とりあえずアントーニョが船を破壊しないうちに、姫君のものは持ち出さなければならない。
最終的には寝室に運ぶことになるが、おそらく知らない男が大勢部屋に来たら、お姫様をひどく怯えさせることになる気がするので、隣の部屋だしあとで自分が運べばいいと思う。
「海賊は?」
と、そのついでにアントーニョに問えば、
「ん~。こいつで最後や。
ほんま、ちょお暴れたりない感じやなぁ」
と、本当に残念そうに答えてくるが、その足元に横たわる死屍累々を見る限り、普通の人間ならもう戦闘はお腹いっぱいといったところなんじゃないだろうか…
まあ、こいつが敵じゃなくて本当に良かった…と、ギルベルトはしみじみと思った。
そして自分の目でも海賊が全滅したことを確認。
奥の宝物庫にある海賊の略奪品は、いったん自艦に移させた。
いつもこの手の海賊船を討伐した時は、いくばくかは現地での人心掌握のために街に寄付。
その他は自国に帰った時に売って、軍備増強のために造船所に寄付したり、船の予備資金へと回すことにしている。
海賊でも人身売買に手をだしていなければ悪さを出来ない程度に資産を取り上げて船の武装解除をさせた上で見逃すこともあるのだが、今回はあろうことか欧州の貴族の姫を拉致するなどという不届き者だったので、全員己の死を持って償わせたので、運び出すものを運び出したら、この船は砲撃で沈める予定だ。
その指示もして、ギルベルトは再度自艦に戻り、今度はフランシスに事情を話して、欧州の貴族のお姫様が美味しく食べられるであろうような料理を作ってもらうよう依頼する。
「そっかぁ。今回は向こうから仕掛けてこられたわけだけど、戦闘になって本当に良かったね。
俺たちが戦わなかったら、そのお姫さん、アラブあたりでハーレムにでも売られてたかもしれないし」
と、言いつつ、作る料理の確認のためにサラサラとペンで品名を書いている。
確かに…欧州ではなくアフリカまで連れてきていると言うことは、そのまま喜望峰を越えて北上、アラブまで…というルートが一番考えられる気がした。
本当にそうなる前に救出出来てよかった。
あのお姫様が”そういう目的”で売られる…そう考えただけで、怖気が走る。
「ん、大方のメニュー決まった。この前の晩餐会で出た料理のうち、時間がかからず材料が手に入りそうなっていうと、このあたりなんだけど…。
あ、海賊船の後始末終えたら、港寄ってね。
食材の買い出しもしないと!」
と、そんな風に怒りに身を震わせるギルベルトをよそに、フランシスはどこか楽しげだ。
料理が趣味とは言っても、このところ軍艦で食事も衛生的で栄養バランスが良いというだけのものだったので、キッチンの手伝いに入ってはいたが腕を振るう場所がなかったのだろう。
「お姫様なら、盛り付けも可愛くしてあげないとねぇ~」
などとウキウキとエプロンを用意している。
「とりあえずまだ食事の時間じゃないし、簡単な焼き菓子かな?
材料は夕方には港で補給するってことで、気にしないで使っちゃっていいよね?」
と、返事も聞かずに自室をあとに、キッチンへと向かった。
まあ…別にかまわないのだが…。
恐ろしい思いをして弱っているお姫様を元気づけられるなら、とりあえず何でも良い。
万が一何かが足りなくなっても、男は黙って我慢の子だ。
ということで、それを訂正も咎めもせず、ギルベルトは再度姫君を置いてきた自室へと戻った。
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