ギルベルトさんの船の航海事情_2

面白いはとにかくとして、不憫とはいかにと思われるかもしれないが、確かに本来はこうやってお国のために海上警備に勤しむはずの人生が、お家騒動寸前の伯爵家の渦中の人間となってしまったのは、本人がそれを全く望んでいないというのもあって不憫と言えるかもしれない。



ギルベルトはもともとは次男だった。
病弱な長男と次男のギルベルトの母親は父の親族の娘で、ギルベルトを産んで2年後に病死している。

そしてその翌年に嫁いできた後妻はなんと前国王の妹の子。
つまり現国王の従姉妹にあたる。

と言っても前国王は8人兄弟で、その妹とは兄弟の末っ子。
しかもその兄弟それぞれがまた、わりあいと子沢山なこともあって、王位継承権など果てしもなく低い姫である。

それでも一介の伯爵家には王族と縁続きの妻がくるのは名誉なことで、一族を挙げて歓待した。

幸いにして後妻は気さくで優しい女性でギルベルト兄弟のことも実子のように可愛がってくれたし、兄弟も実の母のように懐き、2年後に父と後妻の間にも弟が生まれる。

しかし弟が生まれたあともなんら後妻と兄弟の仲は変わらない。
親子仲も兄弟仲も良好。

しかしそんな伯爵家に転機が訪れた。

父である伯爵の急死。

その時は生前から跡取りとして決められていた兄が跡を継いだのだが、もともと病弱だった兄はその2年後にこれまた病死した。


父は自分の死後を兄に託すということ以上のことは言いおいていかなかったし、病に伏す兄に彼が死んだあとのことなど口にできるわけもない。

こうして、バイルシュミット家は、長男亡きあとは当然順番に次男が継ぐものという一派と、恐れ多くも国王陛下と縁続きである後妻が男児を生んだのだからそちらを跡取りにするのが家のためという一派に真っ二つに分かれた。

そんな中でも親子仲、兄弟仲は良好なまま、後妻と弟はギルベルトが継ぐべきと主張する。

ギルベルト自身はというと、別に継いでも継がなくてもどちらでも良かったのだが、一応一般的には上から順に継いでいくものとされていたので、ギルベルトが継げば、たとえ本人たちがそれを望んだわけではないといっても、自分達の親族の子である正当な跡取りをさしおいて家を乗っ取ろうとした者たちと、母と弟がバイルシュミット家の親族に虐げられる図が目に見えている。

かといって弟に家督を譲ったら、跡取りとしての権限や実父の後ろ盾がなくなった前述の状況よりはマシだろうが、やっぱり乗っ取りだなんだと親族に虐げられそうだ。

さて、それではどうするのが正しいか

兄が亡くなった悲しみも癒えぬうちにそんなことに頭を悩ませていたギルベルトは、ついうっかり相談してしまったのだ。

衝動と本能だけで生きている
と、称されるこの悪友に



そこで言われた言葉が

一緒に海に出ようやっ!!
で、唖然とした。


あまりに想定の範囲外の言葉で、突っ込んだら負けだと思いつつ、

なんでそうなるよっ?!!
と叫ぶ。

叫びつつも、

「え~、楽しそうやん。親分と一緒に7つの海を支配しようやっ!!」
と、あまりに楽しげに途方もないことを口にするアントーニョについついうなずいてしまったのであった。



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