「兄さん、どうした?何かあったのか?」
ルートはすぐ来た。
すぐ後ろにはフェリシアーノもいる。
厳しい顔のギルにあまり良い話ではないのだろうと硬い表情のルートとフェリシアーノ。
ギルベルトは一瞬躊躇するが、大きく息をすって吐き出した。
そして
「フェリちゃん、わりいな!」
と、そのまま頭を下げる。
「ちょ、ギル、なんなの、いきなり」
戸惑うフェリシアーノにギルベルトは言った。
「俺様はこれからフェリちゃんの大事な人間関係壊しに行く事になる」
さすがに…これまで3回も殺人事件を越えて来ていると、それだけでわかったらしい。
「もしかして…シンディー?」
フェリシアーノは意外に静かな声で聞く。
「だけじゃ無理だから…ジョンさんもか。つか、謝らないでよ、ギル」
言ってフェリシアーノも苦笑した。
そして
「あ~あ、またジェニーにいぢめられるね、これは」
と肩をすくめる。
「ま、もう学校も違うしね…近所でもあまり会うことはないし…
でも俺達は4人、あと何十年か…それこそじいちゃんになるまで一緒なわけだし…
…ルートが居れば俺はそれでいいや…」
フェリシアーノが顔をおしつけたルートの肩口が濡れていった
それを慰めるように、ルートはポンポンとフェリシアーノの頭を軽く叩く。
こうして明かしにくい真実でも知ってしまったからには明らかにする…そう決意して、4人はユージンと共にそのまま下に降りて行った。
硬い表情のギルベルトとアーサー。
珍しく表情のないフェリシアーノの手はルートがしっかり握ってる。
唯一ユージンだけが飄々とした能天気な様子で、リビングへと足を踏み入れた。
「どうしたんだい?ギルベルト君もフェリシアーノ君も」
そんな二人にジョンを始めとして残った一同が少し不安げな顔を向ける。
「重大な…報告があります。」
少しでもギルベルトの負担を減らそうと、まずアーサーがそう切り出した。
言ったらもう引き返せない。
真実は…必ずしも正義ではない。
それがわかってても言うべきなのか、4人ともわからない。
それでも…言うしかないのだ。
「マイクを殺害したのは…ダニーじゃありません」
アーサーの言葉はリビングにいるみんなに衝撃を与えた。
「マイクの殺害について、これからギルが説明しますので、全員着席をして下さい」
アーサーはそこでギルベルトにバトンタッチして自分は席に着く。
フェリシアーノとルート、それにユージンにもチラリと視線を向け、3人が席に付くと話を引き継いでギルベルトが続けた。
「結論から言うと、殺害方法は遺体を見る限り絞殺です。
マイクは絞殺された上で魚網に包まれ、見晴し台から遺体が発見された桜の木まで張り巡らされたロープを滑らせて桜の木まで運ばれた。
フェリちゃんとアルトが昨日見た白い物体というのは、その滑り落ちる魚網に包まれたマイクの遺体だったんだ」
ギルベルトの言葉でリビングにざわめきがおこる。
「あ~…始めから説明をするとだ、
犯人はその仕掛けをつくるため、まずロープを持って見晴し台に登り、ロープを手すりを挟むようにして、ロープの両端を下に落とした。
その後、見回りと称して外に出ると倉庫からゴムボートを出し、宿の裏側に回ってボートを使って水に垂れたロープの両端を回収、そのまままた岸に戻ってその両端を桜の木の後ろで結び、丁度見晴し台の手すりと桜の木を輪っかでつなぐような形にして、ゴムボートの空気を抜いて宿の中に持ちこんだ。
その後跳ね橋があがったんだ。
そして普通に全員揃っての夕食。
この時点で共犯者があらかじめマイクとダニーの間に亀裂が入る様にさせ、なるべく二人がコミニュケーションを取らない様に画策した。
そして食後、共犯者が自分がダニーをひきつけておくからと、マイクに自室にボートを隠す様にうながした。
これはたぶん…ダニーが自分に気があるだけで、自分はマイクといたいから、後でボートで抜け出して二人きりででかけようとでも言ったんだろう。
ここでマイクは”自分で”自分の部屋にボートを隠し、のちに何も知らないダニーが自室に戻った。
そして犯行時刻。
共犯者が携帯かメールか何かでマイクを呼び出した。
これはおそらく空き部屋の鍵が手に入ったから一緒にとでも言ったのかと思う。
そして普通に身一つでオートロックの部屋からマイクが出た事でダニー以外入れない密室の完成だ。
