とりあえずジョンが犯行を認めた時点でギルベルトの気がかりは一点だけだ。
もちろんそれは、
これは彼女が望んだ結末だったのか…?
ということ。
幸いにしてジョンもシンディも全てを受け入れているように見える。
ギルベルトが隣に来た時点で彼女は少し不思議そうに見上げてきたが、
「あのな…俺様、犯行方法も動機もわかったんだが、どうしても解せないわけなんだけど…。
真犯人を暴かないと無関係の奴に矛先が向くって、なんであんな話したんだ?
ぶっちゃけあの話をされた時、その無関係な奴って、今回の旅行の発端になったあんたや空手部からは一番遠いお姫さんのことかなって、俺様は思ったわけなんだけど…」
視線は一応アーサーに向けつつも、そう始めたギルベルトに、シンディは、ギルベルトが自分の元に来たことについて、ああ、と、納得したようだ。
「…うん、そうね。
外で見回った時にアーサーさんがギルベルトさんの大切な相手だってわかったから…
アーサーさんの身の安全について指摘すれば、ギルベルトさんは絶対に動くと思ってた」
そのシンディの言葉は予想通りではあったものの、やっぱり何故そんな話をしたのかという理由はわからない。
「それ…本気でわかんねえ。
自分が犯人だったら、本当なら真相究明されないでダニーが犯人ってなってた方が良かったんじゃねえのか?
なんでわざわざ自分が犯人だって暴かせるような事したんだ?」
そのギルベルトの問いに、シンディは笑みを浮かべた。
まるで普通の女子高生が楽しそうに浮かべるような笑み。
そして、その後のセリフもギルベルトには理解できない。
「あのね、ギルベルトさんに暴いてほしかったから」
「はあ??」
今自分はずいぶん間抜け面をしているのだろうとギルベルトは思う。
思ってもどうしようもないくらい、彼女が言っている言葉が理解できなかった。
そんなギルベルトの表情を楽しげに堪能したあと、シンディは少し視線を下にむけた。
「あのね…私、高校には○○線で通ってたの」
「……」
「それでね…いつかな、たぶん1年になってすぐくらいかな…電車の中でね、すごい人みつけた。
まるで海外ドラマみたいな燕尾服来てる学生さん。
銀髪…は、まあ珍しくもないけど、真っ赤な目って珍しいよね。
色々な意味で目立ってて…あとで帰宅して調べたら、あれ海陽の制服なのね」
「…それって…俺様…だよな?」
「うん」
海陽の制服はもちろん海陽の学生全員が着ているが、赤い目は彼女が言う通りかなり珍しい。
その2点が揃っているのは自分しかいないだろうと、さすがにギルベルトも思う。
「それでね、通学の時は同じ車両に乗るようになったの。
毎朝見るのが楽しみになった。
お友達や弟さんと一緒に話しているの聞いて、生徒会役員なこと、頭がすごく良いこと、運動神経も抜群で…なのに気さくな人柄な事も知った。
いつかお話したいなとか考え始めて1学期間。
毎日毎日見てて…夏休み前にね、思いだけでも伝えようと思ってた。
受け入れてもらえるとかじゃなくて…受け入れられないでも誠実に対応してくれそうな気がしたから。
そこから顔見知りか、すごくうまくいって友だちくらいになれたら幸せだなって思ってたの」
「………」
驚いた。
容姿が特徴的な事、制服が目立つ事などもあって、通りすがりでも注目されることは少なくはなかったから、正直自分の直接関わりのある人間以外をそれほど気にしたことはなかったので、全く気づかなかった。
なるほど、アーサーが埠頭で合流した時に彼女が何か意味ありげな視線を向けていたという相手は自分だったのか。
そんな風にギルベルトが驚いている間もシンディの話は続いていく。
「Xデイは夏休みの3日前の月曜日。
そう決めてたんだけどね……
その4日前にトムが死んでそれが同じ学校の同級生のせいだって知って…完全に諦める事にした
弟の復讐のために行動する決意しちゃったし…そのためには他の人を好きな状況は作れないから…。
だから…つまんなかったな…。
夏休みもクリスマスもバレンタインも…。
イベントのたびやりきれない気分になった。
何故あたしこんな思いしてるんだろうって何度も思った。
なんだかやけくそな気分で、でも全てが終わったら何事もなかったように、普通に学校卒業して…さすがに殺人事件が起こったらペンションも続けられないだろうから普通にOLでもして、でももう男は本当にまっぴらだから1人で静かに生きて死んでいくんだろうなって思ってたの。
ところが、いざ決行の日がきて、フェリの友人が来るって言われて待ってたらその1人がずっと見てきた電車の君なんだもん。
嬉しいのか悲しいのかわからなくて…でも好きだった時の気持ちを思い出したら、なんだか思っちゃったの。
自分はもう”普通”には戻れないんだなって…
殺人がバレなくて逮捕もされなくて、普通に日常が送れたとしても、もう純粋に電車で一緒になる海陽の学生さんに恋してた頃には戻れない。
色々汚れすぎて、もう告白することすらできないんだなって今更ながらに思ったら、”普通”もどきの状況も欲しくなくなった。
未練が残らないように、好きだった相手に容赦なく糾弾してほしい…そんな気持ちになっちゃったの」
今まで3回の殺人事件に立ち会ってきたが、完全な第三者ではない状況というのは、そう言えば今までなかったように思う。
なのでシンディの告白を聞いて、さすがになんとも言えない気分になった。
恋人はいてそれは男性で、女性に夢を持っているわけでもないが、一応女性に対しては紳士であれという教育は受けて育っている。
告白されて断る場合もそれなりに礼は尽くしているほうだとは思うし、相手をそういう意味で好きになれなかったとしても、好意に対しての感謝の念くらいは持ち合わせている方だ。
そんな状況でどこか困惑しきった顔をしていたのであろうギルベルトに、シンディは苦笑した。
「一応言っておくと、ギルベルトさんが負い目を感じるとか言う必要はかけらもないんだからね?
私は勝手にやけくそになっていたし、破滅願望もあった。
だから…やけくそついでにどうせならギルベルトさんに心の底から憎悪されて嫌われてふっきれるようにって思って、途中…アーサー君を道連れにしちゃおうかって考えてた時期があるし。
結局…ルートさんが、アーサーさんと出会ってギルベルトさんが幸せそうで兄弟として嬉しいみたいな話してて、幸せになってほしかった弟の事とか思い出して、兄が不幸になったら弟は悲しむんだろうなって思ったら出来なくなっちゃったけど…」
その告白でまた、ギルベルトは先ほどとは別の意味で心臓が痛くなった。
そして弟であるルートに心のそこから感謝する。
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