暑い日差し、それに人々の活気が眩しい。
アーサーはフランシスとはぐれないようにその腕に手をかけ、物珍しげに市を見て歩いた。
樽に入ったナッツの類をフランシスはたっぷり購入して、それを自分で1つ齧ってみたあと、アーサーの口にも放り込んでくれる。
塩味がないので味としては物足りないが、カリカリとした食感は美味しい。
これにドライフルーツを数種類。
こちらは普通にこのまま食べても美味しかった。
「今日のお茶の時間にはちょっと間に合わないかも知れないけど、明日はフルーツたっぷりのタルトとかも良いねぇ」
と、生のフルーツも買ってご機嫌で言うフランシス。
もちろんアーサーだってごきげんだ。
フランシスの作る菓子はいつでも美味しい。
今日のお茶には間に合わないかも知れないが、夕食のデザートもフルーツがふんだんに使われた凝ったものになりそうだ。
そんな事を考えながら二人して笑顔で市場を歩く。
その日はすごく人が多くて、しっかりと腕を掴んでいないとフランシスとはぐれてしまいそうで、アーサーは必死にその腕を掴んだ。
それでもフランシス自身、この人波を乗り切れず、船が泊まる港への方角からどんどんぞれている気がする。
それが実は意図的なものだとわかったのは、すっかり本来進む方向から外れたあたりで、ドン!と後ろから路地裏の方へと突き飛ばされたときだった。
…え……?
と、後ろを振り向くと男が5人ほど。
そう言えば人混みの中で見かけた気もするが、もしかしてわざとアーサー達を囲んでこちらに誘導していたのか…
そして突き飛ばされた路地裏にも5人。
「…お金なら……」
と、フランシスが財布の入った袋に手をやろうとするが、その手をナイフの裏でペタペタと止められる。
「…お金はなぁ、ちょっとやそっともらっても足りねえんだよな。
家いっぱいくらいの金貨ならとにかく、そんなはした金要らねえよ」
ニヤニヤと笑いながら距離を詰めてくる男達。
「ちょっとまってっ!じゃあ家いっぱいの金貨払うからっ!
お嬢ちゃんは返してあげてっ!!」
と、アーサーをかばうように抱きしめるフランシスの身体はひどく震えていた。
これがギルベルトやアントーニョならここで一戦あるのかもしれないが、少なくともアーサーが北海の黒鷲号に乗って以来、フランシスが戦っているところなどみたことがない。
それでもなんとかアーサーだけでもというフランシスに、男たちはニヤニヤと言い放つ。
「その、お嬢ちゃんだけ欲しいんだよっ!
これだけの娘ならアラブで売っぱらえば家いっぱいは余裕だぜ」
そして続いて
「ま、男は要らねえな。
体力もなさそうだし、労働力にもなりそうにねえ」
と言う言葉。
それにアーサーとフランシスは青ざめた。
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