俺たちに明日は…ある?── 若君の憂鬱1

「桜ちゃんを歓迎して~。かんぱ~い!」
夕食時、またもや宴会である。

フランシスが声をはりあげて乾杯の音頭を取ると、広間に集まった面々が一斉に杯をかかげる。

フランシスの隣には主賓の桜、桜のもう片方の隣にはリヒテンが、さらにその隣にはアーサー、ギルベルトと並んで座っている。



フランシスを見た桜の第一声は

「あ…いつもギルベルト様と一緒にいた変態さん…」

それに対して、
「ああ、かみつかないから平気だからな」
とアーサーが、

「よく慣れてるので触っても大丈夫ですよ♪」
とリヒテンが、フォローにもならないフォローをいれる。

もちろん大将に対するその言い草に、菊は青くなる。

「あのですね、桜、フランシスさんは大将ですから。
一応身分だけならギルベルトさんやアーサーさんよりは偉いんですからね」
と、動揺しているせいか、そのフォローも微妙なんだが…

それに桜はさらに
「大丈夫です♪私は世間の常識にはとらわれない女ですから。
身分なんか気にしません。やっぱり人間ですよねぇ。
中身が変態じゃなければ、フランシスさんも顔は良いので全然大丈夫だと思いますよ」
と全然大丈夫じゃなさそうなコメントをつける。

「さくら~…少しは常識にとらわれてくださいっ」
相変わらず泣かされる菊。


「さすがに坊ちゃんが身の回りの世話にと選ぶ娘だけあるよねぇ」

散々な言われようにも慣れているのか、フランシス自身は柔軟な(?)対応を見せている。

そんなマイペースな桜のこと、ごつく怖そうな面々に囲まれての食事となっても萎縮する事もなく、ただ、

「このお屋敷のカップリングできそうな殿方って…ギルベルト様とアーサー様だけですか?残念」
という感想を述べるにとどまった。


それでも物怖じしない性格のせいかなじむのは早い。
1時間もすると、もう旧知の仲のようにフランシスとリヒテンと共に京の街の美人さん談義に花を咲かせている。


「アーサー…?どうした?大丈夫か?」
桜はどうやらフランシスに任せておいても大丈夫らしい。

新入りの、しかも少女ということもあって、トラブルなど起きないかと一応しばらくは気にして様子を見ていたギルベルトは、ふと気づいて隣のアーサーに声をかけた。
珍しくほとんど料理に箸をつけずにぼ~っとしているアーサーを気遣わしげに見つめる。

「あ…ああ、大丈夫。なんでもない」
そこでようやく我に返ったらしくアーサーは言うが、その声にはいつもと違ってどこか力がない。

なので
「大丈夫じゃなさそうだな…」
とギルベルトは言って、アーサーの額にコトンと自分の額を押し付けた。

「熱は…ないな。このところ忙しかったし、少し疲れたのか?」
言って、アーサーの腕をつかんで半ば強引に立ち上がった。

「フラン、あとを頼む。菊、悪いが膳を部屋に運んでくれ」
とフランシスと菊に声をかける。

「え…?あ、大丈夫だってっ!」
あわてるアーサーの言葉を、
「大丈夫じゃない」
とさえぎると、飽くまで動こうとしないアーサーを軽々と肩に担ぎ上げた。

しかし、さあ広間を出ようと出口に足をむけかけたギルベルトの横で、リヒテンがスクっと厳しい顔で立ち上がる。

「ギルベルト様っ!」

珍しく批難するような顔のリヒテンに、

「お、おう??」
と、ギルベルトが一歩退く。

それにズイィッと一歩出るリヒテン。
そしてピシっと言い放った。

「そこは横抱きですっ!
俵担ぎなんてわたくしは認めませんっ!!」

「「へ??」」

担いでいるギルベルトも担がれているアーサーもポカンと呆ける。
が、その横では

「さっすが、リヒテン様っ!!わかっていらっしゃいますっ!!」
と、桜の歓声。

ギルベルトはわけがわからないながらも、いったんアーサーをおろして改めて横抱きに。

これで良いのか?」
と、聞くと、リヒテンが

「よろしゅうございます」
と、満足気にうなずいたので、

「じゃ、そういうことで
と、広間をあとにした。


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