アオイはどうしただろうか…。
ユートが行ったならまあ心配はないだろうが…。
何かあれば連絡くらいあるだろうし…と無理矢理自分を納得させてまた書類に向かうコウ。
もちろんトラブルがあれば解決にも向かう。
物品が足りないだの、隣が自分達の方まで割り込んでくるだの、些細な事で生徒会室に苦情を言いにかけこんでくる一般生徒。
まあ…しかたないのだが、忙しい。
「碓井を出せ!」
かけこんできたのは一般生徒だけではないらしい。
どこかで聞いた声に、コウはため息まじりに立ち上がった。
「東さん…面会は昨日だったはずですが?」
そこには頭から湯気を出して東が相田と言い争っている。
「今日は面会じゃなくサッカー部のOBとしてやってきたっ!」
また…ミスコン関係か?と本気でため息しかでないコウだったが、東の
「うちの候補者の所に今脅迫状が届いたらしいぞ!
”ミスコン降りろっ。さもなくば災いがふりかかるだろう”なんてふざけた内容の!
しかも相手ファントムとかふざけた名前名乗って!調査しろっ、調査っ!」
という言葉に凍り付いた。
また”ファントム”か…。
顔色を変えるコウに東は
「何か知ってるのか?」
と聞いてくる。コウは言うべきか迷ったが、結局
「俺の友人のアオイ…昨日ここに来てたやつですが、そいつの所にも”ファントム”を名乗る奴から謎のカードが届いてまして…」
と、打ち明けた。
「一応調査しますので、その脅迫状を持って来てもらえるように交渉して頂けますか?
警察もそれだけでは動いてくれないでしょうし、状況によってはミスコン自体行うかどうかの検討もしなければなりませんので。」
とのコウの言葉に、東は慌てて
「何言ってる?!海陽の伝統だぞっ!!そんな脅迫状一つで中止させるつもりかっ!みっともない!!
お前何件も事件解決したんだろうがっ!そのくらいなんとかしろっ!!中止なんて絶対に許さんっ!
脅迫状ならここにある!部長の越智から連絡きてすぐ車飛ばして候補者の家に行って取って来たっ!」
と叫んで便箋を押し付ける。
この期におよんで伝統もクソもない気が…とは思うものの、一応まだ実害がでてないだけに何とも言えない。
見るとそれはごくごくありふれた白い便箋に
”ミスコン降りろ。さもなくば災いがふりかかるだろう”
というワープロの文字と、その下にファントムの署名。
アオイのカードと同じく署名もワープロ。
「とりあえず…お預かりします」
とだけ言ってハンカチごしにその手紙を受けとると、コウは和馬に
「悪い、今日もう上がらせてくれ。ちょっとこの件について調べたい事がある」
と断ると、荷物をまとめた。
そしてアオイに電話して、これから向かう旨を伝えてアオイの家に急ぐ。
ファントム…身近に2件となるとやはり同一人物の仕業か…。
サッカー部の候補者の方はわかるが、何故ミスコンの候補者でもないアオイに?
アオイの自宅に着くとユートもいる。
事情を話して念のためとすでにゴミ箱に入っていた包み紙とリボンと共にワープロでメッセージが書かれたカードも預かる。
その上でもらった花をみせてもらった。
「これ…なんて花だろう…」
秀才…といえども全てに詳しいわけではない。
当たり前に見覚えのない花に首をかしげるコウに、アオイが
「金雀枝(えにしだ)っていうんだよ」
と答えた。
「詳しいんだな、アオイ」
と感心したコウにアオイは
「フロウちゃんに教えてもらったんだけどね」
と種明かしをして、コウを納得させた。
確かに…フロウは植物やら花言葉やらそういう物にえらく詳しい。
とりあえずその日は回収出来る物は回収して、コウは自宅に戻った。
翌日…生徒会室でカードと便箋両方を前に考え込むコウの机に、相田がソッとコーヒーを入れて行ってくれた。
しかし…
「頼光君、忘れ物♪優波から預かって来たわ♪」
そこにいきなりふんわりと漂うフローラルな香り。
「おお~~??!!!」
ざわめく生徒会役員一同。
コウは青くなって額に手を当てた。
「優香さん…」
「なあに?」
彼女のフロウにそっくりな…どうみても20代にしか見えないその可愛らしい女性は目の前にチラチラと弁当をちらつかせた。
「あなたは、どこまで来てるんですかっ!!!」
コウはガタっと立ち上がって言う。
「だってぇ、優波が”コウさんきっと忙しいし何かしながら食べられるお昼届けてあげたいんだけど”って言うから~♪学園祭前って部外者でも入れるって言うし、優波がね作ったのを持って来たの♪」
