フェイクorノットフェイク、ソレが問題だ_ 誘拐疑惑?!

え~っと……これ、警察?児相?

正直動揺した。
ギルベルトはリビングで立ち尽くす。



その日は結婚相手という名の同居人が家に来る日だった。
と言っても恋愛でもなく見合いですらないかもしれない婚姻による関係のためだ。

互いに便宜上というのがありありな同性で、まあ貴重品は貸し金庫だし、無くしたり破損したりが取り返しのつかなくなるものは自宅に置いていない。
だから、普通に仕事に行っている間に合鍵で入っておいてもらうようにマンションの管理人に手配して出社。

帰りは定時。
17時に会社を出る。

今日は極力早く帰宅をと思っていたので買い物も昨日のうちにしておいたし、普通に帰宅して、相手の意向を聞いて食事を作るか外食をするか決めよう。

そう思って淡々とした気分で帰宅。
いつも通り鍵を開けて家に入るも、特に人が出てくる気配なし。

不思議に思いながらも廊下を通り過ぎてリビングへ。

リビングのドアを開けるとそこにはソファに上半身を預けるようにぺたんと床に座り込んだまま眠っている少年の姿。

その両腕には茶色のティディベアをしっかり抱きしめていて、頬には何故か涙の跡。


なんだ?何が起こっている??

まさかあの馬鹿副社長はどこぞの中学校あたりから少年を誘拐してこのマンションに放り込んだのか?

誘拐でギルベルトが犯罪者になれば安心とでも思ったのか?

これ警察に連絡して説明したら信じてもらえるだろうか?

脳内を色々がクルクル回る。


幸いにして少年は時折身動きをしているから生きてはいるようだ。

落ち着け、落ち着け俺様!

とりあえず自分で自分にそう言い聞かせると、ギルベルトはそのままキッチンへと向かった。

冷蔵庫にはそれなりに食材がある。
とにかく夕食を作ってそれを食べさせながら事情を聞こう。

空腹よりは満腹のほうが穏やかな気持ちで話をきいてくれるのではないだろうか…と、そんな気持ちで料理を何品か。

ついでにデザートまで用意して、移動させるのもなんだからとリビングのローテーブルにずらりと並べる。

さあ、起こす準備は出来た!と、声をかけようと近寄ると、少年の鼻がヒクヒクと匂いを嗅ぐように動く。

もしかして食べ物の匂いに釣られているのか?

そう思って改めて見ると、ずいぶんと可愛らしい顔立ちの少年だ。

広い額にかかる金色の髪。
肌の色は真っ白で、まぶたの下に隠れていてもそれとわかる大きな目を縁取るまつ毛はくるんと綺麗なカーブを描いている。
小さく整った鼻と唇。
目以外のパーツが全て小ぶりで、全体的に小動物のような印象を受けた。



たいそう可愛らしいので眺めていてもなんだか楽しいのだが、いつまでもそうしていても埒があかない。

なので、

「…お~い、飯食わないか?」
と、驚かさないように少し距離を置いてギルベルトがそう呼びかけると、細い身体が跳ね上がった。

ビクッ!!と、震えたあと、ぴょん!と飛び起きる。


ぱっちりと開いた大きな目は淡い淡いグリーン。

それでなくとも顔の面積からするとかなり大きな目を驚きでさらに大きく見開いているので、ギルベルトはそれがこぼれ落ちてしまうのではないかと馬鹿な心配をしてしまった。

と、同時に明らかに動揺している相手に、敵意がないことを示すように両手を軽くあげて

「俺様はギルベルト。ギルベルト・バイルシュミット。
この部屋の持ち主だ。怪しいもんじゃねえ。
普通に仕事に行って普通に帰宅したらお前さんがそこで寝てたわけなんだけどお前は誰だ?」

と、とりあえず誘拐犯じゃないということは主張しておこうとそう言うと、相手は大きな丸い目からぶわっと涙を溢れさせた。

何か言おうとしているのはわかるが、泣きすぎていて何を言っているのかわからない。
しかし不審がられている様子ではない気がしたので、

「まあ落ち着け。
とりあえず飯食って落ち着いたら話そうな?
なんかあるなら相談乗るし、帰りたいなら送ってやるから」
と、ぽんぽんとその小さな黄色い頭を撫でてやった。

ぴょんぴょんと飛び跳ねている髪はなんだか子猫のような手触りで手に心地いい。
ギルベルトはくすん、くすんと泣く少年を助け起こすとソファに座らせ、食事を勧めた。



いただき

少年は泣きながらも行儀よく手を合わせるとそう言ってカトラリを手に取る。
そして手近な料理をパクンと一口。

一瞬止まる手、丸くなる目。

何かおかしな味でもしたか?とギルベルトも自分の皿に手を伸ばすが、まあ普通の味だ。

そんな彼の眼の前で、少年は次の瞬間、えぐ、えぐ、と泣きながらも結構な勢いで食べ始めた。

腹が減っていたのだろう。

体格を見て少なめに作っては見たのだが、それでもこんな薄っぺらい腹のどこに入るのだろうかと思う勢いで食う。

そうして気持ちいいくらいペロッと食事を全て平らげ、デザートへ。


フルーツを添えた甘いプリンを一匙すくって、しばらく凝視していたが、思い切ってというようにパクン!と口へ。

次の瞬間、ほわぁああ~という擬音がぴったりくるような幸せそうな顔をする。

まずい、こいつ可愛い!!

もともと小さいものは大好きで小動物も子どもも大好きなギルベルトは思わず釣られて笑みをこぼした。

少年はそうしてしばらくご機嫌でスプーンを口に運んでいたが、やがて中身があと数匙になったあたりで少し悲しそうな顔で口に運ぶ手がゆっくりになった。

もうそんな様子が可愛いは面白いはで、ギルベルトは必死に笑いをこらえて自分のプリンの皿を相手の側に押しやる。

「悪い。俺様帰る前にちょっと軽食つまんでたから腹いっぱいになっちまった。
良ければ食わないか?」
と言ってやると、しょぼんとした顔がまた一気にぱあぁぁっと明るくなった。

そして
「食うっ!」
と、言うと、またスプーンを口に運ぶ手の速度が元に戻る。

そんな姿を堪能しながら、ギルベルトは食後のコーヒーをゆっくりとすすった。



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