その後犯人は空き部屋でマイクを殺害。そのまま見晴し台まで連れて行き、あらかじめ持ち込んでおいた魚網に魚と共に遺体をいれ、ロープの結び目を引き寄せてロープをほどき、網を通すとまたロープを結んでマイクを桜の木の根元まで滑らせた。
そしてマイクが桜の木に到着したタイミングでまた結び目をほどいて一本のロープに戻してそれをたぐり寄せて回収したんだ。
魚を一緒に網にいれたのは、おそらく遺体を魚に見立てている様にみせて、遺体を網に入れないといけなかった本当の理由を隠す為だと思う。
その後は朝まで普通に過ごし、跳ね橋をおろして皆が遺体を発見するのを待ち、さりげなくボートがダニーとマイクの部屋から発見されるのを待ち、それでダニーが犯人ということにして拘束。
見回りに行ったのが誰か、マイクとダニーで揉めていた原因は誰かを考えて行けば、主犯、共犯はわかると思うから、ここでは明言を避ける。
以上だ」
「これは…すごいな。推理小説みたいだが…。実際それが行われた証拠があるのかな?」
ギルベルトが一旦言葉を切ると、ジョンが拍手をして立ち上がった。
「証拠は…いくつか…。一つはこれ…」
ギルベルトは俯き加減にそう言うと、ビニールに入ったハンカチを取り出した。
「蜘蛛の巣と…それについた桜の花びら。
昨夜客室の掃除をしていたというジョンさんの肩についていた蜘蛛の巣を払ったハンカチです。
客室は全部海の方向を向いている。
もし窓を開けていたとしても…さすがに反対方向にある桜の花びらは入ってこない」
ギルベルトは深いため息をついた。
「遺体を包んでいた網は…その日の朝に漁に使ったはずなのに何故か埃のついた蜘蛛の糸がついていた。これは見晴し台で付いた物かと思われる。
さらに桜の木の幹には何か紐のような物で擦った後、見晴し台の手すりも同様に何かで擦ってその部分だけさびがはげたような跡があった。以上から遺体の移動法はほぼ間違いないと思う。
おそらく…以上の推論を説明した上で要請すれば警察も通話記録を調べるだろうし、そうしたらさらに…」
「もういいよ、ギルベルト君。」
感情を殺して淡々と語るギルベルトの言葉をジョンが遮った。
「君の言う通りだ。マイクを殺害したのは私だ。
シンディーは何も知らずに私の指示の通りに動いただけだ」
「伯父さんっそれはっ!」
「黙っていなさいっ!」
立ち上がって口を開くシンディーの言葉をジョンは強い口調で遮った。
「動機は…シンディーの弟さんの事ですか?」
そこで俯き加減で言うギルベルトに、
「驚いたな…そこまでどうやって調べたんだ…。」
と、ジョンは目を丸くする。
「そう…シンディーは4月生まれ、トムは3月生まれと約1年違うが、二人とも高校二年生だった。
二人とも両親の夫婦仲が悪くて小さな頃からよくここに預けられててね、シンディーは調理や掃除などを担当、トムはよく食事時にピアノを弾いてくれて…小さなピアニストとして喝采を受けていた。
ずっと独身だった私には二人は我が子も同然だったんだ。
二人とも大きくなったらここで働くんだと言ってね、シンディーは高校を卒業したらそのまま、トムは音大を出て有名なピアニストになったらここでコンサートを開くんだとよく言ってた。
そのためには普通の勉強も必要だからと塾に行って…勉強は得意じゃなかったがあの子はあの子なりに一生懸命勉強して…クラスがあがったと思ったら入れ違いにクラスが下がったダニーとその仲間のマイクに暴力を振るわれて…指を骨折。特に左手の中指はもう二度と動かないとわかった翌日、トムは塾の屋上から飛び降りて命をたったよ。
しかしスキャンダルを怖れた塾に受験ノイローゼで片付けられ、トムを殺したも同然の二人はなんのお咎めも無しだった。
そこで私はシンディーに奴らに近づくように言って、ここに連れて来させたんだ。
あとはギルベルト君達の言う通りだよ。
…まったく…驚いたな。
君達みたいな子に出会う確率なんてありえない低さだろうに…こんな時にこんなタイミングで出会うとは…。
運がいいのか悪いのかわからないな」
「自首…してもらえませんか?」
そこでアーサーが声をかけると、ジョンはにっこりと微笑んだ。
「そうだな…復讐はもう終わったし、もう一度ワルツ第7番嬰ハ短調をリクエストさせてくれるなら。
今朝半年以上ぶりに聞いた生演奏は…本当に懐かしくて楽しかったよ」
「わかりました…」
その言葉にアーサーは立ち上がるとピアノの前に座って蓋を開けた。
Before <<< >>> Next (7月9日公開予定)
0 件のコメント :
コメントを投稿