雑談をしつつ陸地を離れて2時間。やがてクルーザーが船着き場に止まる。
そこは半径2kmくらいの小さな島で、船着き場から少し奥まった所に直系100mくらいの湖。
その中央にそれはそれは可愛らしいミニチュアの城のような建物が建っていた。
各部屋のバルコニーも可愛ければ、上には見晴し台のような塔に鐘まで着いている。
本当におとぎ話のようなシチュエーションだ。
思わず歓声をあげる女性陣。
城と岸は跳ね橋でつながっていて、岸の方には可愛らしい呼び鈴のついたポールが立っている。
「…可愛いなっ」
周囲に聞かれないよう小声でそう言って目を輝かせるアーサーを見て、ギルベルトは少し機嫌を上昇させた。
花のような笑顔を浮かべてアーサーが感想を述べるのは、やはり他でもない自分なのだ。
「一応…防犯の関係上私が18:00にあたりを警備に見回ってその後19:00にはこの跳ね橋はあげてしまうからね。で、翌朝9:00にまた降ろすよ。
夏は海水浴とかもできるから外の倉庫には浮き輪とかゴムボートとか釣り道具とか諸々入ってるけど、今使えそうなのは釣り道具くらいかな。釣りは外に行かなくても部屋から釣り糸垂らせるしね。言ってくれれば餌も提供するよ」
ジョンは一同を中にうながしながら、説明をする。
「ということで部屋割りは女子はジェニーとアンが同室、あと私とソフィが同室ね。
で、男子はフェリとルートさん、ギルベルトさんとアーサーさん、マイクとダニー、リックとユージンの組み合わせで♪
客室は全部が海の見える方向に面してるから眺めはいいよ♪
鍵はマスター別にしたら各部屋一つだからどちらが持つかは各部屋ごとに決めて。
ドアはオートロックだから鍵を部屋に置いたまま出ちゃわない様に気をつけてね♪」
こうして広いリビングにとりあえず腰を落ち着けてシンディはそう説明後、
「じゃ、そう言う事で二人ほど荷物運び手伝ってきてもらえる?」
と、皆に打診する。
空手部4人は当然のように無視。
「あ、じゃああたしやるね?」
と、スポーツ少女のソフィがそこで手を上げるが、それにアーサーが慌てて
「レディに荷物運びなんてさせられない。俺がやります」
と、前へ出かける。
「レディっ?!レディだってっ!!」
と、その言葉に沸き立つ女性陣。
さらにそれを聞いたギルは当然のごとくそれを制して
「アルトにやらせるくらいなら俺様がやる」
と申し出て、その隣のルートも
「力仕事なら任せてくれ」
と、同じく立候補した。
「え…でも……」
と、ちょっと戸惑うアーサーにはギルベルトがこっそり防犯ブザーを渡して
(女性陣とフェリちゃんに馬鹿4人が何かしそうになったら、これで知らせてくれ)
と、小声で耳打ち。
それはそれで重要な役割なので、アーサーはこっくりとうなずいた。
こうしてバイルシュミット兄弟が先に行くジョンを追っていくのを残留組は見送った。
しかしその姿が完全に見えなくなると、待っていたように
「おい、ジェニー、さっきは調子に乗った事言ってくれたじゃねえか」
と、一歩前に出るダニー。
「女だからって手加減はしねえぞ」
というあとの3人の言葉に、女4人は慌ててフェリシアーノの後ろに回り込んだ。
「相手にしたらのされちゃうギルベルトさんがいなくなった途端にそれって、さすが天下の空手部よねっ」
と、そこでベ~っと舌を出すジェニーにフェリシアーノは泣きたくなった。
なに?この状況。
ジェニーもなんでわざわざ煽っちゃうのかなぁ。
俺、死亡フラグ?と、思いながら
「ま、まあ喧嘩はやめようよっ。女の子相手に大の男が…」
と、言った言葉は火に油を注ぐようなものだった。
「ほぉ~、じゃ、男のお前が相手になるって事だよなっ!」
と、もう言葉を発すると同時にフェリの襟首をつかむダニーに女性陣が悲鳴をあげる。
「…言葉で敵わないから暴力というのは、どうかと思うが…?」
と、そこでずっと無言でその様子を見てたアーサーが口をはさんだ。
「ほ~坊ちゃんも参戦かっ」
合流してからずっと女性陣に騒がれていたアーサーの事を快く思っていなかった面々が、フェリシアーノを放置でアーサーを取り囲んだ。
「ちょ、アーサーにはっ」
慌てて間に入ろうとするフェリシアーノを片手で制して、アーサーはニコリと笑みを浮かべる。
「レディ達を前に乱闘は避けたいんだけどな。仕方ない。
ちょっと最近習っていた事で試してみたいこともあるし…フェリ、女性陣を頼む」
と、その言葉にダニーはニヤニヤ下卑た顔で
