と、それでも下衆はどこまでも下衆らしい。
だが、本当に知っていて速やかにお姫さんを救出できるとしたら、惜しいものなどなにもない。
「純金だ。売ればそれなりの値段になるだろう。
誘拐の片棒を担いだ人間にやるものとしては、やや上等すぎるものだが、まあいい。
さっさと案内しろ」
そう言うと、男は愛想笑いをしながらそれをしっかり懐にしまいこみ、揉み手をしながら先に立って案内を始めた。
すっかり舌がよく回るようになった男の話では、エスピノサは商会を復興するための資金稼ぎに、この地を離れる前に量より質ということで、高く売れそうな娘を探していたそうだ。
そして今回、容姿が美しいだけではなくどこか気品があるため、何故こんな僻地にいるのかはわからないが、おそらく身分の高い貴族の姫であろう娘を手に入れたことで、いったんこの地を離れてアラブに行って、娘を高額で売ってその金で船団を作り直そうとしているとのことだった。
間違いない。お姫さんだ……
と、ギルベルトは思う。
そういうわけで今幸いにもエスピノサの部下の多くが思いがけず早く出発することになったために出港準備に追われていて、この館には人が少なくなっているらしい。
そんな話を聞きながら、実際に廊下を歩いていても誰にも会わないので、嘘ではないのだろう。
ここで誰かとかちあわせてお姫さんを人質に取られると辛い。
だからそうなる可能性が低くなっているという幸運を、ギルベルトは神に感謝した。
こうして足早に進む邸内。
それは2階の奥から2番めの部屋だった。
ドアの前で男が止まる。
ドアノブを回しても当然のように鍵がかかっているため、銃で撃ち抜く。
おそらく怪我をして傷などを作らないためだろう。
部屋は毛足の長い柔らかい絨毯が一面に敷かれていて、テーブルやソファ、それに寝台なども角のない丸いフォームをしている。
一応拉致とは言え、上質の売り物として大切に扱われていたらしいことにホッとしつつ、ギルベルトは部屋の中へと足を踏み入れた。
廊下ではカツカツと音のした靴も、部屋ではふわりふわりとした絨毯のせいでまったく足音もしない。
どうやらベッドに横たわっているようなのに起きてこないのは、そのせいだろうか。
そう思って部屋の奥の寝台に近づいて覗き込んだ瞬間、ギルベルトは息を呑んで、青ざめた。
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