ギルベルトさんの船の航海事情_25


こうしてしばらくほぼ軟禁生活だったわけだが、それが終わったのはつい最近。
海戦でもシェア争いでも勝利を続け、ついにエスピノサ商会を破産に追い込んでの、ソファラ入り。

かつてはエスピノサの本拠地だったその街は、一方でドラッグを蔓延させた上で土地や財産をだまし取るエスピノサに搾取されていた人間がほとんどで、それを追い出して、一方で私財を投資して商業ルートや商品開発、治安管理など、街の正常化に務めるギルベルトを諸手をあげて歓迎した。

そんな中で知ることになったのが、覇者の証というものの存在。

それは誰がどういう目的で作ったのかはわからない。
ただ世界を北海、地中海、アフリカ、インド洋、東南アジア、東アジア、新大陸と7つに分けた地域に点在する財宝で、それを持つものがその地域の覇者としてみとめられるとのことだった。

そしてそれを見つけ出す鍵となる地図はそれぞれ二つに分かれていて、それも7つの地域にそれぞれ伝わっていると言われている。

西アフリカで海賊退治を頼まれて、それをこなして依頼先のギルドに寄った時に、何かわからない半分に割れた石版をもらったのだが、ここソファラのギルドでも、すっかり立ち直った街の様子に口々に礼を言ってくる町民の1人が、このあたりの長の家の者だったらしく、自分の家に代々伝わっていたもので何か重要なものらしいので絶対にエスピノサに渡したくなかった。

この先も彼のような者が絶対に現れないとは言えないし、その時に自分の子孫が守りきれるかわからないからと、渡してこられたのが、なんとその石版の残り半分で、それらをあわせたら地図になったということで、その地図をたどっていくと、黄金の印が見つかった。
古文書によれば2~6世紀に栄えたアクスムという国の王が証文に押す時に使用していたものだという。


まあ、それ自体にどれだけの意味、どれだけの価値があるかはわからないが、とりあえずは覇者の証というからには、これでアフリカの覇者として認められるということなのだろう。


となれば、ギルベルトの旅にも具体的な目的が出来てくる。

あと6つの地域の覇者の証を手に入れること
それが叶って国に帰れば、国内的にも国外的にも大きな実績として認められるのだろう。



と、まあそんな感じに、アフリカに関してはある程度平定し、エスピノサが仕切っていた頃と比べれば雲泥の差といえるほどの秩序が回復した。

ギルベルトはそういうわけで、その日は街の長老たちの家に招かれていた。
アントーニョはしばらく酷使した愛用のハルバードの手入れを頼むために現地の武器職人の元へ。

その他みな、平和になった街の中で個人の買い物や船の物資の補充などに忙しく、このところ緊張状態が続いていたこともあって、どこか活気づいた空気が流れている。


そんな中で、出掛けのギルベルトに1人船で大人しくしているように念押しをされていたアーサーは、甲板から船を出入りする人々をぼ~っと眺めていた。


最後に街に降り立ったのはいつのことだっただろうか
たぶん西アフリカで金の髪飾りを買ってもらった時だ


海賊船に乗った当初、当たり前だがアーサーの髪は長くはなくて、海賊船でドレスを着るようになってからはウィッグをかぶっていた。

だが船に乗ってからは切ることもなく、なんとなくそのままにしていたこともあって、今では地毛でもかろうじて肩に届くくらいには届くようになっていた。

だからそれがウィッグと同じくらい、背中に届く長さになったらウィッグをやめて地毛にして、髪も綺麗に結ってみようかなどと思って金細工の店で髪飾りを眺めていたら、視線に気づいたアントーニョが買ってくれたのだ。

買ってもらったからには髪が伸びるまではつけないというのも失礼な話だと思ったので、それからは結い上げるとウィッグとわかってしまいそうなので、サイドの髪を少しずつ取って左後方でクルリと巻いて、それを髪留めで止めるという髪型をするようになった。

と、そんなことは置いておいて、とにかくアーサーは随分と長い間街に出ていないのだ。

ふと見るとなんと腕に覚えなどなにもないフランシスまで当たり前に船を降りようとしているのが見える。

「フランシスさ~ん!どちらに行かれるんですか~?!」
と、甲板を出てフランシスを追いかけて聞くと、フランシスはくるりと振り返って、なんと、

「ん~、今日のお茶の時間に食べるお菓子にいれるナッツを買いに。
すぐそこだし嬢ちゃんも行く?」
などと誘ってくれるではないか。


一瞬、自分が戻るまではくれぐれも部屋で大人しくしているようにと、念押ししてでかけたギルベルトの顔が浮かんだが、そのギルベルトの親しい友人のフランシスがそういうのだ。

きっとギルベルトも了承するに違いない
いや、違いなくないかも知れないが、アーサーも外に出たかったのだ。

ということで、アーサーはそう思い込むことにして、
「はいっ!行ってみたいです!」
と、差し出されたフランシスの手を取った。





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