ギルベルトは一人になったところで、片手で顔を覆ってため息をついた。
相手は自分にとって一番の敵だという事はさすがに認識しているので、そんな相手に弱みを見せるわけにはいかない。
だから動揺を表に出さないのはもちろんのこと、相手の手の内などお見通しで、それくらい自分にとってはどうといったことでもないのだと言う態度でプレッシャーをかけてみた。
それは随分と成功したらしいが、実は相手がいなくなったら全身から汗が吹き出して身体中の力が抜けるほどには、動揺していた。
さきほどの見合い相手の写真と釣書の束。
その、かなり年上の女性達と男性に混じった数少ない若い女性。
あれは罠だった。
副社長はおそらくギルベルトがその若い女性達のいずれかを選ぶと思って用意したのだろう。
そして…その女性とギルベルトが一緒になった時点で副社長の計画は成功する。
つまり、ギルベルトに自身の子孫を残させないという計画が…。
年上の女性達もあるいはそうなのかもしれないが、数名居た若い女性達は確実になんらかの理由で子どもを埋めない女性なのだろう。
何か婦人科系の病気が…というギルベルトの言葉には返答を寄越さなかったが、変わった顔色が何よりの証拠だ。
外部の会社で成功して力をつけられたくない…そんな彼らの要望で、他の会社で自由に働く事も諦めて、上に立たない前提で淡々と会社の業績を上げ続けているというのに、まだ安心出来ないで、そこまでやるのか…というのが率直な気持ちである。
今まで自分が半分育てたくらいの気持ちの弟可愛さに色々譲歩をしてきたわけだが、ここまでだと譲歩し続けるかそれとも戦うか、正直迷った。
ギルベルト自身が小さなもの、可愛いものが好きだというのもある。
まだ特定の恋人も作っていなかったので現実的に考えてはいなかったが、もちろん将来的には子どもがいる家庭というものを漠然と脳裏に描いてはいた。
それを諦めてこの状況を続けるのがさて正しいのか…と、顔には一切出さずに悩んだのだが、結局ギルベルトは現状維持を選ぶことにした。
今目の前に差し迫っていない、将来も実際にそんな気になる相手が出来るかどうかもわからない未来絵図のために今後さらに重責を負うであろう弟を見限るのかと思えば、否というしかない。
ということで、どうせなら絶対にこれ以上おかしな警戒心を起こさせてちょっかいをかけてこられないように、そして同時に、いつか気持ちが変わった時にリカバリがきくように…そんな2点からギルベルトが選択したのは最年少の16歳の少年だった。
年上の女性陣に関してはただ、庇護欲が強いギルベルトなら年上よりは年下を選ぶだろうということで選択範囲に放り込んでおいた可能性もあるので、子どもが産めないわけではないかもしれない。
そう考えると、子どもが出来た場合に下手をすると副社長の側の人間に危害を加えられかねないし、子どもが完全に出来ないとなると、万が一ギルベルトの側に別に好きな相手でも出来て子どもを望むということになった時、それが離婚の理由かとひどく傷つけるだろう。
その点、男なら気が楽だ。
おそらく向こうも何らかのわけありの政略結婚なのだろうし、気軽な同居生活をしつつ、互いに好きな女でも出来たら別れても良い。
もしかしたら婚姻関係が終わったとしても気が合う相手なら友人にくらいなれるかもしれない。
ということで、写真を放り出して釣書を一通り。
まだやり直しがききそうな一番若いのをピックアップした。
こうして決定した結婚。
式どころか顔見せすらない。
決まった1週間後の週末に3LDKのギルベルトのマンションに相手の荷物が運ばれてきて、翌日、ギルベルトが会社に行っている間に相手が来る予定だ。
結婚というより本当にルームシェアでもするような軽さの始まりだった。
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