食事の食器も可愛らしいものをと思って、ロイヤルアルバートのトランキュリティシリーズで揃えてみたし、それを並べるダイニングテーブルには当然白いレースのテーブルクロス。
もちろんそこにはアーサーの大切なティディを座らせる椅子だって用意している。
ボディソープは英国王室御用達のヤードレー社のローズソープ。
とびきりの香りをまとって風呂から上がれば、着るのは白刺繍がたっぷりほどこされたアンティーク・ナイティである。
寝室は毛足の長い絨毯で、寝台は幾重にもレースが折り重なった天蓋付き。
もちろんふかふかの布団は真っ白で、フリルがたくさんついている。
諸々が少女趣味を絵に描いたような感じだが、幼げであどけなさの残るアーサーにはよく似合っていた。
似たようなデザインのナイティを着せたティディをだきしめて、嬉しそうにふとんにもぐりこむと、アーサーは
「なんだかおとぎ話の中にいるみたいだ。
楽しすぎて眠れないかも…」
と、くふふっと笑う。
そんなアーサーに、
「はいはい。
でも明日が本番だからな~。
眠いなかでやりたくないだろ?
頑張って眠れ」
と、ギルベルトは笑って頭を撫で、小さな子を寝かしつける時のようにぽんぽんと一定のリズムでアーサーの背を叩き始めた。
和やかな時間……
かなり年下で、さらに世間知らずな面もたぶんにあるアーサーは、ギルベルトからするとずいぶんと幼くて、そんなアーサーといると、それまであまり意識したことはなかったのだが、子どもを持って慈しんで育てる生活というのも楽しそうだなと、今更ながら思う。
まあアーサーと居ることでそんな生活も手放すことになるわけなのだが、自分もアーサーももっと年をとって、うるさい副社長がぽっくりと逝った日には、別に実子じゃなくても養子でももらってアーサーと2人で育てていくのも楽しいかもな…と、腕にかかえこんだアーサーの人肌の心地よさに自分もウトウトしながら、意識を手放す寸前にそんなことを思った。
こうして翌日。
いよいよ新婚ごっこのメインイベントである結婚式ごっこだ。
朝起きて、二人して朝食を摂ってシャワーを浴びてスッキリすると、刺繍道具とティディとともにアーサーをリビングに残して、ギルベルトは最後の仕上げにと、手配した諸々を運び込ませる。
料理はいったん大型の冷蔵庫へ。
ケーキだけは大型のクーラーボックスに入れて置いておいた。
ワインはアーサーが生まれた年の物を用意したし、食べる時に自分で温めるものは温める、そして盛り付けもその時自分でするとして、料理はそれでよし。
あとは教会もどきに仕上げたサンルームのほうだ。
部屋は極力涼しくしておいた。
そして2人きりでも寂しさや物足りなさを感じさせないように、大量に用意したアマリリスやスイトピー、チューリップにラナンキュラスなどの切り花を部屋いっぱいに敷き詰める。
まるで花園の中にいきなり教会が現れでたようになって、これもおそらく喜んでもらえるだろうと、満足のいく出来にギルベルトはうなずいた。
ブーケもそれらの花にかすみ草を足したかわいらしいもの。
それはサンルームを入ってすぐのコンソールテーブルに置いておく。
「完璧だなっ!さすが俺様」
と、言って、自分自身も着替えねばと、ご機嫌でドレスルームに。
とは言っても、自分はあくまで添え物みたいなものだ。
メインはやっぱりウェディングドレスの花嫁である。
自分はちゃっちゃとタキシードを着て、普段降ろしている前髪をきちっとオールバックに。
そうやって身支度を終えると、アーサーをリビングへ迎えに行った。
「アルト、そろそろ支度できるか?」
開いたままのリビングのドアをトントンとノックをすると、ソファの上で可愛らしい刺繍を刺していた可愛いお嫁さまは、びっくりまなこでぽかんと呆けた。
「ん?どうした?」
ギルベルトがそれに少し眉を寄せると、ギルが…と、言ったっきりまた呆ける。
「俺様が?」
「すごい服着てる。俳優みたいだ…」
と言う答えに、ギルベルトは思わず小さく笑った。
「あ~。タキシードのことか。
改まった席ではたまに着るぜ?
アルトがウェディングドレス着るってのに、俺様が平服ってわけにはいかねえしな。
…ってことで、そろそろ着替えないか?」
質問の形式はとっているものの、ギルベルトはうながすようにアーサーの手から刺繍を取り上げてテーブルに置き、その手を取ると立ち上がらせて、衣装部屋まで連れて行った。
そして奥の方のマネキンにかかった布を取ると、そこから現れるのはウェディングドレス。
繊細なレースが幾重にも重なった、まるで妖精のドレスのような雰囲気のそれの上には、花をあしらったレースのついたマリアベール。
それをマネキンから丁寧に脱がせると、ギルベルトはアーサーが着るのを手伝ってやる。
まずドレス。
それからウィッグを整えて、軽く化粧。…と言っても、そのままで十分愛らしい顔立ちをしているので、軽くファンデーションを塗ったあと、ルージュを引くくらいだが…
そして仕上げにそっとかぶせるマリアベール。
そこまですると、もう、世界で一番美しい花嫁の出来上がりだ。
「…すごい……まるで映画の登場人物みたいだ……」
姿見に映る自分とギルベルトの姿を見て、呆然としたようにつぶやく花嫁。
ギルベルトは自分のタキシード姿を見るのは初めてではないので、それほど感動のようなものはないが、隣に立つ花嫁の愛らしさにはやはり感動する。
「すげえな。これは写真撮っとかねえと…」
と、用意したセルフタイマー付きのカメラで写真を摂ると、
「んじゃ、新婚ごっこ本番行こうかっ!」
と、花嫁に向かって手を差し出した。
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