ギルベルトさんの船の航海事情_23

──はぁぁあ~~!!ねっ!絶対っ!!絶対に嬢ちゃんは幸せにしてあげようねっ!!

毎度おなじみ、すっかり日課になったあ~ちゃん会議inギルベルトの執務室

前日のアントーニョに引き続いて、今日はフランが涙しながら訴える。


「今日はお前かよっ!今度はどうした?何があった?
まあ、お姫さんを幸せにするってのはお前に言われるまでもなく、あたり前のことだけど」

お姫さんは可愛い、日々可愛い。
そして可愛いだけじゃなくて、謙虚で素直で気立てが良く、優しい。

それはギルベルトの認識として当たり前のことだったので、全力で幸せにするのに異議などない。

だが、自分以外がわざわざこうやってそれを声高に主張するということは、何かあったんだろうなとは思う。


「お嬢ちゃん…………やさしいっ!!!」
と、ダン!と机に突っ伏すフラン。


「そんなん今更やん?
親分のあ~ちゃんは、天使やさかい、こんな見境なしに女に手ェ出して自国に入国禁止になったアホにでも優しゅう接してくれるけどな、調子に乗ったらあかんで?
あの子に何かしたら、自分、ハルバードでみじん切りにして魚の餌やで?」
とにこやかに怖い発言をするアントーニョに、フランシスは

「やだ、何この子、こわいっ!!!」
と、慌てて飛び退いて距離を取る。


もうこのあたりのやりとりはいつものお約束みたいなもので、つっこみを入れる気にもならない。

「トーニョやめとけ。実際フランが死んだら困るだろう?」
とギルベルトが口を挟むと、アントーニョは

「な~んも困らへんのちゃう?
普段は親分があ~ちゃん見ておれるし、有事で親分が戦闘中にはギルちゃんが見とればええやん。
親分が見てられへん唯一の時に、フラン、剣の1つも振れるわけやなし、あ~ちゃん守られへん役立たずやで?」

と、どきっぱりそのギルベルトの言葉を否定するので、フランは

「ひどいっ!」
と、芝居じみた様子でハンカチを噛みしめた。

「トーニョ、言い過ぎだ」
と、それにため息交じりに続けるギルベルトに
「ギルちゃんっ!やっぱりギルちゃんはお兄さんの味方だよねっ!」
と、フランシスはキラキラした目で言うが、ギルベルトはアントーニョ以上に淡々とした口調で

「こいついなかったら、誰がお姫さんのティータイムの茶菓子作るんだよ。
お姫さんに近づける必要はねえけど、死なせたら駄目だろ、手だけでも生かしておかねえと」

と、断言して、フランシスがひどいっ!と、やはり芝居じみた仕草で床に崩れ落ちてヨヨと泣くふりをする。


「せやな~。ほな生かしといたるから、あ~ちゃんが変態料理人相手にどんだけ優しかったんか言うてみ?聞いたるわ」

と、当たり前に慰めるフリもせず、そう言うアントーニョに、これ以上この手のやり取りを続けても仕方ないと、フランはあっさり起き上がって椅子に座り直した。

「ほんっとお前ら容赦ないよねっ!
今回もさ、トーニョ、パウンドケーキに何も入ってないとか非難轟々だったじゃない。
でもドライフルーツはまだ出来てなかったし、ナッツも手に入らなかったしさ、あれはお兄さんのせいじゃないと思うわけよ」

「あ~せやかてなんも入っとらんて、手ぇ抜きすぎちゃう?」

「だから、手に入らないものは仕方ないじゃないっ!
お前と違ってね、嬢ちゃんはお城のお姫様なのに、それすごく美味しそうに食べてくれて、今日はナッツもドライフルーツも手に入らなかったからプレーンでごめんねって言ったら、

『プレーンもすごく美味しいですよ。入れる物もフランシスさん一生懸命探して下さっても見つからなくて、それでも少しでも美味しいものをと思って作ってくださったんですから、美味しくないわけないです』

とか言ってくれちゃうのよ?
なんでお前、お城のお姫様より口うるさくて偉そうなのよ!!」

あ~なるほど。
お姫さんがいいそうなことだとギルベルトは納得する。


お姫さんはこの船にお迎えして以来、部屋も着る物も食べる物も、感謝はしても絶対に文句は言わない。

本人から聞いたところによると、幼少時に実母が亡くなってすぐに城に引き取られて以来、城から出たことがないとのことで、ずっと一国の王城で暮らしていた姫君からすると、ずいぶんと色々不自由を感じるだろうに、いつも楽しげに微笑んでいる。

「確かに…絶対に幸せにしないとな……」

そんなお姫さんの諸々を思い出すと、フランに言われるまでもない。
ギルベルトだってそう思う。

今はまだこんな不安定な身分だが、これを終えて実家を頼らずにある程度の貴族らしい生活の基盤を確保できるようになったなら、絶対に自国に連れ帰って平和で安全でそして何不自由ない生活をさせてやるのだ

お家騒動を避けてなし崩し的に海に出たギルベルトに、こうして1つ、大きな目標が出来た。
もちろんそれは、もう二人の悪友達の目標ともなることは、言うまでもない。



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