「お坊ちゃまに世間てもの教えて差し上げるって俺ら超親切だよなっ」
と言うと、襟首をつかもうと手を伸ばしてきた。
アーサーはその手をパンとすばやく払うと、逆に相手の襟首をつかんで、投げ飛ばす。
ドスン!と受け身も取れずに床に転がるダニーに、
「武道やってるのに受け身もとれないのか…」
と、心底不思議そうな目を向けるアーサー。
そして残りの面々に
「ぜひ教えて頂こうか?」
とやはりニコリと笑みを浮かべた。
「お、おいっ!」
マイクに促され、今度はリックとユージンが殴りかかるが、あっさりかわされ、ダニーと共に床に転がる羽目になる。
「で?まさかここで逃げるとかはないですよね?」
と、最後に残ったマイクに可愛らしい笑みを向けるアーサーに、チッと舌打ちをして仕方なくかかってくるマイクも当然同じ運命をたどった。
ポカ~ンとする一同。
「ちょっ何これっ?!」
シン…と静まり返った沈黙を破ったのはジェニーの声だった。
「すっごぉぉ~~いっ!!!!」
と女性陣がそれに呼応して手を取り合って歓声をあげた。
「アーサーって…もしかして実は強かったの?」
唖然と言うフェリシアーノにアーサーは
「ギルが…誘拐よけに護身術教えてくれたから」
と答える。
そう、最初の高校生連続殺人事件、そして先日の温泉旅行での殺人事件と、2度も誘拐されているため、危機感を覚えたギルベルトが
──俺様が極力守るつもりだけど、学校の行き帰りとか一緒に居られない時に怖いから…
と、彼独自の力学や身体の急所など様々な要素を利用した、腕力差を補えるような護身術を施してくれていた。
実際に試す機会がなかったので、いざとなったら先程の防犯ブザーを鳴らそうと思っていたのだが、あっさり成功して防犯ブザーはポケットにinしたまま。
さすがギルの教える護身術、と、アーサーは感心した。
アーサーがそんな事をぼ~っと考えている間も
「すご~~い!空手部4人形無しね~~!!!」
と女性陣は大騒ぎ。
のされた男4人は呆然である。
「顔良し、頭良し、お育ち良し!殿下よ、殿下っ!」
「うん!殿下よねっ!」
大盛り上がりな女性陣に、苦笑するフェリシアーノと少し戸惑うアーサー。
そんな中荷物をかかえて戻ってきたジョンとギルベルト、ルートの3人。
「どうしたんだい、これは?」
と聞いてくるジョンに姪のシンディーが事情を話すのを聞いて一気に顔色を変える二人。
「ほぉ~俺様のいない所でアルトに手をあげようなんざ良い度胸じゃねえかっ!
そんなに死にたいのかっ!!」
と、マジ切れして殺気を放つギルベルトにすくみあがる男4人。
「えっとね…ちなみに…ギルはこの夏の高校生連続殺人の生き残りでね。
ナイフ持った犯人を素手で伸して捕まえたすごい人なんだよ?」
と、とりあえず今後トラブルを起こされないように抑止力になればとフェリシアーノが言うと、顔を引きつらせる空手部4人
一方ギルベルトの方は男達に脅しをかけたあと、アーサーに駆け寄って、
「アルト、目放してごめんなっ。大丈夫か?!怪我してないか?救急車呼ぶか?」
と、どう見ても怪我どころか服装の乱れすらないアーサーを上から下まで入念にチェックする。
そんな喧騒を見守る女性陣。
「ね、何あれ?」
「ん~…殿下と護衛…かな?」
「うん、殿下と近衛騎士?」
「うん、いいねっ、殿下とナイト!!」
と、きゃいきゃいはしゃいでいる。
そしてそんな面々を放置でギルベルトは
「アルト、疲れただろ。先に部屋行こうぜ」
とアーサーに声をかけると、アーサーの荷物も持って階段を上がって行く。
それをダダ~っとアン、ジェニー、ソフィが追って行った。
シンディーはそちらにどこか複雑な視線を向けていたが、すぐマイクにかけよる。
しかし手を振り払われて怒鳴りつけられていた。
それを少し割り切れない気分で見るフェリシアーノ。
まあ、自分が知っていたのは小学校の頃までだし、自分が口を出す事じゃないが…シンディーがなんでマイクみたいな奴とつき合う事にしたのかがよくわからない。
「…フェリ、行くぞ?」
ぼ~っとそちらを見ていると、ルートが見かねて声をかけてくる。
シンディーの事が気にならないといったら嘘になるが、自分がここでこうしていてもどうなるものではない。
「あ、ああ、ごめん。俺達も行こうか。」
フェリシアーノはそこでルートにそう返して客室のある二階へとうながした。
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