「ハッハッハ。光秀にあったか。
まあ、気にするな。あれも色々うるさく聞いてきちゃあいたが、アーサーが幸せに暮らしてると知って安堵したんじゃぁねえか」
突然面会を求めたのにもかかわらず、ローマはすぐに謁見を許した。
そしてギルベルトが京の街での出来事を報告すると、ローマはギルベルトの杞憂を笑い飛ばした。
事実を知ればまた気持ちも揺らぐかと」
ギルベルトの言葉にローマはあっさりと
「わかったところでどうできるものでもねえだろ」
と流す。
「しかし…」
さらに続けようとするギルベルトの言葉をさえぎって言う。
「人は死ぬ時は死ぬ。離反されて死ぬとしたら、それは俺の寿命だ。
それならそれでフランかまたは誰ぞその運命を背負った者が日の国統一を成すまでよ」
「大殿…」
ローマの言葉にギルベルトは一瞬言葉を失う。本気なのだろうか?
ギルベルトの心の声が聞こえたように、ローマは続けた。
「俺がその運命を背負った者かどうかは歴史が決める事だ。
光秀の件がなくとも俺に勢いがあるうちに進められれば成せるだろうし、時間をかければ勢いが保てず、あっという間に死の渦にまきこまれるだろう。
まあその時は、それを成すのはフランだと俺は思ってるんだがな。
だからお前達に俺の持っている全ての宝を託した。
あれは…素晴らしい宝だが、俺が持っていたとしても、統一を成せる時は成せるだろうし、
成せぬ時は成せねえ。
お前と一緒だ。宝もあるべき者のところにあってこそ、本来の力を発揮できるってもんだ」
「オレと?」
「おう」
ローマはうなづいた。そして唐突に問う。
「ギルベルト。アーサーがボヌフォワ軍に身をおくようになってどうだ?」
「どう…とは?」
「お前は少しは楽になったか?」
ローマの質問の真意を測りかねてギルベルトは考え込む。
「心身共に負担が減りましたが…」
「そうであろうな」
ローマはうなづく。
そして思いがけない問いを投げかけた。
「今までボヌフォワ軍はお前の軍略で持っていたと言っても過言じゃああるまい。
その責務をアーサーが成長して受け継いだとして…もしフランがいなくなったとしたら、お前はその後を継いで日の国統一を成せると思うか?」
「フランが…?」
さらに混乱するギルベルト。
ますます質問の真意がつかめない。
「天命があればあるいは…。だが難しい…と思われる。おそらく途中で力尽きる事と…」
「俺も同じだ」
ローマはまたうなづいた。
「大殿?」
「俺もお前も長期的に周りを率いていく器ではない。おそらくアーサーも…な。
切れすぎる刀というのは敵を滅するのも早いが、抜かれている時間が長いと周りも自分をも傷つけていく。
フランはその点鞘なんだよ。
切れすぎる刀が周りを傷つけぬよう自分が包み、己自身も傷つくことがない。
お前は無意識のうちにそれがわかってるから、あいつの下に固執していたんだろうよ。
俺も…殲滅を早めようとお前に固執してみたりもしたが、俺の下にあればお前も成すべき事を成す前に折れるだろうな。鞘を持たない剣は意外にもたねえ」
ローマはそう言って、遠い目をして口元だけかすかな笑いを浮かべた。
「大殿…」
今まで考えてもみなかったが、確かにそうかもしれない…だが…
「大殿は…我らが王路に向かった後はどうなされる?」
以前一度した質問をギルベルトは再度口にした。
「言ったとおりよ。このまま京に残って今山に睨みを利かせておく。
…天命があればお前達が西を制圧して戻ってくるだろう。なければそれまでよ。
さっきも言った通り他の誰かが遺志を継ぐんだろうな。
今言った事はフランには言うなよ。お前だから話した。
あれに言えば恐らく出立しねえだろうからな」
ギルベルトは黙って頭を下げた。
「これでお前にはまた要らぬ気遣いをさせる事にはなったが…まあ、アーサーだけじゃなくリヒテンまでやったんだから許せ。あれだけはよほど手元に残しておこうかと迷ったのだぞ」
言ってローマは軽く笑う。
自分は常に孤独だと思っていたが…自分には友(フランシス)がいた。
今は弟子(アーサー)がいて、リヒテンもいる。
この絶対者には果たして誰がいたのだろうか…。
ギルベルトは頭を上げて、絶対的な権力を持っているはずの主君を見上げた。
ギルベルトはリヒテンを京に残そうかと思った時の気の遠くなりそうな孤独と寒さを思い出した。
友と弟子がいてただ1人抜けるだけでも、その孤独感は耐えられそうにないものだった。
それをローマにあえて選ばせたものは何なのだろうか…
漠然とした不安をぬぐえないままギルベルトは帰宅した。
「おかえりなさい。みなさんもうお食事を召し上がっていますけど、ギルベルトさんはどうされます?」
菊が出迎える。
「オレはいい。すまんが少し考えごとがしたい。今日は部屋へ戻る」
言ってギルベルトはそのまま離れへと足をむけた。
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