フェイクorノットフェイク、ソレが問題だ_初デートは危険がいっぱい4

嫁が可愛い。
世界一可愛い。



日曜日、待ちに待ったアーサーとのデートだ。

この日のために用意したコート。
実は拒否られないかと内心ドキドキしていた。

な~ぜ~か、というと、これ、実はレディースである

どのあたりが違うかと言えば、決定的に違うのは当然ながら合わせ。
メンズは左前だがレディースは右前。

まあ、バレるとしたらそこからだろうと思うが、別にそこにこだわりをもっているわけではない。

嫁に似合いそうなさりげなく可愛いデザインを探していたら、それがレディースだったというだけである。

もちろん色や模様の問題ではなく、デザインの問題だ。

同じダッフルでもメンズはわりと上下の幅が変わらない筒型が多いが、レディースだと裾広がりの三角形のものがわりあいと多い。

単にそういう形のダッフルを着せたかったのだ。


幸いにしてアーサーはあまり服装にこだわりがないらしく、ギルベルトがコートを全て着せてやると全く気づかなかったようだ。

一番違和感を感じるとしたらボタンを留めるあたりだろうと思って、さりげなく全部自分が着せてやったのは正解だったと思う。

当たり前だが別に嫌がらせをしたいわけではない。
ギルベルトだって嫁との記念すべき初めてのデートは楽しみにしているのだ。

だからアーサーが最高に可愛く見える格好でデートしたい。
ただそれだけなのである。


思った通り、柔らかい色合いのダッフルコートを着た嫁は世界一可愛かった。

今日、、ギルベルトは帰宅したら絶対に日記に『今日も俺様は世界一カッコよく、アルトは世界一可愛かった』と書くに違いないと思ったくらいには可愛かった。

8歳年下のミドルティーンということもあるが、その年の割にもずいぶんと幼く見えるので、24歳のギルベルトが連れて歩くと、やや犯罪臭がしないかと心配ではある。



それでも可愛い可愛い幼い伴侶を連れての初めてのデート。
場所は車で30分ほどの大きなショッピングモールだ。

まずは車を駐車場に停めてショッピングエリアの上にある映画館に行くことにする。



駐車場から通路を経てショッピングエリアに入った瞬間、アーサーがピタリと足を止めた。
そして不思議そうに後ろを振り返る。

突然だったので、
「どうした?なんか変なやつでもいたか?」
と聞いてやると、アーサーは少し考え込んだ。

ショッピングモールに来るのも初めてだと言っていたので、何か思っていたのと違うところでもあったのだろうかとも思ったのだが、返って来た答えは

「いや…なんか道行く人がギルに見惚れてるなぁって思って。
俺よりずっとお似合いのきれいなレディ達には少し申し訳ない気がするけど、あらためて、そんな相手を探してきてくれた一番上の兄さんは大変だっただろうけど、でもちょっと嬉しいなって思って」


はにかんだような笑みを浮かべて見上げてくる嫁の愛らしさに、ギルベルトは24歳にもなって、まるで思春期の少年のように言葉を失って視線をそらした。
たぶん顔は真っ赤になっていると思う。

可愛すぎだろうよぉぉ~~!!!

と、絶叫するのを堪えるだけで精一杯だ。


叫んだらダメだ、叫んだらダメだ、叫んだらダメだっ!!!

脳内でお題目のようにつぶやいて、なんとか口に出せた言葉は

──アルトの好みの容姿なら別に他のやつはどうでもいいんだけどな

で、愛想のないことこの上ない。

しかし続いてなんとか口にした

──こういう会話って…なんだかデートっぽいよな

という今ひとつ冴えない言葉にアーサーが笑ってうなずいてくれたから、全て良しとする。



こうして2人しっかりと手をつないで向かった映画館。

こちらも一度も来たことがないと言っていたアーサーは、ほわぁあと感動したようにあたりを見回している。

もともと顔立ちも華奢な体格も可愛らしい子ではあるが、こういう反応が世慣れぬ感じで愛らしさが数倍増している感じだ。


さて、上映時間まではもちろん、入場時間までもまだ少々時間があるわけだが、なにも時間配分を間違ったわけではない。

休日の映画館で混んでいるのは想定していたので、事前に購入できるチケットはもちろん席指定で2枚購入済みだが、初めて来る映画館なら楽しい定番は一通り経験させてやりたいのが人情というものである。

ということで、ポップコーンとドリンクを購入するのに時間がかかるだろうということで、この時間に来ることにあいなったというわけだ。


もちろん疲れさせてはと、アーサーには欲しいものだけを聞いて、あとはソファに座らせておいて、自分だけ並ぶ。
それでなくても混んでいるので、数人で並ぶより、購入する人間だけ並んだほうが場所を摂らないということもある。

