「ふざけるなぁっ!!!」
全身から血の気が引いた。
体が恐怖で震える。
全身が総毛立って、殴り倒したフランシスの襟首を掴んで引きずり起こせば、彼は口の中を切ったのか唇の端から血を流しながら、それでも言い訳一つせず
「10分も経ってないと思う…。
嬢ちゃんを探して…」
と、だけ言って涙を零した。
フランシスが言う嬢ちゃん、つまりギルベルトのお姫さんが誘拐された。
フランシスが買い物へと連れ出した時に市場から路地に多人数で誘導されたらしい。
「そもそも何故守れないのに連れて行ったっ?!!!」
と、血を吐くような思いで怒鳴りつける。
だいぶ危険な勢力を駆除したとは言え、ここはまだまだ治安の悪い東アフリカだ。
エスピノサ商会自体は解散させたが、まだその総帥は拘束していない。
危険はまだ去っていない。
だからこその今日の地元の長老達との会合だ。
これからエスピノサを拘束すべく、やつの名義の建物を潰して回る。
それが済んで大ボスの首を取ったなら、東アフリカ一栄えた街をお姫さんに見せてやろう…と、それまでは可哀想だが安全な船の一室へと隔離しておいたというのに……
そう、腕に覚えのある自分やアントーニョでさえ、万が一の危険を考えて連れ歩かなかったのだ。
それをっ!!!
そう思うと、いっそのこと殺意がわく。
これほど誰かを憎いと思ったことはなかった。
ましてやその相手が多少の問題はあるにせよ、これまで親交を深めていた悪友とは……
体中の血が沸騰しそうだ。
怒りでくらくらする。
それでも…平常心を手放すにはまだ早い。
怒りとは別に冷静に状況を判断しなければ……
「そいつらは『アラブで売っぱらえば…』と言ったんだな?」
と、確認を取って頷くフランシスを見て、ギルベルトは考える。
とどのつまり、アラブに大金で買い取る相手のつてがあるということだ。
無頼の輩でもそんな奴はそうそういない。
つまり…そういうことだろう。
「俺達はエスピノサの隠れ家を片っ端から強襲する。
フランは戻ってトーニョに俺が戻る前に港から出港しそうな船は片っ端からとめろと伝えろ。
止めるためならどんな手を使っても良い。
俺が責任を取る」
エスピノサはある意味人身売買のプロだ。
おそらく高額で売るつもりなら、少なくともお姫さんに危害を加えさせないはずだ。
手つかずである…ということも、値段に影響するだろうから……
「クソッ!」
そんな風に商品とするなら…と言う枠に大切なお姫さんを当てはめて考える自分にもヘドが出る。
そんな怒りを押し込めるようにギルベルトは強く拳を握りしめた。
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