日曜日にデートをしよう。
映画館に行って美味しいランチを食べて、ティディベア専門店や手芸用品をみよう!
別にそのスケジュールじゃなくてもいいんだけど…」
と、慌てて言う優しいギルに、泣きながらクビを振る。
だって、もうだめだと思ったのだ。
火曜日のあの時、ギルを不快にさせただけじゃなく、熱なんか出して翌日からギルの大切な仕事を休ませてしまった。
だからギルにとって必要じゃなくなる日までは置いてもらえるかもしれないが、そうじゃなくなったらこの疑似家族関係はきっと終わるものだと思っていたのだ。
そう言うと、ギルは心底こまったように眉を八の字にして、
「ごめんな。誤解させるような言い方した俺様が悪かった」
と、だきしめながら謝ってくれるのだが、あれはたぶんアーサーが悪いのだ。
自分と仕事のどちらが大事かなんて聞かれたら、ギルだって困ってしまうだろう。
ギルは家の利害関係でアーサーとはそれなりに上手くやっていかないといけない。
だからぞんざいな扱いはできないためにはっきり言えないものの、仕事は大切なものだ。
だからぞんざいな扱いはできないためにはっきり言えないものの、仕事は大切なものだ。
アーサーみたいに厄介な子どもと比べるほうがおかしい。
かと言って、アーサーのくだらない質問のために嘘をつくなんて、ギルだって嫌だろう。
そんなふうに地の底まで落ち込んで猛省していたら熱が出た。
結果、決して狙ったわけではないのだが、まさに”(病気な)俺と仕事とどちらが大事なんだ?”と、行動で示させる選択を余儀なくさせることになって青ざめた。
選択なんてしないでいい。
仕事は大切だ。
ぜひ仕事に言ってくれと思ったのだが、ギルベルトは当たり前に
──さっきの質問、真剣に答え聞きたいっていうことなら、仕事よりおまえが大事。
なんて言ってアーサーの看病のためなんかに会社を休んでくれてしまった。
そしていつもにもましていたれりつくせりに世話をしてくれる。
そんなギルに、もう申し訳無さしか感じない。
いますぐ見限られても文句は言えない。
そう思って、落ち込んでおそるおそる過ごしていたら、件のお誘いだ。
嫌われてなかったっ!!
それだけでもうテンションがあがった。
しかもそのスケジュールが、まるでアーサーの好みに合わせたようなものだったことに感動する。
幼い頃…親が一番愛らしい盛りの子のために色々心遣いをして遊びに連れて行ってくれるような、わりあいと普通の経験をアーサーはしてこなかったため、自分にはそんな生活は縁のないものと思っていた。
それが、こんな可愛げもない16歳にもなって、顔どころか存在すら知らなかった相手との利害に基づいた縁談で、面倒ばかりかけてさぞ不快な思いをさせているであろうに、こんなふうに心をくだいてもらえるとは思ってもみなかった。
嬉しい…と思えば嬉しいのだが、それ以上にこれまでの自分の人生の不憫さと、幸せを期待してもいいのだろうか…という、なんとも言えない不安とせつなさ…でもそれと同時に感じる高揚感。
色々が混じり合って、言葉が出ずに、こみあげた想いが涙と一緒に溢れ出てしまった。
でもそんな想いをうまく告げることが出来ず、ただ、嫌なわけではない、嬉しいのだとだけつたえれば、そっか…と、ギルはホッとしたように微笑んで、なだめるように背をさすってくれた。
兄…という存在がいないわけではなく、11歳で父親がおかしくなってからは、たしかに3人ともそれなりに気遣ってくれたのだけれど、その年になってからだと、それまでの冷ややかな関係を完全に払拭できるというわけもなく、やや緊張を含んだ、家族というにはいくぶん堅苦しい関係だったこともあり、アーサーは目上と言えども無条件に甘えるということがどうも得意ではない。
でも、いつもいつもギルはあまりに優しいので、甘やかされる心地よさに、慣れてしまいそうだ…。
少なくとも不条理に突き放される気は、もうしてこなかった。
そして当日の日曜日…
──病み上がりだしな。寒くないようにしような?」
と、どうやら今日のために用意してくれていたらしい、裾がゆったりしたベージュのダッフルコートを着せてくれる。
──思った通り、めちゃ可愛いな。似合ってる。
といいながらコートのフードもかぶせてくれて耳が隠れると、それだけでかなり暖かい。
ギルはデザインはだいぶ違うものの、紺のダッフル。
アーサーと違って体格が良いし、そもそもが絵に描いたようなイケメンなので、こちらは本当にカッコいい。
じぶんなんかが隣を歩くなんて、世間様に申し訳ないほどだ。
「じゃ、今日は一日、楽しむぞ~!」
と、支度を終えるとギルはそう言ってアーサーに手を差し出してきた。
マンションの駐車場に向かうため、その手をとった瞬間、アーサーの初めてのデートが始まった。
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