フランシスに彼らを退ける力などないのだから…
そう考えれば、まだベターな選択を取るべきだろう。
「…フランシスさんは…開放してください……
あなた達に必要ないのなら…危害を与えないで。
そのまま返して…」
声は震えていないだろうか…
少なくとも手はドレスをぎゅっと握りしめていないと、ひどく震えてしまう。
「何もせず開放してくれるなら…私は大人しくついていきますから。
身分のある方に売るのなら、暴れて傷が出来たりしたら値が下がるのでしょう?」
そういうアーサーに、男たちはぴゅ~っと口笛を吹く。
「嬢ちゃん…それは……」
とさすがに漏らすフランシスには、
「私はどちらにしても連れて行かれるでしょうから…
フランシスさんが死んでも意味はありません…」
と、わずかに振り返って苦笑する。
ちゃんと笑えているかは自分でもわからなかったが…
こうしてフランシスは開放されて、アーサーは手足を縛られて目隠しと猿ぐつわをされた状態で、どこかへと連れて行かれた。
おそらく拉致された場所からはそう遠くはないと思う。
数分ほどたったときに目隠しを外されて目に広がった光景は、そこそこ立派な執務室のようなところだった。
目の前には立派なデスクがあり、その向こうには小太りの中年男。
こんな日差しの強い国にいるにしては肌が白く、茶を貴重としたチュニックに頭には同色のベレー帽をかぶっていた。
どことなく人相が悪い気はするが、無頼の輩のそれとも少し違う。
まあよくある、人を騙して財を為す悪徳商人のような人相だった。
「これはこれは…まるで熟練の職人が丹精込めて作った人形のように美しい女性ですね。
しかも美しいだけではなくて、どこか気品がある。
よくやりました。これならうまくすれば商会を立て直せるくらいの資金が調達できるかもしれませんね」
と、その人相にぴったりの悪逆非道なセリフを吐いてくれて、アーサーはむしろ感心してしまう。
「それでは丁重に部屋にご案内しなさい」
と、商品の確認は終わったとばかりに、男は部下に命じて、部下はアーサーを連れてその部屋を出た。
檻にでも入れられるのかと思えば、連れて行かれたのはなかなか綺麗な部屋だった。
床には毛足の長い絨毯。
家具は小さな丸テーブルと一人がけのソファ。
そしてふわふわのベッドだけだが、そのどれもが高級品なことは見て取れる。
ただ、何故かいろいろに金をかけているように見えるのに、テーブルに置かれた水差しとカップは木製だった。
パタンと部屋のドアが閉められると、内側にノブがないことで、ここはどれだけ高級品に溢れていても、おそらく幽閉用の部屋なのだなと気づく。
ああ…本当にどうなるんだろう…と思うものの、そもそもが王宮から海賊船に放り込まれて、その海賊船がまたギルベルト達に壊滅させられて、今度はスウェーデン海軍の船に…という時点で、もう激動すぎて、なんだか色々麻痺して来た気がする。
まあどうやっても男だし?
バレたら姉に身代金を払わせて、また海賊の船に…と、繰り返すことになるのだろう。
「色々考えてもしかたないか…」
と、アーサーはすでに女のふりをするのも意味がないかとウィッグをゴミ箱に投げ捨てて、地毛になると、どうやら果実酒が入っているらしい水差しに手を伸ばした。
これもまた上等なものらしく、顔をちかづけてみると、芳醇な香りがする。
部屋は家具は上等でも暇を潰せそうなものもないし、もう飲むだけ飲んで寝るか…と、アーサーはある種開き直って、果実酒を木のグラスに注ぐと一気にあおった。
強い酒ではないはず…ないはずなのに、クラっとくる。
…もしかして……クスリ……?
そう思った時にはもう身体が動かない。
動いたところでどうできるわけでもないのだが…
そう思いながら、アーサーはその場に崩れ落ちた。
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