いくらエスピノサが手つかずのままで売り飛ばす気があっても、拉致して連れて行かれる途中で乱暴されないなんて保証はない。
各村の長老達が集まりやすい場所ということで、お姫さんのいる船から離れてここへ出向いてしまったことを、ギルベルトは死ぬほど後悔した。
とにかく一刻も早く探さなくては!と、とりあえず協力してくれるという村の人々の助けも借りることにして、お姫さんが拉致されたという場所と、港から近い位置にある隠れ家からあたることにする。
お姫さん、お姫さん、お姫さん、…無事でいてくれ!!
これ以上なく真剣に神に祈りながら向かった先は、欧州からはるか離れたアフリカの地だというのに、豪奢な欧風の洋館。
壊滅状態にまで追い詰めたというのに、まだこんなに余力があったのかと思われるほどには寂れることもなく、門の前には数名の見張り。
さらにその門の奥にある入り口にも見張り。
以前と違っていくつも隠れ家にそれなりの警備を確保するほどには余裕はないだろうから、これはビンゴかもしれない。
恩人に恩を返したいと、東の村の長老が貸してくれた手練の護衛が、毒の吹き矢で音もなく左右2名ずついた見張りを倒す。
お姫さんが囚われているかもしれないので、極力みつからないように…西の村の長老が貸してくれたのは動物を使う若者で、猿を使って一瞬入り口前の見張りの気を引いてそのスキに、別の猿が開けた門の隙間からギルベルトと数人の護衛達が中に潜り込んだ。
そうして入り口の見張りをまた吹き矢で一撃。
建物内に侵入した。
建物内は特に武装した人間がいる様子もなく、そっと音を立てないように、大理石の廊下を進みながら左右のドアを確認していく。
そのうち1つのドアに男が数人。
1人を残して心臓を貫くと、最後の男は怯えて両手をあげた。
「…こ…殺さないでくれっ!!金の場所なら…」
というのに男の眉間に
「静かにしろ。騒いだら殺す…」
と、レイピアを突きつけた。
すると男は泣きながらコクコクと頷く。
どうやら荒仕事をうけおうような、危険なれした肝の座ったような男ではないらしい。
みつけたのがそんな男であることも幸いだったと思う。
そんな事をちらりと思いながら、ギルベルトは男の顔を覗き込んだ。
「つい1時間ほど前…欧州の令嬢を攫ってここに連れて来たはずだが、部屋はわかるか?」
そのギルベルトの言葉に男は視線を泳がせる。
ああ。これは知っているな…と思えば、言うことは1つだ。
「部屋を教えて開放されるか、言わずにここで目玉をくり抜かれた上で喉の奥にレイピアを突き刺されるか、選ばせてやる。
さあ、どちらを選ぶ?」
こういう時は普段はキツイと敬遠される己の顔が役に立つ。
目の前の小者には、今の自分はさぞや冷酷な魔王のように見えていることだろう。
まあ…実際、お姫さんのためなら微塵も容赦をする気はないのだが……
そこで男は予想通りというか、予想したよりあっけなく降参した。
もとより金でつながった関係など、金がなくなりかけている状況では薄氷よりもまだ脆いものだ。
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