と、キャピっと言う優香にがっくりと机に手をついて肩を落とすコウ。
「姫の…お姉さんか?」
コソコソっと言う和馬にコウはやはりコソコソっと
「母親…」
と答えて、
「ええ~~!!!」
とまた一同驚きの声をあげる。
「優波さん…というのは?」
よりによって…教師にここまで案内させたらしい。
優香を案内して来た黒河がコウに聞く。
あ~もしかして会ってなかったか、と、コウは
「俺の…交際相手です」
と答えた。
「交際相手の…?今年は君の交際相手の女性が生徒会からのミスコンテスト出場者だと聞いたが?」
「はい、その彼女、一条優波の母の一条優香さんです。
ちょっとやんごとない人達なので…先生に案内させるなんて本当に申し訳ありませんでした。
できればなかった事にして忘れて下さい」
まあ…良くも悪くも常識にこだわらないところのある黒河で良かったと、コウは心底思った。
これが他の教師だったらホントになんと言われる事か。
「まあ…貸し一つという事にしておこうか。
君がいつか出世したら、借りを返してくれたまえ。楽しみにしてるよ。
そのかわり君の未来のお母様は私が責任を持って門までお送りしよう」
と初老の教師はにやりと楽しげに言うと、優香を伴って生徒会室から退場して行った。
ハ~っとため息をつくコウ。
一気に疲れた。
「すごいな、コウ。素晴らしいお母様だ」
爆笑しつつ言う和馬。
これでまた当分いたぶられるんだろうな、と、コウはあきらめの息を吐きだした。
その後続く来客。
相変わらず続く各部、各クラスの小競り合い。
”ファントム”について考える間もなく一日が過ぎて行く。
疲れた一日だった…色々な意味で…。
コウはその日はいつものように一条家に帰った。
「姫~…頼むから優香さんに弁当届けさせるのはやめてくれ…。」
家に帰って部屋に二人になると、まずため息まじりに哀願する。
そう…”お願い”だ。
そこでフロウに”嫌”と言われればそれまでなくらい、コウは彼女に弱い。
幸い彼女の方は”優香に届けさせる”という事にこだわりを持っている訳ではないらしい。
「じゃ、朝迎えに来て下さいね♪学祭の間は朝早いなら私も早く出ますから♪」
とにっこり。
いつもは朝学校に一緒に行っているのだが、学祭の間はいつもより30分ほど早いので先に行っていた。
しかし今回は彼女の方が合わせてくれるという。
より好きなのは自分で…いつもいつも先に意思表示をするのも自分で…合わせるのもいつも自分なので、たまに相手から合わせてもらえると愛されてる気がして嬉しい。
まあそれはおいておいて、コウは事件の方に頭を切り替える。
とりあえず…”ファントムが”とフロウが怯えたのだ…。
すでに2カ所にアクションを起こした”ファントム”がいつかフロウの前に現れるのだろうか…。
ミスコンの参加者と言う事は…脅されるんだろか…。
コウは念のために見せてもらったサッカー部から参加する候補者、筒井舞花の顔を思い浮かべた。
フロウには遥かに劣るとはいっても一般的には美人の部類だと思う。
アオイだって不細工なわけではない。十人並み以上ではあると思うし、素朴な可愛さはある。
しかし一般的には舞花の方が美人だ。その舞花よりアオイがいいんだろうか…。
そして…こんなに可愛いフロウに脅迫状を送る一方でアオイに愛を語るカードを送るんだろうか…。
謎だ…。
「そう言えばコウさん…」
そんな事を考えていると、フロウは花瓶にさした黄色い花を指差した。
「私にも届きました…お花」
「は?」
ぽか~んとするコウにフロウは繰り返す。
「お花…届きました。アオイちゃんの金雀枝とは違ってキンセンカですけど…。
”ファントム”さんは黄色が好きなんでしょうか?」
と、カタっと机の引き出しをあけて、カードを取り出すとコウに差し出した。
”ラウルといつまでも幸せに。クリスティーヌの幸せだけを切に願うファントムより”
あきらめた…んだろうか…。
ポカ~ンとしながらも、ほとんど条件反射でハンカチごしにそれを受けとるコウ。
これで終わるのか…。
文章からするとそんな感じだよな…。
結局…いったいなんだったんだろう…コウは本気でわからなくなった。
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