リトルキャッスル殺人事件_終章


アーサーの弾くワルツの最後の一節が終わると、ジョンは拍手をして電話を指差した。
そして言う。

「濃霧というのは嘘だ。まだ電話をしてないから警察を呼んでくれ」
その言葉にギルベルトが立ち上がると電話を手に取り、警察に連絡した。


2時間後につけると言う話で、それをギルベルトが周りに報告すると、またアーサーはピアノに指を置く。

「警察がつくまで…何かリクエストがあれば…」

「ああ、そうだな、ありがとう、じゃあ…」
リクエストに従ってまた静かに流れ始めるワルツ。



やがて時間がたち、警察が踏み込んでくる。
それでも静かに流れ続けるワルツ。
ジョンが建物を出るまでそれは続いた。


「もう…いい、お姫さん」

ジョンが連行されて見えなくなったところで、ギルベルトがアーサーの肩に手を置き、音がやむ。
そして…アーサーはパタンともう弾かれる事はないであろうピアノの蓋を閉じた。


目を潤ませて警察の船に向かうアン、ジェニー、ソフィ。
同じく船に向かうリックとユージン。

警察の責任者らしき人間が通報者ということでギルベルトに事情をたずね、全て話し終わった所でキッチンの奥のワイン蔵に警察が踏み込んで行った。

「大変ですっ!死んでます!」
の声で責任者と共に慌ててワイン蔵に向かうギルベルト。

ジョンがダニーをワイン蔵に閉じ込める様子は皆がみていたはずで、その時は確かに生きてたはず…。

そこでハッとしたギルベルトは内側のドアノブに手をかけようとした警察官の手を慌ててつかんだ。

「?」
「針が…たぶんこれが死因かと…」
と、ギルベルトはドアノブを指差して言う。

把手にはおそらく瞬間接着剤か何かで接着したのか小さなトゲ。
おそらく毒が塗ってある。

閉じ込められたダニーが取りあえずドアを開けるのを試みて握るだろうとあらかじめ仕掛けておいたのだろう。

元凶はマイクよりむしろダニーなわけで…マイクを殺害してダニーを生かしておくはずがない事くらい気付くべきだった。

やられた…自分のミスだ…とギルベルトは大きく肩を落とした。
こうして…最後の最後まで後味の悪さを残して事件は解決した。




「フェリ…今回はごめん。嫌な思いさせたよね」
送ってもらっている警察の船の中でジェニーがフェリシアーノに声をかけた。

「あれれ。俺、てっきりいびられるかと思ってたけど…」

フェリシアーノにとっては率直な感想だったのだが、それはジェニーには痛烈な批判に聞こえたらしい。
普段は気の強いジェニーが泣いた。

「ごめん。本当にこんな…フェリ達にシンディーの犯罪暴かせるなんて事になるなんて本当に思ってなかったのよ。ごめんなさい」
そのジェニーを左右からアンとソフィがなぐさめる。

確かに後味の悪すぎる旅行だった…。

しかしまあここまでの自体が起こったのはジェニー達のせいではない。
彼女達は彼女達でシンディーに対する友情と善意のみのために来たのだ。責めるのは酷というものだろう。

というか…フェリシアーノはジェニーに言われるまで責任を感じられる立場だと全く意識していなかった。

「まあ俺はさ、居ただけだから。
むしろ迷惑かけたのはギルだよね」

と、自分的見解を述べてみると、女性陣の視線は当然、ジ~っと波間に視線を漂わせて考え込んでいるギルベルトの方へ…

凛とした表情で遠くを見つめるその様子は、美しく絵にはなるのだが、なんとなく一般人には近づきがたい印象も与える。
その隣に寄り添うように座るアーサーと2人、なんとも麗しい光景だ。

