リトルキャッスル殺人事件_幽霊は桜の海で釣られるのか?5

ギルベルトが下に降りて行くと全員が不安げな顔でダニーが閉じ込められているワイン蔵があるキッチンの方へと視線を向けている。


マイクが殺されてダニーが隔離中ということで、残り2人で寄り添うようにしている空手部のユージンとリック。

女子高生3人娘。

フェリシアーノとルート、それにアーサーの3

と言った感じに分かれて、それぞれローテーブルを挟んだ複数がけのソファに座っていて、ペンションのオーナーのジョンとその姪のシンディはお茶のおかわりを淹れたりお茶菓子を足したりと、リビングとキッチンの間を往復しながら立ち働いていた。


この中に真犯人がいるということ…か…と、ギルベルトは考え込む。


自分達4人は本当に初対面の他人だから除外して、オーナ伯父姪か、被害者と容疑者と同部だった2それに同じクラスで被害者にも容疑者にも良い印象を持っていなかった3人娘か……

さて、どこから手をつけるべきか
と、悩んだ末、ギルベルトは結局、自分が全く知らない人間関係を知るところから始めることにした。

「アルト、悪いんだけど、これからちょっと付き合ってくれね?
色々触られたら困る物とか避けながら現場を確保するとか、簡単な作業手伝って欲しいんだ。
一応容疑者は隔離中だけど万が一があったら周り守るために俺様とルッツは分かれた方が良いし、フェリちゃんはルッツと離れねえだろ」

「ああ、もちろん!」
と、二つ返事で了承するアーサー。

それからギルベルトは、あと一人…と、ユージンを指差す
「ユージン…手伝ってもらえるか?」

指名されて微妙に嬉しそうに

「はいっ!なんでもやるっす!」
と、立ち上がるユージン。


とりあえずこうして補佐を確保すると、ギルベルトはジョンに目をむけた。

「ということなので申し分けないです。女性陣の安全のためにも確認が終わって戻るまで絶対にここで待っていて下さい。
フェリちゃんは特に護身術とかやってないけど足めちゃ早いんで、何かあった場合はジョンさんとルッツはここを動かず女性陣の護衛で、フェリちゃんを俺の方へ走らせるという形でお願いします」

「ああ、わかったよ。気をつけて」
笑顔でうなづくジョン。

とりあえず犯人の最有力候補のダニーは拘束済みで、外からは玄関からすぐのこのリビングを通り抜けないと奥へ行けないという事もあって、跳ね橋はおろしてもらう。

「では行ってきます。」
ギルベルトはアーサーを連れて外に出た。



こうして宿の裏側、遺体発見現場を目指す3人。

「俺らも共犯疑われてます?」
先に立って歩くギルベルトにユージンが声をかけた。

それに対してギルベルトは
「いや」
と首を横に振った。

「実は…一番犯人の可能性が低いと思ったのがユージンとリックで…ユージンの方が率直なとこ話してくれそうだったから連れ歩く事にした」

他には言うなよ、と、念を押した上で本音をもらすギルベルトにユージンは嬉しそうにうなづく。

「もうなんでも聞いて下さいっ!もしかして捕り物っすか?」

良くも悪くもよくしゃべりそうだな…と、その様子に内心ため息をつくギルベルト。
それでも裏に回る道々話を聞く事にする。


「マイクとダニーの共通点と、その二人とお前とリックの二人との相違点はなんだ?」
その質問にユージンは即答。

「マイク達は良い塾行っててまあ頭良くて、俺とリっちゃんは馬鹿っす」
その答えにアーサーが思わず小さく吹き出した。

「ああ、計西会か。ルッツから聞いてる。
まあ…良い塾行ったからって賢いとも限らんけどな」

「あ~でもあそこ入るのにテストいるしっ。
入ってからもテストでクラス分かれるらしいっすよ。
ダニー一回クラス落ちちゃって親にマジ怒られて、上のクラスの奴をマイクと一緒にボコって戻ったくらい厳しいらしいっす」

何かひっかかった。

「そのボコった相手の名前なんかわからないか?」
ギルベルトが聞くと、ユージンは首を振って苦笑した。

「俺はその塾行ってるわけじゃないしっ。
あ~でもなんだかそれで相手骨折ったかなんかで、ボコった事バレたらマジヤベ~とか言ってたっすね。でもまあバレる前に相手なんか飛び降りたとかで…」

計西会の自殺…キアーラの家庭教師のクラスか…。
あとで確認する事リストとして頭の隅にその事を残しつつ、ギルベルトはマイクの遺体の場所まで到達した。

ビニールシートを取ってもう一度遺体を確認し、その前で両手を広げてみる。

おそらく…フェリシアーノとアーサーが昨日みたのはこれだろう。
あれは確か…午後1148分。犯行推定時刻内だ。
これが空を飛んでいた?

ギルベルトは上を見上げた。

舞い散る桜吹雪はペンションまで軽く飛ばされているが、ペンション側からこれを落としたところでこんな所まで飛ばされてくるはずはない。

風が強ければ2階建てのペンションの一番上、見晴し台まで桜の花びらは余裕で飛ぶが、この重さの物だ。
逆にあの見晴し台からでも、ものすごい怪力の人間が投げても無理だ。

「これ…魚にみたてた殺人とかなんすかね…。なんかドラマみたいっすね」
ユージンが気味悪そうに少し離れた場所で遺体に目をやって言った。

(…魚か…)
確かに網の中には無駄に数尾の魚が遺体と一緒に包まれている。

まあドラマとかなら見立て殺人とかよくあるわけだが、実際の殺人なんてそんなドラマティックな物じゃない。

前回の温泉旅行の時もバラバラに切り刻んだ衣服が散乱してるなんて奇行とも取れるような状態だったが、実はちゃんと意味があったわけだし…。

とすると、これも?

ギルベルトはもう一度遺体をよく見てみる。


…普通に網と魚を使った意味はなんなんだろうか…。

魚に見立てるなら…濡れていてもいいはずだが、遺体は濡れていない。
あのゴムボートだと二人のるのはかなり辛く沈まない様に気をつかうし、むしろ網にいれていて魚に見立ててるなら濡れてても構わないはず。

自分がボートにのりつつ、遺体は湖に放り出した状態で網の端を持ちつつ引っ張って移動した方が楽なのではないだろうか。


遺体を普通に単体で放り出せなかった訳…網と魚…どちらかがフェイクか…

まあ…普通に考えて魚をいれる意味はない。
魚をいれる事によって網に遺体が入っている事を自然に見せているとすると…網にいれる必要があったのは、ひっぱって運ぶ事じゃないとしたら…。


まさかっ?!とギルベルトが思った時、桜の木を丹念に調べていたアーサーが、

「ギル、これだろ?」
と、桜の木の一点を指差した。

「これかっ!」
桜の木のその部分をなぞって急いでシートをかけ直すギルベルト。

「行くぞ!」
きびすを返して小走りに戻るギルベルトとアーサーを、一人意味のわからないユージンは

「何かわかったんすかっ?!」
と、あわてて追いかける。

そこでアーサーが少し歩調を緩めて

「まだ周りには何も言うなよ?
あくまでここに来たのは現場保存と怪しい奴がいないかの見回りの為だ」
と、注意するのに

「了解っす!」
もう思い切り嬉しそうなユージン。

こいつ…大丈夫だろうな?とアーサーは少し不安になって眉をひそめた。



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