フェイクorノットフェイク、ソレが問題だ_夫婦の定義

ギルベルトが浴室に消えてから、アーサーはおそるおそるギルベルトの方の寝室へと足を踏み入れた。

明かりの位置がわからず、仕方なしにわずかな月明かりに照らされて薄暗い部屋でくらやみに少し目がなれるのを待つ。

そうしてしばらくして暗さに慣れた目に映った部屋は、ずいぶんとシンプルだった。


左手の壁には大きめのライディングデスク。
その両隣には棚。

部屋はかなり広いのに、その他に家具と言えるものは、右壁沿い奥に置かれた大きめの寝台と、その横に置いてあるコンソールテーブルと木の丸椅子くらいだ。

寝台側の手前の方の壁には大きな扉のようなものがあるので、クローゼットになっていて、他の物はそこに収納しているのだろう。

結婚して初めての夜ということは、やはり寝台の上で待っているのが正しいだろうか…

そう考えてアーサーはおそるおそるその大きな寝台の上へとよじ登って、そこに座ってギルベルトを待った。

正直本当に不安だし怖い。

でも、せっかく見つけてきてくれた兄に迷惑をかけたくないということとは別に、今は自分自身の感情として相手に嫌われたくないと思い始めていた。
だから頑張ろうと思う。


そしてそれから数十分後。

寝室のドアが開いて部屋の主であるギルベルトが顔をのぞかせた。
すぐ明かりをつけてアーサーの姿に気づくと、アレ?という風に目を丸くする。

「えっと…なんで俺様の部屋?」

と、別に怒った様子はないのだが不思議そうに聞かれて、この対応は失敗だったのかと、アーサーはまた焦った。

「ご、ごめんなさいっ!」
と、謝罪すると、

「いや、いいんだけどよ。
あっちの部屋、何か寝にくかったか?」

と、続けられたので、アーサーはハッとした。


なるほど。
シたら、後始末とか片付けとかが必要になるだろうし、自分達の場合、働いているギルベルトと違って自宅にいるアーサーが家事をするのだから、片付けるならアーサーの側の部屋の方が良いのは当たり前だろう。

勉強はずっと自宅で家庭教師に教わっていたし、物心ついた頃から11歳までは家族全員から距離を置かれていて他人とあまり接してこなかったので、そのあたりの日常的な空気が絶望的に読めない自分が嫌になる。

とりあえず間違っていたと思うなら即軌道修正だ。

「あっちの部屋でするんだなっ。
すぐ戻るっ!」
と、寝台から飛び降りるアーサーだが、そこで

「ストップ!!」
と、ギルベルトから制止の声がかかり、腕を取られてゆっくりと寝台の端に座らされた。

そうしておいて、彼は自分自身は少し離れたところにあった小さな木の丸椅子を持ってきて、それに座って、やや見上げ気味にアーサーと視線を合わせてくる。

きれいな紅い目からは特にマイナスな感情は感じられない。

整いすぎていて少しキツイ印象を受けそうな顔なのだが、アーサーと話す時はいつもそこに笑みを乗せてくれるので、怖い印象はなくて、それどころか、どこか親しみやすく安心感を感じた。

今もちょっと困ったようにきれいな形の眉を八の時にしながらも、口元には笑み。

「あのな、もう少し落ち着いてから全部意思の疎通をすりゃあ良いかと思ってたんだけど、今いろいろ確認しておいたほうが良さそうだな。
ちょっと遅いけど、あと1時間ほど起きてられるか?」

という言葉もどこか子どもに言い聞かせる大人のようにゆっくりと優しい響きで、いつも他人に何か言われる時は批難される時、という感じに育ってきたアーサーですら、緊張感を感じないのがすごいと思う。

アーサーが彼の言葉にこっくりと頷くと、彼はまた笑って頭を撫でてくれた。


その後彼の口から出たのは先ほどと同じ説明。

子どもを作らないための便宜上の配偶者を求めてアーサーと籍をいれることしたこと。
だから別に夫婦生活は必要ないということ。


それは本来なら喜ばしい発言だったはずだ。

アーサーの側も父親が執着する母親の面影がなくなるくらいに育つまで、父親の手が及ばない場所に避難することが本来の目的である。

ただなにもせず4年間ほど生活をさせてもらえれば、それが一番のはずだ。

なのにその発言をアーサーはひどく悲しく思った。

互いに条件が一致して利があって成り立っている関係で、どうせならギスギスするよりは穏やかにと思って優しくしてくれているのであろうことはわかっていても、ギルベルトの気遣いはまるで本当に大切な家族にたいするもののように感じられてしまう。

長兄が言っていたように、いつか婚姻関係を解消することがあっても良いパートナー良い友人となれる可能性があるなら、そうなりたいと思うし、婚姻の解消がイコールまったくの他人になってしまうのは悲しい。

それでも期間限定の関係として一定の距離をキープされて、数年後に本当に知らない他人のようになってしまうのだろうか

「…俺じゃ…だめ…か?」

涙と共にそんな心の想いが口からこぼれ落ちると、またギルが慌てた顔になった。

そして
「いや、ダメとかじゃなくてっ!」
と、目の前で否定するように大きく手を振る。

泣きすぎてまたわけがわからなくなって、その後の話を全部冷静にきいてはいられなかったが、とりあえず、アーサーのことはわりあいと気に入ってくれていること、でもまだ子どもっぽく見えるから手を出すのは怖いということは聞き取れた。

なるほど。
子どもっぽい…つまり色気か色気が足りないのか……

と、ここでアーサーは1人脳内で超解釈をした。

そのあたりは当たり前だが実家でほぼ家族以外と顔を合わせることがなかったので、考えたこともなかったが、色々調べて頑張ろう。

そう思えば落ち着いてきて、直前の言葉のとおり、アーサーと一緒にいることは全然問題ないと思っているらしいギルベルトが最終的にもう遅いから寝ようと横にはいってきたので、その懐に潜り込むようにして、一緒に眠った。

明日ギルベルトが会社にいったら頑張ろうと思いながら。



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