ファントム殺人事件オリジナル5

やらなければならない事はてんこ盛り。そんな風に忙しく机に向かっていると、
「コウさん…午後少し抜けちゃまずい…ですよね?」
と、コウにおそるおそるといった感じに相田がお伺いを立ててくる。

普段は忙しく立ち働く相田があえて言うのだ、

「ああ、剣道部ならいいぞ、行って来い。一応部員だしな、顔出さんのもまずいだろ」
OBの面会もあと一人なら雑用は会計の佐藤にやらせればいい、と、コウは許可する。
が、相田がその言葉にホッと笑みを浮かべると、その相田の頭を後ろから和馬がどついた。


「お前俺に聞くと却下されるからって、何コウに直接聞くなんて姑息な手を使ってやがるっ!」
図星だったのかきまり悪そうに笑って頭を掻く相田。

ここで放置すると上下関係が鬼のように厳しい和馬に相田がいびられるのは火を見るより明らかだ。

コウはしかたなしに仲裁に入った。

「まあしかたないだろ。剣道部なら警視庁の加藤さんもOBとして顔出すだろうし、生徒会役員だからって部の方に顔出す暇もないなんて余裕のないとこみせたくないだろ、OBに」
コウの言葉に和馬は
「…ったく…あの人も部にまで顔だすなんて暇だな。東じゃあるまいし…」
と、顔をしかめた。

「東”さん”だろ」
それをコウが訂正すると、和馬は
「あのすけこまし馬鹿なんて”東”で充分だ。部活なんて興味ないくせにナンパ目的でOBとして出入りする為だけにサッカー部とかに籍だけ置いた馬鹿だぞ?今年のテニス部の候補者の女にも実は手出してたとか噂だしな」
ときっぱり。
そこまでやってたのか…と東の行動性に感心すると共に、コウは早川和樹と同様ありえない情報網を持つ和馬に感心する。

「あ~、今年もサッカー部の候補者美人らしいっすよね。じゃ、東さん入り浸んのかなぁ」
という相田に和馬は
「何をいうか。姫だすなら今年はうちがぶっちぎりだろっ。相手が金出してプロやとったところで、あれで負けるなんてありえん。」
と言ってフンと鼻をならした。
結局…勝つ事に意義があるらしい。
「ま、そういうことで、相田は剣道部顔出して来い。会長命令だ」
と、それに苦笑してコウが最終的に命じると、和馬も仕方なく
「会長が言うならな…。そのかわりタダでは戻るなよ?せめてサッカー部の偵察くらいはしてこい」
と厳命を下した。

午後の面会は13時からで1時間くらいで終わったのでコウが一息ついていると、相田が戻って来て
「コウさん、良かったらちょっと剣道部顔出しません?」
とこそこそっと耳打ちした。
「加藤さんの差し金か…姑息な…」
これを地獄耳と言わずなんと言おうか。
本当にコソコソっと戻って来てコソコソっとつぶやいたのに、いつのまにか和馬が立っている。

「あ、いえ…その…たまには少し手合わせしたいらしくて…」
焦って言う相田に、和馬はハ~っと腰に手を当ててため息をついた。
「まあいい。”剣道部に行け”とは言わんが、少しコウも愚民と戯れて気晴らししてこい。
オヤジの相手ばかりで肩凝っただろうし」
確かに実はそうだったりするのだが…
「いいのか?」
と、コウは書類を前に和馬を見上げる。
「良くなきゃ言わん。なんかあったら放送で呼び出すからさっさと行って来い」
シッシッとばかりに追い立てる様に手をふる和馬に礼を言うと、コウは相田と共に剣道部部室へと向かった。

「お~カイザー、お待ちしてましたっ!」
部室のドアをくぐると、わ~っと集まる剣道部部員。
コウは基本的には部活はやってないが、剣道部には相田つながりでたまに助っ人にくるので人気者だ。
その部員に混じって加藤が竹刀を背負って立っている。
「手合わせでもしますか?」
やる気満々なのかと苦笑するコウの腕をつかむと、加藤は部室の隅の方へとコウをうながした。
そしてコソコソっと耳打ちする。
「…碓井…婦警貸してやろうか?」
「はあ?」
加藤の唐突な言葉にぽか~んとするコウに、加藤は太い眉をしかめて言った。

「さっきな、ちょっとだけサッカー部のぞいたんだが…東の馬鹿が来てて、今年の優勝はダントツでサッカー部だとか偉そうに言って帰っていったんだ。もうな、今年は生徒会も目じゃないってもう自慢たらたらだったんで…あいつにだけは勝たせたくないっ!そのためなら協力するぞ!」
そこまで仲が悪いのか…と、コウは内心ため息をついた。
確かに東と加藤は対極で気が合いそうにないが…。

「和馬といい、加藤さんといい、なんでそこまでそんなものに燃えるんですか…」
さすがにOB相手にくだらないとは言えないので、コウがそう言うと、加藤は
「生徒会は生徒代表だぞ!その生徒会がそんなんじゃいかん!」
と力説する。
「婦警の中にも美人はいるぞ、どうだ?」
もう…本当にこのままでは連れてきかねない。

「その美人の婦警さんは…剣道部にどうぞ。うちは俺の彼女に出てもらうんで」
コウがしかたなく言うと、加藤は目を丸くした。
「碓井の彼女か…。美人か?」
他ならもう思い切り肯定するところだが、さすがにOB相手にそれはできない。
コウは
「一応…ミス聖星らしいですよ?写真みます?」
と、携帯を取り出した。
コウの携帯の待ち受けは最愛の彼女だったりする。
「おい…これ…大幅修正とかじゃないよな?」
それを見て興奮気味に言う加藤に、コウは淡々と
「本物はもっと美少女です」
と、答えた。

「よっしゃ~!勝った!!」
その答えに加藤は拳をにぎりしめて叫ぶ。
もう…本当にみんな勝ち負けが好きなんだなぁと、コウはそのテンションの高さに感心した。
「碓井っ!これ絶対に東に言うなよっ?!当日になってほえ面かかしてやるっ!」
もう…本気で誰の為の何の勝負なのかわからなくなってきた。

その後加藤との3本勝負。
適当にあしらえるレベルではなく手加減なんてしようものならもうバレバレという、にっちもさっちも行かない状態で思わずコウも真剣勝負になり、1本ずつ取った後で最後の一本、ぎりぎり勝ちを拾うと、加藤は悔しがりながらも
「もうお前警視庁くるしかないなっ!財務省とかで偉そうに椅子でふんぞり返るのも、暗い研究室でうつうつとすんのも絶対に似合わんぞ!絶対に警視庁来いよっ!」
と、ガシっと肩をつかんで叫ぶと帰って行く。

途中でたまたまやはりOBとして科学部に顔を出していた井川に会うと、加藤はまたさきほどのミスコンの話を出して、コウの携帯を取り上げると井川に自慢する。
「確かに…すごい美少女だな。」
井川はそう言いつつも、
「だけどあなたが自慢する事じゃないんじゃ?加藤さん。ホントに東さんとは犬猿の仲ですよね…」
と苦笑した。
それに対して加藤は否定もせず
「あの自分で動きもせんくせに偉そうな男とは本気で気が合わん」
と、口をとがらせる。
それにも井川は少し困ったような笑みを浮かべるにとどめた。
研究者というのは変人が多いと聞くが、昨日来た3人の中では一番穏やかで大人な人だとコウは思う。

(加藤さんも悪い人ではないんだが、あのテンションの高さが…)
と苦笑しつつ、井川と分かれて加藤を見送ると、コウは相田と共に生徒会室へと帰って行った。


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