一方でダイニングに集まってお茶を飲みつつ待っている留守番組。
クラスメートなのもあり、4人の中では比較的大人しいのもあって、さすがに気の毒になったのだろう。
3人娘は仲間に入れてやることにしたらしく、お菓子とお茶を持ってそちらのソファに移動。
そんな中、戸口をジッと睨んだままのルートとその隣でほわほわしているフェリシアーノの元に、シンディーはカップを持って近づいて行った。
「ね、さっきギルベルトさんに聞いたんだけど、アーサー君とギルベルトさんて恋人同士だったのね。
そうよね。ただの友だちにしては本当に貴人とナイトすぎる感じがしてた」
隣に腰をかけて聞いてくるシンディーの言葉に答えたのは視線は相変わらず戸口に向けたままのルートの方である。
「ああ。この世のなにより大切にしているように思う。
あの人は元々なんでも出来る人で何に対しても余裕だったのだが、アルトと知り合ってからは良くも悪くも素の感情がでるようになってきたというか…人間臭くなってきたな。
まあ知り合ったのが殺人事件起こっている真っただ中で、アルトが色々あって精神的にも参ってしまったこともあって、いつでもアルトを見ていつでもアルトの心配をしている。
誰に対しても執着しない人だと思っていたのだが、単にそれだけ想える相手がいなかっただけだったようだ。
いつも弟の俺のためだけに生きているような状況だったから、正直あの人がちゃんと自分のための人生を歩み始めてくれたことにホッとしている」
熱く語るルートにシンディは少し驚いたようにぽか~んと目を丸くしていたが、聞き終わると、
「そっか…。ルート君もすごくお兄さんのこと大切にしてるんだね。
無口な人かと思ってたから少しびっくりしたけど」
と、どこか懐かしそうな笑みを浮かべた。
「うちは…母親がいなくて父親も忙しかったからな。
俺はほぼそれほど年の違わないあの人に育てられたようなものだから…」
と、そこでシンディのその言葉を否定することなくそう続けるルートに言う。
「うん…わかる。
うちは両親揃ってたけど色々あってほぼかまってもらえなくて、やっぱり姉弟寄り添って生きてきたから…。
弟に彼女とか出来たら寂しいって思ったかも知れないけど、やっぱり大切な人みつけて幸せになってくれたら嬉しかったと思う」
…あ…確か亡くなった……
と、その言葉で部屋での女子高生3人娘の話を思い出して、
「すまん」
とルートは慌てて謝罪したが、シンディは
「ううん。大切な事思い出させてくれてありがとう」
と、それには曇りのない笑顔を見せた。
……ぎりぎり…セーフだったかな……
と、その後の彼女のつぶやきは本当に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で、ルートもフェリシアーノもよく意味のわからないそれを、あるいは自分の聞き間違いかと思って反応を控え、その後黙り込む。
そんな微妙な空気が続くなか、外に行っていたギルベルト達が戻ってきた。
「おかえり、どうだった?」
戻ってきた3人にジョンが少し笑みを浮かべる。
「はい。とりあえず遺体周りは怪しい奴がいないか調べてシートをしっかりかけなおしてきました。
で、あとはダニーの部屋の状態確認後、誰も入れない様に鍵かけて、念のため空き室も怪しい奴いないか確認後鍵かけておきたいんで、マスターキーをまとめてお借りしていいですか?