こうして時折少し離れた後方のソファを気にしながら並んでいると、唐突に後ろに並んでいた女性2人組から

「すみません前の方、お連れさんですか?
私達2人で来ているんですけど、映画のあとでも良かったら……
と、声をかけられて、苦笑。

「ごめんな。申し訳ない。前の人とは無関係。
嫁と来てるんだ」
と、ちらりとアーサーの方に視線を向ける。

女性たちもその視線を追うが、ソファの方にも人がたくさんいるので、特定は出来ないだろう。

それでもギルベルトの視線の先には確かに自分を待っている世界で一番可愛い嫁がいるのだ。
思わず顔がほころんでしまう。

そんなギルベルトに女性たちは少し肩を落として、
「ご夫婦で仲良く映画なんて素敵ですね」
と、それでも笑みを浮かべて引いてくれた。

それでギルベルトも会釈をして前を振り返ると、ちょうど前の男性の番になっていて、ギルベルトももう一度脳内で買うものをチェックした。


飲み物はアーサーにアイスティ。自分にはアイスコーヒー。
ポップコーンは二種類の味を各Sサイズで買ってシェアをする。

どちらの味が良いか聞いた時には、単純に好みの味があるならそちらを、どちらも食べてみたいということなら両方買って食べたいだけ食べてもらって、余ったのを自分が食べれば良いかと思ってシェアを提案したわけなのだが、何もかもが珍しいアーサーにとって、そのシェアということも珍しいものの一つだったようだ。

本当に嬉しくて嬉しくて仕方がないといったキラキラした目で、──シェアがいいっ!!──と言われて、ギルはまた叫びだしそうになる。

俺様の嫁、可愛すぎ!!

そう世界の中心で叫びたいと思った。


ともあれ、そんな可愛い可愛いお嫁さまの希望通り、2種類の味のポップコーンを買ってドリンクを買って、それらをのせたトレイを片手に駆け寄ろうとして、ギルベルトは唖然とする。

居たはずの場所にアーサーが居ない。
黙って帰るということはありえないので、トイレか?ととりあえずアーサーが座っていたソファに近づいて気づいた。

買ってやったパンフレットが床に落ちている。
ついさっきまで嬉しそうに抱えていたので、それを放り出すなんてことはないだろう。

ひやりと、背に嫌な汗をかいた。

そしてすぐそばに座っていた親子連れに声をかけてみる。

「あのここにローティーンからミドルティーンくらいの男の子が座っていたと思うんですけど、知りませんか?
俺の連れなんですけど……

もともとキツイ顔立ちで警戒されるのはわかっているが、他にどうしていいかわからない。

すると案の定、母親の方は若干の警戒の色を見せていたが、連れの幼子の方はまだまだ無邪気なお年頃らしい。
全く警戒することも怯えることもせず、

「あのね、ここにいたお兄ちゃん、眠くなっちゃったみたいで、おじさん2人が来て帰っちゃったよ。
僕ね、パンフレット落としたよって言ったんだけど、聞こえなかったみたいで……


誘拐かっ?!!!

あたまがパ~ン!と爆発しかけた。
よもやこんな人目が多いの中で誘拐されるなんてありか?!!

いや、実際にその状況はどこをどう見ても誘拐だろう。

ギルベルトがポップコーンを買いに並ぶためわかれた時にはアーサーは特に眠そうな様子なんて見せていなかったから、何かおかしな薬を使われたのか?!!

「あのどっちにいったかわかるかな?」
と聞くと、子どもは
「階段のほう~」
と非常階段を指差したので、ギルは

「これ、つい今そこのカウンターで買ったばかりだから、よければ食べてくれ。
要らなかったら申し訳ないけど、処分してくれるようにカウンターに持っていってくれるとありがたい」

と、子どもでは心もとないので母親にトレイを押し付けると、ちょうど来たエレベータに飛び乗った。


アーサーが眠っている状態だとしたら、移動は車になるだろう。
そう考えると、一刻も早く2階にある駐車場との連絡口に行くのが正しい。

時間的に最後にアーサーの様子を見てから3分は経っていないと思うから、7階にある映画館のフロアから5階分で、その差を詰められるかが勝負だ。

申し訳ないが大ひんしゅくなのは承知で、ドアが開きかけるたび、閉まるのドアを連打する。

幸いにして最上階でまだ映画が終わる時間ではなく、むしろ始まる時間で降りる人はいても、乗ったのはギルベルトだけだったので、他が乗ってこないように阻止してしまえばあっという間に2階へ着いた。

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