と差し出されたキャベツをぶつ切りにするジェニー。
アンはジャガイモの皮というよりジャガイモを向いている。
「伯父さんが獲って来たんだけど…魚おろせないよね?」
もう否定形で聞くシンディに、もちろんうなづくソフィ。
手伝っていいやらいけないやらわからず少し離れてそのすさまじい情景を見ていたギルが、自分もエプロンをつけてシンディをのぞく今にも手を切りそうな女性陣全員から包丁を取り上げた。
そして…本当に千に刻まれて行くキャベツ。
クルクルとあっという間に皮が向けていくジャガイモ。
そして…綺麗な薄造りにされる魚。
「おお~~!!!」
と歓声をあげる女性陣。
「すっごいね~。ギルベルトさん料理もできるんだ?」
という声に
「うちは男所帯で家事は当番制だから…」
と淡々と食材を切り刻んで行くギル。
その隣のコンロ前。
足元に置いてあるバケツいっぱいのとにかく大量の魚を前に、
「魚は竿で?」
と、アーサーが聞くと、やはりせっせと調理をしているシンディはちょっと微笑んで首を振る。
「ううん、網で。今朝獲ってきたとれたて」
「そうなんだっ!すごいなっ!」
と、アーサーは自分もエプロンを身につけたあと、手を洗った。
そして…ギルが造りにした魚でバラの花のような形を作り始めるアーサーに女性陣の歓声があがる。
「きゃあぁぁ~!さすが殿下っ!!
料理一つとっても格調高いっ!!」
と、もはや料理に関しては見物人と化している3人が手を取り合ってはしゃいでいるのにアーサーは少し戸惑い気味だが、ギルは自慢げに
「アルトは元々器用だからな。
料理だけじゃなくて、刺繍にレース編み、紅茶を淹れるのだってプロ級だぜ?」
と笑った。
それにさらに歓声を上げる女性陣。
そんな中でシンディはひたすら鍋の中でおたまをゆっくり回していたが、そこで隣にいるアーサーに対してなのか独り言なのか、
「アーサー君すごいね。でもギルベルトさんも…ホント見事だと思う。
伯父さんもこの仕事長いからかなり料理やるんだけど、それに勝るとも劣らない包丁さばきだし。勉強もできて武道もできて料理もって…ホントすごい」
と、ささやくような小さな声でつぶやいた。
おそらく隣で造りを並べている自分にしか聞こえないくらいの声のトーン。
答えるべきなのか答えるべきでないのかわからずにアーサーが少し戸惑っていると、彼女は
「そんな人と友達で良いね。羨ましいな」
と、アーサーに微笑みかける。
それでようやくそれが独り言ではなかったのだと認識できて、アーサーも
「うん。色々学ぶ事も多いし。
実は俺、ギルと出会う前は料理全然できなくて、食事はレンチンばかりだったんだけど、ギルに教わって簡単な物ならできるようになったんだ」
と、当たり障りのないと思われる返事を返した。
本当は、その”友達”というあたりを否定したいところだったのだが…
結局シンディとギル、アーサーだけでてきぱきと作業を終え、それを指示通りにテーブルに運ぶ一同。
「なんかちょっとした旅館の食事みたいよね♪」
とウキウキという女性陣。
そこにフロ掃除を終えたルートとフェリシアーノも加わって賑やかで和やかに食事の支度が進んでいく。
そうして料理を運び終わったタイミングでいきなり玄関の方でギギ~っという大きな音がなった。
「な、何?!」
思わずルートに抱きつくフェリシアーノ。
「あ~、あれね、跳ね橋が上がる音。フェリ、相変わらず怖がりだよね」
フェリシアーノの慌てぶりがおかしかったのか、シンディがクスクス笑いをもらした。
「うあ…すごい音するんだなぁ」
アーサーも感心したように玄関の方向をみやる。
「うんっ。まあだからあんまり遅い時間だとなんだし、伯父さん毎日夕方6時から1時間外見回って夜の7時に跳ね橋あげて、朝の9時に下げるの」
まだお腹を抱えて笑い転げながら、シンディは笑いすぎて出た涙を拭いた。
そこで
「ただいま~」
と玄関の方からジョンの声がする。
シンディはそれに
「おかえり~ご飯できてるよ~」
とパタパタとジョンの出迎えに走って行った。
この時までは確かに平和な時間が流れていた。
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