アーサーを降ろして玄関のドアを開け、別荘の中に入るとアーサーが歓声をあげた。
その嬉しそうな声を聞けただけで、準備した(正確には”させた”)甲斐があったというものである。
床はもちろん入ってすぐに美しい花の模様のラグマットを敷かせておいた。
広めの廊下の左右にある収納はフリルの白いカーテンで隠してあって、コンソールテーブルには大きな花瓶にピンクと白のバラを中心にした花々が活けてある。
床はもともと白いタイル張りなのだが、ポイントポイントにやはり見事なミニ絨毯。
玄関だけでなく、家中すべての照明がレトロなシャンデリアになっていて、白い壁のいたるところにファンシーな絵画が飾ってある。
リビングのソファも背もたれが貝殻のような形になった白いシェルファ。
時間が1週間しかなかったので、根本的な部分の改築は間に合わなかったが、家具と壁紙、そして小物でずいぶんと印象が変わったものだと、自分で命じておきながら、ギルベルトは感心した。
「さて、ここで過ごすわけだから、花嫁さんはまずは着替えだな」
と、アーサーを連れて衣装部屋へ。
そこもきっちり改造済みだ。
全体的に落ち着いたクリーム色で、奥には服が詰め込まれたクローゼット。
そのドアは大きな姿見になっている。
右側には猫脚のアンティークのドレッサー。
左側は窓になっていて、白いレースのカーテンがかかっている。
服もあえて胸元と袖口、そして裾に繊細なレースを使った白いアンティークのワンピース。
せっかくだからウィッグもつけて、ネットで調べて研究した薄化粧もほどこしてやる。
「うわ~、うわ~、うわ~~!!
すごいっ!本当のレディみたいっ!!俺じゃないみたいだっ!!」
鏡を見てアーサーがまた歓声をあげるが、それほど本人とかけはなれてはいないと思う。
アーサーを女性にしたらまさにこんな感じだ。
少し心細気に見える澄んだ大きなグリーンの瞳。
それ以外のパーツは小さめに整っていて、今のようにウィッグで太すぎる眉が隠れてしまえば、まるで人形のように愛らしい。
折れそうに細い首筋からなだらかな肩の線。
頼りないまでに薄い身体。
それは庇護欲と同時に征服欲、加虐心をも駆り立てる。
そう思えば、アーサーの父親がアーサーの母親に固執するのも分かる気がした。
「今日はとりあえず疲れただろうし俺様が簡単なもの作るな?
明日はブーケが届くことになってるから、ウェディングごっこだな。
お祝いの料理はもちろん、ケーキまで届けてもらうことにしたから、なんならウェディングケーキ入刀もできるぜ?」
と、着替えたアーサーをエスコートしながらリビングに戻る途中、あらかじめ用意していたその計画を伝えてやると、アーサーはまた大きな目を驚きのあまりまんまるくして、次の瞬間、
「すごいっ!本格的だなっ!!」
と、破顔した。
実に和やかにして平和な時間。
だが、これが波乱の幕開けであることを、アーサーはもちろん、色々用意をしたギルベルトですら予想だにしていなかった。
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