フェイクorノットフェイク、ソレが問題だ_ギルベルト・バイルシュミット3

「んで?そろそろ名前くらいは聞いていいか?」

そう聞かれたのはプリンの最後の一匙をすくって口に入れたあたりのタイミングでのことだった。

それでハッと我に返る。


そうだった!まだ挨拶すらしていなかった!

というか、それでなくても、自分の配偶者としてこれはさすがにありえないと相手に思われている身で、欠食児童のように食事をがっついた挙げ句に、相手の分までデザートを食べてしまった。

うあぁぁ~~!!!

と、今更ながら頭を抱えたくなって、パニックになって、また涙が溢れそうになったが、相手は大人で、そんなことは今更気にしているわけではなかったらしい。


動揺するアーサーに慌てて

「名前わかんないと、呼ぶ時困るだろうがっ!他意はねえよっ!
さっきも言ったけど、俺様はギルベルトな?
呼ぶ時はギルでいい。お前は?
名前と呼び名を教えてくれ」

と、言葉の真意を伝えてくれる。

すごいあれで怒ってもいなければ呆れてもいないのかと、心の底から感心を通り越して感動すら覚えつつ、

「…あー…さー……アーサー…カークランド…だけど…名字は変わるから……」

と、アーサーが言うと、それはさすがに彼的に想定の範囲外だったらしい。

「アーサー・カークランドぉぉ~?!!!!」

と、思い切り驚かれる。

その驚きの分、自分が彼の目には伴侶としてありえなさすぎる人間に映っているんだろうなと思って、申し訳なくて申し訳なくて、

「ごめんなさいっ…!」
と、アーサーは今度こそ号泣した。



相手は今度こそ本当に驚いたらしくしばらく唖然としていたが、すごいことにそれでもすぐ驚きを押し込んだらしい。


「…あ~…俺様が悪かった。悪かったから泣くな」

と、正面の席に座っていたのをわざわざ立ってアーサーの横まで来て座ると、片手で身体をひきよせ、もう片方の手でなだめるようにアーサーの頭を撫でてくれる。

さらに本当に配偶者には期待していなかったのだろう。
アーサーのようにありえない人間でも破談にする気はないらしいことを伝えてきた。

そして、
「…思ったより幼く見えたから驚いたんだよ。
でもまああれだ、より同居人に近い相手をと選んでるから俺様の側としては問題ない。
衣食住は保証するし、俺様は平日は仕事だから居ねえけど、自由に過ごしてもらって構わねえから。
買い物とかは休日にマーケットその他教えるから、今週は迷われても引き取りに行けないし欲しい物があるならネットでしてくれ」

とまで言ってくれる。


なんて親切で心の広い大人なんだと、アーサーはそんな相手を探し出して来てくれた長兄に感謝した。
本当に感謝した。


ということで、配偶者として認められたらしい。
それにホッとするも、まだまだ難関は続く。

その最たるものが夫婦生活である。


一応、

「てことで、お前の部屋は向かって右側な。
とりあえず家具は入ってるし、今日は遅いから飯済んだならフロ入って寝ろ」

とは言われたのだが、言葉をそのまま真に受けてはいけないと、これまでの失態を挽回すべくアーサーは思う。


言われたからといって、自室として用意してもらった部屋に戻ってただグーグー寝てはダメだろう。

今までの流れから、もしアーサーがそうしたとしても流してくれそうだが、それでは相手からの評価は下がりはしても上がりはしないと思う。

絶対に失敗出来ない関係なのだ。
少しでも気に入られるようにしなくては……

この話が決まってから、同性でどうすれば良いのか一応調べてはみて知識としてはなんとかおぼろげにわかってきたのだが、正直怖い。

異性間でも怖いのかも知れないが、同性だと怖さ倍増だと思う。

しかしそこは乗り越えなければっ!!


そんなふうにひどく思いつめながらアーサーが先にフロを使わせてもらって出ると、なんと相手は

「さっぱりしたか~。
ほら、これ飲んでおけ。水分補給大事だからな」
なんて、爽やかさ満載なグラスに入った氷水を渡してくれる。

礼を言ってそれを受け取ると、どうやらレモン水らしく良い匂いがした。

カラカラとなる氷の音は涼やかで、僅かなレモンの酸味と共に、湯を浴びて暑くなった身体に心地よく染み渡る。

しかもアーサーがそれを飲み終わると、ふわふわのタオルとドライヤー持参で、アーサーの髪を乾かしてくれさえするのだ。

夫婦というより預けられた親戚の子のような扱いな気がしないでもないのだが、まあ8歳も年上の相手からすると、あるいはそんな感覚もたぶんにあるのかもしれない。


温かい風と丁寧に髪をいじる大きな手の感触が心地よくて、思わずうとうとしかけると、ふいに止まる風と離れる手。

あれ?と思って振り向くと、ギルベルトはドライヤーのコードをきれいにまとめて片付けながら、

「俺様もシャワー浴びてくるから、お前はもう寝とけ。
疲れただろ」
と、くしゃりと一度頭を撫でて言うと、浴室へと消えていった。

ああなんだか猫にでもなってギルベルトに飼われたい気分だ。


などと和むこと数分。
しかしそこでハッとする。

和んでいる場合じゃない。
夫婦生活だ、夫婦生活!!


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