事態は…好転したんだろうか?それとも悪い方へ落下し続けているのだろうか…
アーサーは海賊船にいる頃からずっと抱きしめ続けている自作のレースのクッションに顔をうずめたまま、脳内で状況を整理していた。
自分が誘拐された姫君か何かだったら確実にロマンスが始まっていると思う。
本当にこんなアフリカの海の上で会う人種には見えない。
全体的に色素が薄いので北の方の国の人間だと思う。
サラサラの綺麗な銀色の髪に白い肌。
やや吊り目がちの切れ長の目の色は極上のルビーのような紅で、宝石のようにキラキラと綺麗だった。
高い鼻梁と、薄めだが整った唇。
返り血に染まる軍服の下の体躯はそれと分かるほどに筋肉質で、よく身体を鍛えているのだろうと見て取れる。
有り体に言えば、とにかくカッコいい。
イケメンというのはこういう男の事を言うのだろう。
自分も男ならこうありたかった、女ならこんな恋人がいたら嬉しかったと思うが、単なる容姿だけではない。
男はこんな時だと言うのに、いきなり近づいてきたりはせずに一定の距離をとったまま、
「俺はギルベルト・バイルシュミット。
スウェーデン貴族、バイルシュミット伯爵家の長子だが、故国の海軍力増強のための修行中だ。
アフリカ沿岸を航行中に攻撃をしかけてきた海賊に応戦するためここにいる。
現在、戦闘は部下に任せているが、そろそろ制圧出来る頃だと思うので安心して欲しい。
故国とバイルシュミット伯の名を背負う者としての名誉にかけて女性に無体な真似をする気はない。
我々も目的あっての活動中なので即というわけには行かないが、きちんと欧州に送り届けさせてもらうので、一緒に来て欲しい」
などと、きちんと自分の身分を名乗った上で、目的そして状況を説明し、同行を求めてくる。
すぐ後ろから海賊たちが追ってくる可能性も0ではないかもしれないというのに、礼儀正しさここに極まれりという感じだ。
ずいぶんと誠実な印象を受ける。
欧州に送り届けるという言葉がでてくるということは、アーサーのことはいまのところ、海賊に拉致された人間だとでも思っているのだろう。
そう、いまのところは…だ。
しかし海賊が捕まって、アーサーのことをバラしたらどうなるだろう。
同行を嫌だと言って抵抗してどうなるものではないということはわかっている。
打診という形をとっているが、実際は説明後、実力行使を行うまでのワンクッションに過ぎない。
実際、アーサーが返事に困って黙っていると、男…ギルベルトはツカツカと靴音を響かせて近寄ってきてアーサーの前に膝をつくと、
「ここは危険なので失礼する」
と、有無を言わさずアーサーを抱き上げて廊下に出た。
しかし気遣いは相変わらずで、甲板に続く廊下では
「本当に…高貴な身で海賊などに囚われて恐ろしい思いをしたと思うが、もう大丈夫だ。
できる限り早く欧州に戻れるようにしたいが、それまでは旅行にでも来たのだと思って何も心配せず寛いで欲しい」
などと労ってくれるし、甲板に出るドアの前でいったん足をとめると、自分のマントでアーサーの視界を遮るように包み込み、
「…これから少し戦闘中のエリアを通るが、お姫さんに危害を加えさせるようなことは一切させないので安心してほしい。
出来れば目をつぶっていてくれ。
ほんの数分で通り抜けて、安全な当艦に案内する」
などと言う。
そうして実際、隊長クラスの部下らしき男と2,3言、言葉をかわしてすぐその場を駆け抜け、海賊船よりもかなり大きく立派な軍艦へと降り立った。
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