あ…でも一応今使用中の客室については問題あるようならキー抜いておいて下さい」
ギルベルトが言うが、ジョンは鍵束をギルベルトにそのまま渡した。
「まあ…君達なら悪用はしないと信じてるよ」
「ありがとうございます」
ギルベルトはそれを受けとると礼を言って、アーサーとユージンと共に今度は上へと向かう。
ギルベルトはチラリと1Fに目をむけて、アーサーとユージン以外誰もきていないのを確認後、全ての部屋を通り越して廊下の一番奥、見晴らし台への階段を上った。
「あ~もしかして見晴し台から島一望して確認とかっすか?島の地形が実は鍵とか…?」
はしゃぐユージンに、本当に気分は名探偵だな、と、アーサーは苦笑。
一方でギルベルトは
「いや、単に縄跡調べにいくだけだ」
言って見晴し台のドアの鍵を開けた。
そして
「ここで待っててくれ。あまり汚したくない」
と、アーサーとユージンをドアの所に残すと、ギルベルトは見晴し台をグルッと一回りする。
そうして
「やっぱりか…」
ギルベルトは確信を持ってつぶやくと、ため息をついた。
「何かわかったんですか?」
戻ったギルベルトに、ユージンが不思議そうな目を向ける。
「ああ、まあ。たぶんほぼわかった」
「すっげ~!やっぱ頭の出来が違うっすね!」
はしゃぐユージンに対してギルベルトは小さく息をつく。
「めでたしめでたし…とはいかねえけどな」
ユージンに言ってもしかたない。
でも少し愚痴ってみたくなった。
「よくわからないっすけど…なんかあったんすか?」
きょとんと自分に目を向けるユージンの能天気な雰囲気がうらやましい。
「ダニーが犯人じゃない事がわかったってことだろ」
どうやら事情が飲み込めてるらしいアーサーが言うと、ユージンは今度はアーサーに聞く。
「それで滅入るほどダニー嫌いっすか。
あ~確かにやたらと絡んでたけど…
スルーしてるように見えて実はマジむかついてました?」
「いや、ダニーはどうでもいい」
ギルベルトの再度の言葉にユージンはますますわからないといった風にぽか~んと彼をみつめた。
「アーサーさん…わりっす。俺頭悪すぎて状況マジわかんねっす」
ギルベルトよりは若干イラついてなさそうなアーサーの方にユージンは聞く。
「あ~ようはだな、犯人がダニーじゃない、お前でもリックでもないとすると、フェリと仲の良い誰かってことになるわけだ。
俺らはフェリの友人だから、放っておけばダニーだって事になってるのにわざわざ仲の良い奴の罪をあばいたらフェリだって良い気分しないだろって事だと思う」
「おお~~なるほどっ!頭いっすねっ!」
なんだか…力が抜ける。
盛り上がるユージンを残して、ギルベルトは階段を下りた。
まあほぼ間違いないだろう。動機ははっきりした。殺害方法も…。
全てがわかったところで、さてどうするか…
今までは真実を隠蔽するという選択はなかった。
箱根の時だって温泉旅行の時だって、犯人の側には何かしらの同情の余地もあったが、だからといってそれを考慮にいれるかどうかは自分の範疇、自分の権限ではなく、司法の問題だからと真相を明らかにした上で警察に投げてきた。
…が……今回は悩む。
犯人に対して同情から忖度する気は今までと同様にないのだが、真相を追求し始める前にシンディに言われた、真実を明らかにしなければアーサーに(と彼女は具体的には言ってはいないがギルベルトは話の流れから暗に指し示していたと理解している)危害が及ぶと言う発言が非常に気になっていた。
シンディが望んでいた真相究明の結果はこれだったのか…?
もしくは違う結果を予測していたのか?
前者なら良いが、後者だったらアーサーに何か危害が及んだりはしないだろうか…?
別に犯人や犯人の周り、あるいは他の事件の関係者に対する感情や同情なんて切り離して対応することは全く難しいことではないのだが、大切な大切な恋人様だけはダメだ。
真相を話す事によって危害が及ぶ、黙認することで完全に危害が及ばなくなるということなら、ギルベルトは迷わず黙秘を選択する。
自分の主義主張に反することになろうと、恋人の安全と引き換えにできるものなど何もない。
そんな理由で迷っていると、その大切な大切な恋人様が一歩近づいてきてギルベルトの横に寄り添った。
「あの…な、俺はギルが信念を持ってやるべきだと思う事を成し遂げようとするなら全力で支持するし、そんなギルのが…好きだから…な?」
本来は恥ずかしがり屋で好意なんてあまり口に出来ない恋人様が、おそらく悩んでいる自分のためにと、白い頬を少し朱に染めて羞恥に半分涙目になりながらも背中を押そうとしてくれている事に、ギルベルトは感動を覚えた。
ああ…可愛い。やっぱり自分のお姫さんは世界で一番素晴らしい。
ここまで恋人様に言わせたからには、やはりきっちりと真相を暴くべきだろうと、ギルベルトは思い直す。
それで何か身に危険が迫ることになるならば、それこそ自分が全力で守ればいいことだ。
物理的な護衛なら得意とするところじゃないか。
あと考慮に入れる問題としては…暴く前にフェリシアーノに言うか言わないかなわけで…
この旅行に来る前、弟のルートから女子高生4人組はフェリシアーノの小学校時代からの幼馴染だと聞いた。
まあ…臆病なフェリシアーノが危険な男達が同行する不穏な旅行に行くくらいには、思い入れのある子たちなのだろうと思うと、自分の関係者ではないだけにやりにくい。
しかし結局…そこは隠しておけるものでもないと判断して
「もしもし、ルッツ、俺だ。念のためフェリちゃんも連れてこっち来れるか?今2Fの廊下」
と、ギルベルトはルートの携帯に電話をかけて呼び出した。
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