フェイクorノットフェイク、ソレが問題だ_ 仕組まれた婚姻1

「この中から好きなのを選び給え。
我々も鬼ではないのだよ。
ちゃんといくつか選択肢を用意してみた」

それは24歳の誕生日。
大学を2年スキップして20歳で卒業し、社会人となって4年目のことである。

ギルベルトの祖父は財閥の総帥。
実母は幼い頃に亡くなっていて、実父と後妻との間には6歳年下の弟が1人いる。

その後妻も弟が10歳の時に亡くなった。
それからは使用人はいたものの忙しい父はほぼ不在。
家族としては2人きりだった事もあって、兄弟仲はかなり良いほうだと思う。

普通の家ならそれで特に問題はなかったのだが、大財閥の総帥の跡取りの家となるとそういうわけにもいかない。

後妻の兄がそのコネクションで本社の副社長に。
そしてその副社長が、血の繋がりのない長子のギルベルトよりも、親族の腹の子に家を継がせたくて画策したなどというのは、もう全く珍しい話でもなくよくあることだ。

結局それでも長子のギルベルトに継がせるつもりだった祖父が15年ほど前に亡くなると、社長職に就任した父は当時はまだ存命中の後妻とその兄の副社長に押し切られる形で、弟を跡取りとすることを決めた。

だからギルベルトはそれからは自分はいずれ家を出て自活していかなければならないのだと思って学業その他に取り組み、いわゆる一流大学を好成績で卒業したのだが、なまじ父親の血を引いていることで、副社長が彼を自由に外に出すことを恐れ始めた。

それでなくとも辣腕だった祖父の代からの社員たちは、優秀な長子を差し置いて次男を後継者にという後妻の親族のゴリ押しを潔しとしていない。

下手をすれば財閥を真っ二つにするレベルでの離反も有り得そうな勢いだ。

なのでできればギルベルトのことは財閥内で子飼いにして敵対させないように最終的に弟の補佐役を務めさせたい。

そんな理由からの圧力で、ギルベルトは外部に勤める事を禁じられて実家の財閥内の会社に就職することになる。


まあギルベルト的にはそれも別に問題はなかった。

両親ともにいないも同然だった家で、自分が育てたも同然の6歳年下の弟は可愛かったし、その弟を助けながら生きていく事になんの不満もない。

むしろトップにならなくても実祖父や実母から相続した莫大と言って良い遺産もあるし、財閥の頂点に立たされない事で、それなりに自由にやりたいことをやって充実した生活を送っていた。

ところが副社長を始めとする後妻の親族はそれだけでは安心出来なかったらしい。

仕事にも慣れて落ち着いてきた頃、24歳の誕生日祝いにかこつけて、結婚話を持ってきた。


ずらりと並ぶ写真を前に唖然とするギルベルト。

わざわざ持ってくるということ、そして冒頭のように言ってくるということは、何らかの意味があるというか、拒否権はないと思ったほうが良いのだろう。

仕方なしにパラパラと釣書と写真に目を通す。

下は16歳から上は50歳まで。
出身も一般家庭からいわゆる良家の子女までバラエティに富んでいて、それどころか、性別も女性だけでなく男性までいる。

ということで、会社のためというわけでもなさそうだし、正直選択基準がよくわからない。

「…これ…この中から誰かを選ばなきゃいけねえんだよな?」

行儀悪く肘をつきながら、興味なさげに写真をめくりつつギルベルトが言うと、副社長が

「この中で気に入らなければまた探させるが
と言うので、おそらくこの写真の相手達が特別重要というわけではないのだろう。

とすると、この全員に副社長がギルベルトと結婚させたい共通の要素があるということか

そう思って写真ではなく釣書の方をもう一度すべて凝視する。



ざっと見たところ若い女性率が低いくらいで、特徴的な共通点はない。
一見、色々な相手を集めてみたと言えなくはないだろう。

だが、結婚年齢に下限はあっても上限はないし、同性婚も多くはないがレアと言うほどでもないのだが、一般的にはやはり同年代以下の異性と結婚する人間が多い。

もちろんギルベルト自身のそれまでの性的指向がかなり年上の女性とか同性に偏っているとかいうことはなかった。

そう考えると、問題を解く鍵はそのあたりにあるのか。


色々なタイプを取り揃えているようでいて、ギルベルトの年齢に対して適齢と思われる女性が少ないこと……そう焦点を絞ってみると、一つの可能性を思いついた。

──…なるほど……
と、釣書を手にギルベルトの口から出たつぶやきに、副社長はピクリと眉を動かす。

実に上から目線で全く表情を変えなかった男が唯一見せた反応に、この見合い相手達の選択に大きな他意があることを確信して、ギルベルトは苦笑した。

「これ若い女はなんらかの婦人科系の病気を持ってるって考えていいんだな?」
と言うと、一気に青ざめるところをみると、図星らしい。

そこを意地悪く突っ込んでも良いのだが、突っ込んだところで状況は変わらないだろう。
なら、面倒な相手との面倒な会合は早く済ませるに限る。
そう判断して、

「じゃ、こいつにするわ。
見合いの席とか相手が用意してくれっつ~んなら用意しても良いけど、俺の側は別に必要ねえ。面倒くさいしな。
新居も同じく相手が望むなら用意しても良いけど、特に要望がないなら俺の家に来させてくれていい。
必要なものがあれば、そっちで用意させてやってくれ。
そのくらいはしてもいいだろ?」

と、手にした釣書をその他の多数のものの上に放り出してそう言うギルベルトに、副社長は心底ホッとした様子を見せる。

そしてギルベルトの言葉を了承して部屋を出ていった。



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