ギルベルトさんの船の航海事情_11


海賊達は思ったよりは統率が取れていたが、所詮烏合の衆だ。
アントーニョが振り回すハルバードの餌食になっていく。

そうやって戦闘はアントーニョに任せて、ギルベルトは少し高い場所に移動して、全体を見渡した。

海賊たちの中でも最前線には出ず、他よりも多少なりとも身なりの良い者。
そんな奴がいないかを探す。
ようは、この船の状況について知っていそうな、幹部を捕まえようというわけだ。

こうして目を凝らしてみれば、高価そうではあるがギラギラと趣味の悪い上着を着た男が1人。

左右に、それも動き重視の他の海賊たちと違って装飾過多な服を着た側近らしき部下を置いて、何やら命じている。

運が良い。
おそらくあれがボスだろう。

そう思った瞬間にギルベルトは剣を構えて、素晴らしい速さで敵陣に特攻する。

いきなり現れた男が自分達のボスに一直線に向かっていくのに慌てた海賊たちは一斉にその前に立ちふさがろうとするが、剣撃も見えないほどの速さであっという間に切り捨てられ、まるでモーゼの海割りのように、男の進んだ道の左右に遺体と血を積み上げることになった。

それだけの騒ぎに慣れば、ボスもさすがにギルベルトに気づく。
退却しようとするも間に合わず、最後に左右の側近が切りつけられて床に転がると、自分に向けられた剣先に青くなって手をあげた。

「悪かったっ!
攻撃される前に攻撃をしちまおうと思ったんだっ!
このあたりの海は物騒だからなっ!
のんびり構えていると自分のほうがやられちまう」

いきなり攻撃を仕掛けてきて、今も部下は戦っているというのに、存外に根性のない男だと思った。

お前は奴隷商人もやってんのか?」

ギルベルトが知りたいのはその一点だ。
低い声で口にするギルベルトのその問いに、男は青ざめて首を横に振った。

そのまま黙っていればおそらく助かったのであろう。
しかしギルベルトの意図をはかり間違った男は言ってはならない一言を口にしてしまった。

「い、いや!奴隷は扱ってねえ
で、でもなっ、人間目当てならとびきりのがいるっ!
なにしろ庶子とは言え、王族に連なるお貴族様だっ!!」

と、その言葉で、ギルベルトの目がすぅっと冷える。

「それはどこに?」

と言う声がこのうえなく冷ややかなのに、男は気づかなかった。
焦りが先立ちすぎて、気づかなかったのだ。


「船の最奥の部屋だ。
あんたにやる!好きにしてくれっ!
だからっ……っ!!!!」

男は最後まで言葉を紡ぐ事はできなかった。
両目、口、最後に喉をかき斬られて、その場に倒れてしばらくはピクピクと痙攣していたが、やがて鬼の形相で事切れた。


「トーニョ!!」
と、ギルベルトが叫ぶと、楽しげにハルバードを振り回していたアントーニョが

「オン!!ここにおるで~!!!」
と、笑顔で手を振る。

根っから戦闘が好きなのだろう。
本当に生き生きとしている。

「俺はちょっと外すから、この船の奴らは全員やっちまっていい。
1人残らずな」

「りょ~うかいやでっ!!!」
と、ギルベルトの言葉に、この上なく幸せそうに笑うアントーニョ。

なまじ人が良さそうな愛嬌のある顔をしているので、より不気味で怖い。
周りでスキあらばと武器を構えていた海賊たちは、我先にと逃げ出すが、その背に容赦なくアントーニョの斧が振り下ろされた。

もちろんその指示を聞いていた他の部下たちもそれに準じている。

それを目の端で確認しながら、ギルベルトは船室へと続くドアを蹴破って、船内へと突入した。



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