「これでだいたい揃ったかなぁ。
今日のお茶は期待しててね」
アフリカのソファラの市場でのこと。
たっぷりのフルーツとナッツ類を腕にいっぱい抱えてフランシスが言う。
元は豪商の息子だと言うフランシスは、幼い頃から父親についていろいろな国を回っているだけじゃなく、自分がまだ行ったことのない地域の商品の知識も豊富で、美味い物も多く知っている。
見た目的にどうなのだろうか…と、思うような食材でも、フランシスが美味いというものはたいてい美味い。
ちなみに食材の買い物…といっても、皆の食事のものでは当然なく、ギルベルト達3人とアーサーとで時間が許す限り続けている午後のアフタヌーンティーの時の茶菓子の材料なのだが。
普段はギルベルト、またはアントーニョと2人きりででかけるということはたまにあるが、フランシスと2人きりというのは初めてだ。
まあ他の2人であっても、危ないからと滅多に下船はさせてもらえないのだけれど…
今日は船としても久々の寄港だった。
アーサーはこの船に引き取られるまでは海賊船の奥深くで引きこもっていたので知らなかったが、アフリカは主に勢力が二つに分かれていて、サン・ジョルディを中心とした西側はポルトガルの商会が仕切っていた。
そしてこちらは普通に金と商品を使ってわずかばかりの資金と航路を得るために平和的にシェアを手にいれていたのだが、問題は北海から欧州、欧州からアフリカ西側と、さらにその先に足を伸ばすためのアフリカ西岸の航路がしっかり確保できたということで、喜望峰のあたりにあるケープタウンに寄港した時から、様相と事情ががらっと変わった。
欧州から遠く足を伸ばしたアフリカは、西側でも普通に治安がいいとは言えなかったが、東側はそんなレベルではない。
いいとは言えないなんてもんじゃなく、最悪と言っていい状態だ。
東側はエスピノサという奴隷商人がほぼ仕切っていて、ドラッグと人身売買がはびこっている。
海賊すら彼の手のもので、アフリカの人間を欧州に労働力のための奴隷として連れ帰るだけでなく、ギルベルトが最初アーサーがそうではないかと心配したように、欧州の女性をかどわかして、東アフリカから北上したアラブの貴族や豪商に売り渡しているということだ。
だからギルベルトは東アフリカに入ってからはとてもピリピリしていた。
海賊とも何度か交戦があったが、その際にはアーサーを船の最奥の部屋から絶対に出さず、そのドアの前にかならず手練の護衛を二人置いた。
そこまでしても心配らしく、戦闘が終われば事後処理もそこそこに、自らがアーサーの部屋に無事を確認しに来る始末。
ギルベルトは確かにいつもいつも慎重で心配性な男なのだが、彼だけではなく、普段はとても楽観的なアントーニョでさえ同じことをするので、おそらくそれだけ危険な地域だということなのだろう。
だから東アフリカに入ってからは下船どころか、積荷の上げ下ろしや食材の調達などで船の乗組員以外の人間が出入りする時にはアーサーは必ず自室で3人のいずれかとこもらされ、唯一外に出られるのは、他に船影が見えない時限定で甲板の散歩くらいだった。
もちろんそれもギルベルトかアントーニョがぴったりと護衛している状態である。
海賊船の時はそんな引きこもり生活も当たり前で、それほど気にもならなかったのだが、ひとたびこちらの船での自由で楽しい生活を満喫してしまうと、少し退屈だ。
それでもそんな状況の街に降りれるはずもなく、それはギルベルトがエスピノサ商会を壊滅させ、東アフリカの商業権をほぼ手中に収めるまで、かなり長い間続いたのだった。
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