フェリシアーノは実は掃除は嫌いじゃないので鼻歌を歌いながらデッキブラシで浴室のタイルをみがきあげる。
それはアーサーが4人みんなで身につけようとくれた四葉のクローバーの刺繍の入ったロケットだ。
4人をつなぐ幸せのよつば。
実は前回の温泉旅行では、フェリシアーノとアーサーが誘拐された時、枝にひっかかってその場に落ちて拾われたことで、それがまるでシンデレラのガラスの靴のように、救出に結びつく最初の手がかりになってくれた。
「…汚さないようにしなきゃ…」
と、とりあえず泡や水で汚さないように、それをそっと洗面器に入れて、水のかからないあたりに置いておいた。
自分が将来継ぐ事になる財閥の総帥である祖父はルートを気に入ってくれていて、彼を恋人としてずっとフェリシアーノの横に居られるようにしてくれるらしい。
細かいことや既成概念に捕らわれない、やや破天荒なところのある祖父は
「フェリの跡取りなんて、実子じゃなくたって良いだろ。
異性と結婚したって子どもが生まれるかどうかなんて、神さんの気まぐれだ。
そんな確実性もないことのために人生捨てるこたぁねえ。
惚れた奴がたまたま優秀なやつなんだったら、一緒にならねえ理由はねえ」
と言ってくれている。
そういう意味ではまだまだマイノリティで難しい同性の恋人を持つ身としては、環境的にかなり恵まれていると思う。
それでもやっぱり自分達以外の人間には言って良いのかを悩むところだ。
自分の側は大ボスである祖父がOKをだしているので問題ないのだが、ルートは生真面目で保守的な感じがするので、気まずい思いをしたら嫌だな…と、なんだか公言できないで、モヤモヤとしている。
本当なら…こんな可愛い宿なのだから、ルートとベタベタイチャイチャしたい。
ふぅ~と思わずもれるため息。
そこでいきなり、ガラガラっとガラス戸が開いた。
「すまんな。1人で掃除は疲れただろう。
俺が変わるから休んでいろ」
入り口に視線を向けると、ズボンと服の袖をまくりあげるなど掃除する気が満々の格好のルートがいる。
「ルートっ!」
ここに来てから誰かしらの目があり、思い切りベタベタできずにすっかりストレスが溜まっていたので、デッキブラシを放り出してかけよると、
いつものようにどこか不器用に背に回されるムキムキな腕。
「クラスごとに宿題が違うらしく、ずいぶんと時間がかかってしまって悪かった」
と、何故か謝られて、
「ううん。俺の関係者だし。
巻き込んでごめんね?」
と、逆に謝った。
そこでしばしの沈黙。
「ルート?どうした?」
と、なんだか難しい顔の恋人様。
「あいつら、何か気にさわる事でも言っちゃった?」
と、心配になって聞くフェリシアーノに、
「いや…そういうわけではないのだが…」
と、ルートは小さく首を横に振りつつ、小さく肩を落とした。
「……?」
「その…俺ではやはり恥ずかしいのだろうか?」
「へ?
「だから…その…こ、恋人…と紹介するのは…やはり俺などでは恥ずかしいのかと…」
「はあぁ?!!!」
思わず大声が出た。
「なんでそうなるのっ?!!
俺、言いたくてウズウズしてたんだけど、ルートが嫌かなって思って我慢してたんだけど…。
でも俺がルートの事をそういう意味ですごく好きだって言うことはカミングアウトしてるよ?!」
「え?ええっ?!そうなのかっ?!」
驚くルートにがっくりと力が抜けた。
「あったりまえじゃん!だって他の奴にルートに手を出されるの絶対に嫌だもん!」
「そ、そうなのか…」
と、少しホッとした様子のルートに、フェリシアーノは
「恋人って…バラしていい?
せっかくこんな可愛い宿なんだから俺だってお前とベタベタしたい」
と、自分よりもはるか高いルートを見上げてそう聞けば、ルートは非常にわかりにくいがいかつい顔に嬉しさを押し隠すような表情をして、
「うむ…。俺は全く構わない」
と、大きくうなずいた。
それからは2人でなかよくフロ掃除。
「そう言えば…ギル達はどうしたんだろう?
まだ部屋?」
ゴシゴシとタイルを磨きを再開しながら言うフェリシアーノに、ギルベルトは
「いや。キッチンらしい」
と苦笑した。
まあ…本当はふたりでゆっくりしたいのだろうが、あの会話を聞いては致し方無いと思ったのだろうなと思う。
「みんな、伯父さんこれから見回り行くからご飯の支度手伝ってくれる?」
ルートがようやく宿題を終わらせた頃、ドアがノックされてシンディが顔をのぞかせた。
そして開いたドアの向こう、廊下でそう依頼してきたのだが、その言葉に女4人が顔を見回した。
「えっと…お皿運びくらいならっ。でも家庭科の授業以来料理した事ないんだけど、私」
というジェニーをかわきりに、私も私もと手をあげる女性陣。
その友人達に、シンディは深く深くため息をついた。
「とりあえず…家庭科でやったわけだから全くできないわけじゃないよね?着替え置いたら来て」
と言いおいて、またクルリとキッチンへと消えて行く。
「どうしよう…私家庭科は味見係だったんだけど…」
「私も同じ様なもんよ」
とシンディとアンが顔を見合わせる。
そんな2人に
「皮むきくらいなら…ね」
とソフィはそれよりはちょっとはマシらしいが…あまり自信がなさそうだ。
とにかく他に客がいない宿の廊下で女性陣が高い声でそんな話をしていれば、当然部屋の中にも聞こえてくる。
そこで
「怖いな…一応手伝うか…」
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