とりあえず泣きながら謝るお姫様をなだめているうちに食事時となり、いったんティータイムの食器を片付けて、こちらに食事を運ぶためにギルベルトは退室した。
そして…キッチンへ駆け込み青くなる。
もしかしてプディングとかババロアとか、柔らかいお菓子の方がお好み?」
トレイを置いた途端、硬い木の椅子に座って頭を抱えるギルベルトに、フランシスが驚いて駆け寄ってくる。
「ちゃうんやない?茶菓子なくなっとるで。
嫌なら食べへんやろ」
と、そこでつまみ食いに来たアントーニョがひょいっとギルベルトが置いたトレイを覗き込んで答えると、
「ふ~ん?じゃ、どうしたの?お兄さんに話してみなさいよ」
と、フランシスはギルベルトの隣に椅子を引きずってきて、机に突っ伏すギルベルトの頭を撫でた。
「親分も聞いたるよ?
グチグチ1人で抱えとらんと、話した方が楽になるで?」
と、アントーニョも同じく椅子をひきずってくる。
普段はなんのかんのでギルベルトが面倒をみる形が多いが、実は二人共ギルベルトよりも年上で、普段はふざけていても、本当にダメそうな時はこうして甘やかしてくれるのがありがたい。
ギルベルトは次男だが、長男が病気がちだったこともあって、実質家を背負う長男のような生き方をしてきたので、これが少しくすぐったいがどこかホッとする。
幼少時から文句なしのしっかり者と言われていたって、たまには他者を頼りたくなることくらいはあるのだ。
とりあえず今回のことは1人で抱えていくのは精神的にも物理的にも重すぎて、その荷を悪友2人にも少し持ってもらおうかと、迷いなく思う。
「お姫さんにな…言っちまった…」
「「なんて?」」
「この船に居ていいって……」
それに対しての悪友2人の反応は正反対だった。
「あ~…うん、気持ちはわかるけど…それはまずいかもねぇ」
と、苦笑するフランシスと、
「え?なんであかんの?居てもろうたらええやん。
なんなら親分、フランの部屋に転がり込んで一部屋空けたるで?」
と、きょとんとした顔でいうアントーニョ。
「えっとな…ここ軍艦だしな…。
本来は女を乗せるのはNGってのもあるし、それ以上に王族のお姫様を連れ歩いたら、下手すれば国の乗っ取りを疑われても仕方ねえから…」
はぁ~とため息をついて、机につっぷしたまま、顔だけあげてそう説明するギルベルトに、
「ほな、お姫様やって言わんといたらええやん。
海賊みんな死んでもうたし、死人に口なしやで」
と、にこやかに言うアントーニョ。
ああ、そうだよな、お前ならそうするよな…と、ギルベルトは思う。
「ん~まあね。バレないようなら、お兄さんも最悪それでも仕方ないと思うけどさ。
でもそうするなら、一生国には返せないよ?
丁重に扱っていたとしても、まあ色っぽいこと想像されるだろうし…まあそのあたりは海賊船に乗せられていた時点で、同じかも知れないけど…。
そういう対象に自分が含まれるか含まれないかは大きいからね」
そうだ…
これがただの貴族の姫ならとにかく、庶子とは言え王族の血を引いているなれば、王位継承問題が関わるのだから、自分の命1つで償える問題ではなくなってくる。
家で止まればまだいい方で、下手をすれば国家間の問題にもなりかねない。
どういう形であれ手放すのが賢明だ。
他国の王族の身辺の問題に関わるべきではない。
「…でも…な…笑うんだよ、お姫さん…
泣いてるのに、大丈夫だって笑うんだ……」
ギルベルトはまた机に顔をつっぷした。
目を閉じれば、自分の境遇、自分の身のことでいっぱいいっぱいであろうに、ギルベルトに心配や負担をかけまいと、自分のことは大丈夫だから、実家に戻してくれていいから…と、泣きながら精一杯の笑みを浮かべる姿が心をつらぬく。
どうしても不幸になる…それこそ下手をすれば死ぬほど辛い目にあうであろうことがわかっていて、国に、実家に返す気になれずに、ギルベルトは2人に事情を説明した。
「…てわけで……返したくねえ。
返したら俺様は一生自分を許せないし、後悔する…」
そうギルベルトが心情を吐き出すと、
「そりゃそうやな。
そこでほな面倒事はごめんやから国に帰ったってなんて言うんやったら、親分ギルちゃんと絶交するとこや」
と、アントーニョはその心情に寄り添い、フランシスも
「ん~~もう仕方ないよねぇ、それは。
まあ…当分は欧州帰ってもお姫様は降ろさない…ってことで…世界回って本格的に帰国する頃には代替わりして存在を忘れられている事を祈ろうか…」
と、許容してくれることに、ホッとした。
たとえ反対されたとしても…おそらくもう国へ返すなんてことは、できやしなかったのだけれど……
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