そうして北海はとりあえず敵対勢力がない状態にしたギルベルトが次に目指したのは、北海から外海を通って南下。
が、地中海は各商会の歴史も古く根を張っていて、そこで無理して割り込んでもあまり旨味がない。
そういうフランのアドバイスにしたがって、地中海に足場を作るのは後回しにして、とりあえずさらに南下してアフリカを目指すことにした。
アフリカでは金や象牙など、北海に持ち帰って売ればかなりの額になる商品が多数存在している。
もちろんギルベルトの最終的な目的は世界をまたにかける大商人ではなく、世界に名を轟かせる海軍なのだが、戦闘に耐えうる船を揃えようとなると、なにかと物入りなので、急がば回れ。
まずはやっぱり資金稼ぎなのだ。
とは言ってもアフリカまでいって積荷が高額になると、万が一海賊に遭遇した場合なども考えねばならない。
なので、5隻船団の中で主艦だけを戦闘用に大型のガレオンにして、外洋に挑む。
リスボンから南西のマディラ、さらにその南東のラスパルマスを経由して一路アフリカへ。
西アフリカは今のところポルトガルの商人が主に仕切っているらしいが、それとは別に、アフリカ全域で現地の人間を連れ去って売る奴隷商人や、海賊がはびこっているから注意が必要だとは耳にしていた。
だから主艦はきっちり武装をして、いつでも戦えるように準備。
アントーニョなどは楽しげに愛用のハルバードの手入れに余念がない。
内海と違って外海は波も高くよく揺れるが、意外なことに野生児のアントーニョはとにかくとして、その手のものに弱そうなフランシスも特に船酔いなどすることなく、沿岸沿いを進む船から見える欧州とは違う景色を楽しんでいた。
「お前、船酔いしないって意外だった」
と、甲板で心地よさげに潮風に吹かれるフランシスに声をかけると、フランシスは
「当たり前でしょ。お兄さん、商人の息子だもん。
ちょうどお兄さんが生まれた頃に父親が地中海から北海、バルト海に拠点を移したから、ほぼ生まれてすぐくらいに船に乗ってるのよ」
と、答えてくるので、なるほど、と納得した。
…この暑さは厳しいけどねぇ…と、その後苦笑するフランシスにギルベルトも同意。
北国育ちだけに、暑さはあまり得意ではない。
唯一南欧出身のアントーニョは、水を得た魚のように元気に走り回っているが……
そんな風に和やかに時を過ごしていると、遠くに1隻の船が見えた。
「ほぉ~、こんなところでも会うもんなんだなぁ」
と、内海と違ってそれほど他の船と遭遇しない場所なので、呑気にそんな事を思っていると、いきなり、砲撃が降ってきた。
えええ???!!
幸いにして大砲の精度は高くないらしく、どれもこちらの船ギリギリに落ちるが、だからと言ってやられっぱなしになっていたら、いつかは当たる。
「総員!戦闘配置につけっ!!
主艦は接舷!他4隻は距離を置かせろっ!!!」
腹の底から声を出し、甲板の船員達に指示をすると、それまではのんびりと寛いでいた船員たちは一斉に忙しく動き始める。
「トーニョ!乗り込めるかっ?!」
「もちろんやでっ!!」
「フランは船室に待機なっ」
「うん、そうさせてもらうよ」
ギルベルトは悪友2人にそれぞれ行動の確認を取ると、自らも剣を抜いた。
それを見て、
「なんや、珍しい。
今回はギルちゃんも行くん?」
と目を丸くするアントーニョ。
確かにいつもは提督自ら前線はまずかろうと思って船に残っているのだが、今回は直前に上陸した街での奴隷商人の話が頭の隅にひっかかっていた。
物はまだいい。
でも人身売買はダメだ。
そこまでやっているクズは徹底的に排除しなければならない。
が、そのあたり、おそらく海賊なのであろう今対峙している相手が、そこまで手を出しているかどうかの確認をアントーニョに出来る気はしないし、もし掴まっている人間がいたとしても、それをきちんと保護できる気もしない。
とてつもなく強いが、そのあたりを色々考えて戦ったり指示したりできるタイプではないのだ。
となると、もう自分が行くしかない。
まあ対面的にまずいだろうと思うだけで、ギルベルト自身も腕に自信があるし、海賊程度に遅れを取る気はしなかった。
ということで、久々に自分も参戦することにして、接舷を待つ。
このガレー級の主艦以外は砲撃の範囲外に退避したのを確認後、接舷して渡した橋からギルベルトは部下を率いて海賊船に乗り込んだ。
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