言うと警察官が走って行く。

「じゃ、俺達も行きましょうか。」
クルリと踵を返すコウに
「碓井、」
と加藤が声をかけた。

「なんでしょう?」
振り返るコウ。
「あれは…なんなんだ?」
加藤の質問の意味を、コウはちょっと天井に視線を向けて理解しようと務めた。

そして結論。
「ああ、あれですか。まあ…自分を追いつめたい時に使ってます」
苦笑するコウ。
「針千本…たぶん出来ないと本当に飲まされると思います。
やんごとない人種なんで例えとかじゃなくて…本当に飲むものだと信じてるんですよ、あれ。
だから…今回も事件は絶対に解決しますよ?命惜しいから」
それだけ言ってまた反転するコウの後ろ姿に
「お前…大変なんだな…」
と、声をかける加藤。
それに軽く手を振り、コウは
「まあ…人生において絶対に勝てない相手の存在は、人間を大きくもしますから」
と、肩をすくめた。

その後コウ達と加藤は学校に向かうため警察を出かけたが、そこで警官の一人が慌てて追って来て加藤を引き止めて耳打ちをする。
「そうか。わかった。詳しい事がわかりしだい連絡しろ。」
加藤の顔色が変わる。
「どうやら…手遅れだったらしいぞ。」
警官が下がると、加藤はコウを振り返った。
「今学校の方に生徒会室を使うため門を開けておいてもらえるよう連絡をいれたんだが、すでに門は教師によって開けられている状態で…」
「黒河先生…ですか?」
加藤の言葉をコウがさえぎる。

「ああ…もしかして…先生が犯人だとわかっていたのか?」
加藤が少し驚いたように言うのに、コウは
「ある意味…ですね」
と微妙な肯定の言葉を使った。
「予測はついているみたいだが念のために説明すると、黒河は学校のイチョウの木で首吊り死体で発見されたそうだ。おそらく自殺だろう。側にワープロ打ちだが遺書があった。
それには今回の一連の事件への関与を認める記述があったそうだ。
内容はお前の携帯に転送するな。」
普通ならまず入って来ないリアルタイムに近い情報。
さすがOBいると便利だな、とコウは苦笑しつつ転送された遺書に目を通した。

そこには学校でアオイに一目惚れした事、しかしアオイには年齢相応にして優秀な人材であるコウという彼氏がいるので自分のような老人はふさわしくないであろうと思った事、それでもアオイのために何かしたいと思った事が綴られていた。
そして…アオイに花を贈り、アオイがミスコンで優勝するのに邪魔になるであろう有力な候補者を排除しようとした事、しかし自分のした事を振り返るといつまでも逃げ切れないであろう事を悟って死を選ぶ事にしたと書かれている。

それをコウと同じく読み終え、
「老いらくの恋という事で…事件解決か。呼び出しキャンセルしていいか?」
と、加藤が言うが、コウは首を横に振る。
「いえ、解決はしてませんよ。ただ、犯人が確定しただけです。呼び出しはそのままでお願いします」
と、そのまま外へと足を踏み出した。

そして…黒河の遺体発見現場に向かう警察に混じって加藤と共に海陽学園につくコウ達。
そのまま生徒会室へ一番乗りで辿り着く。


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