それを見てとたんにまた元気になってくる3人娘。

「なんか…さ、今回はギルベルトさんマジカッコよかったよねスペック高すぎない?」
ソフィがボソボソっとささやくと、アンとジェニーがうんうん目を輝かせる。

「可愛さで殿下かカッコよさでギルベルトさんっ。
船が着くまでに最後のチャレンジいっちゃう?」

そう言っている間に特攻している3人娘。


ようやく緊張の糸がほぐれて放心中だったギルベルトは、いきなり賑やかに駆け寄ってくる女性陣にぎょっとした顔。

ビクッとしたギルに顔をあげたアーサーは、フェリシアーノがわびるように手を合わせていることに気づき、なんとなく事情を察して諦めの息を吐きだす。



「ギルベルトさん、殿下っ、あたしたちの中で誰が一番好みですっ?」

言われてただただぎょっとした表情のギルベルト。

「悪い。好きな奴いるから…」
と、言っても、

「え~!とりあえず誰かとつきあってみませんかっ?
その子より好きになれるかもしれないじゃないですかっ!」
と食い下がられて心底こまっている。

そう言えば、ギルベルトはずっと男子校なので、女性の相手は本来は得意ではないのだろう。
アーサーはどんな時でも自信あり気なギルベルトの意外な一面を発見した気分になった。

そしてギルベルトの代わりににこやかに答える。

「ごめん、レディ達。
3人共とても魅力的だと思うんだけど、俺は恋愛対象は女性じゃないからそういう意味で誰が一番魅力的かということもわからないんだ。
ギルも男子校育ちだしね。察してもらえないかな?」

シンとする女性陣。
黙って視線を送られて、ギルベルトは慌ててクビを縦にふる。

そして次の瞬間きゃあああぁあーーー!!!!
と、歓声。


「どんなタイプが好みなんですかっ?!
やっぱり入学式とかに好みの子が入ってきたりしないかチェックしたりするんですかっ?!
先生とかは対象範囲なんですかっ?!!!」


てっきり引かれるかと思いきや、これはこれで楽しいらしい。

怒涛の勢いの質問にますます引くギルベルト。
それに苦笑しつつアーサーは

「あ~、そのあたりはあちらの2人に聞いても良いんじゃないかな?
親しい方がぶっちゃけた話をしてくれるかも?」

と、にこりと彼女達が来た方向にいる2人に視線を送ると、3人娘は怒涛の勢いでまたフェリシアーノ達の方へと戻っていった。



3人娘を見送って改めて安堵の息を吐き出すギルベルト。

本当にこのところ女難の相続きだなと思わずこぼすと、隣の恋人様は

俺としてはその方がありがたいけど
などと不穏な言葉を発してくれるので青くなったが、その後に続く言葉が

──だってそうしたらギルがやっぱりレディの方がとか言うこと思わないだろうし

などということで、うつむいていて表情は見えないが耳まで赤くなっているのを見ると、途端にテンションが上がる。

そして当然のごとく、

「あのさぁ今回俺様、女たちがお姫さんにまとわりついてんのめっちゃ嫉妬してたんだけど?
てか、いつでも自分以外の人間がお姫さんと一緒にいると、すっげえ気にしてる。
本当はお姫さんのこと、俺様以外の人間がいないところに拉致監禁したいレベルで嫉妬してんだけど

と、そんなお姫さんの心配は全くの杞憂だということを伝えると、

「ギルも嫉妬なんてするのかっ?!」

と、なんだかびっくり眼になる。

いやいや、俺様思い切り顔にも態度にも出てたよな?と思うが、恋人様の謎なレベルの自己肯定感の低さをもってすると、単なる不機嫌に見えていたらしい。

本当に…三人娘に嫉妬もすれば、シンディの謎な反応で心配もしたのだ。

それもこれもひたすらにアーサー愛しさゆえなのだが、本当に本当に感心するほど愛されている事に恋人様は鈍感だ。

「これはもうさらにドロッドロに甘やかすしかねえな」

と、ギルベルトはそう言ってうんうんと頷くと、自分の精神衛生上のためにも恋人の精神衛生上のためにも、金輪際忖度なんかせず、どこであろうと誰がいようと、恋人を抱え込み甘やかし倒そうと決意したのだった。


── 終 ──

Before <<<


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