フェリシアーノが大きく手を振ると、3人が軽く手を振り返してくる。
「ちょっ!フェリっ!!あの銀髪のイケメン何っ?!!」
ジェニーがフェリシアーノの襟首をつかんで叫んだ。
ソフィも歓声をあげる。
「ホント、芸能人並みにカッコいいよっ!」
とアン。
「「「フェリのじゃなきゃチャレンジするのに…」」」
と、最後に残念そうに声を揃える3人に、フェリシアーノは少し迷ったが
「ううん、ルートはあの一番大きい奴だよ。金髪ムキムキの」
と、訂正を入れておく。
すると、
「「「え?!じゃあ彼はフリーっ?!!やったああぁあ~~!!!」」」
と、飛び上がってはしゃぐ3人。
いや…フリーじゃないけど…と言いたいところだが、ギルはとにかくとしてアーサーはもしかしたらカミングアウトされたくないかもしれない。
まあ困るようならギルが自分で断るだろうと、フェリシアーノはそのあたりに関しては肯定も否定もせずに口をつぐむことにした。
そんな女性陣といるフェリの所まで小走りで来るアーサー。
「遅くなってゴメン」
と言う彼に
「きゃああ~~!!!」
と手を取り合ってはしゃぐ女性陣。
「ちょっ!フェリっ、あの子も可愛いっ!何っ?!!」
ジェニーがフェリシアーノの襟首をつかんで叫ぶ。
「ホント、可愛いよねっ!」
とソフィーも歓声をあげた。
「フェリの友達ってイケメン揃い…あぁ…尊すぎて辛い」」
と、アンは両手に顔をうずめて身悶える。
「なんだっ?!」
と、何かあったのかと驚いて視線を送るアーサーの肩をフェリシアーノはポンポンと叩いて
「ごめん。彼女達はいつもこんなノリだから気にしないで…」
と、ため息をついた。
そして軽くアーサーをギルの方へ押しやると、フェリシアーノはチラリとジョンの方を見て
「宿のオーナーらしいよ、あちら」
と3人に小声でささやく。
そして3人はとりあえずそちらに足を向けた。
「こんにちは。初めまして。ギルベルト・バイルシュミットと言います。
今回はお世話になります。よろしくお願いします」
と、ジョンの前に行ってギルがそう言ってお辞儀をすると、ルートとアーサーもそれに続く。
「こんにちは。君達は随分きちんとしてるんだな。こちらこそ、よろしく」
と、ジョンはにっこり。
「じゃ、揃ったようだし出発しようか」
と皆に声をかけた。
「とりあえず…自己紹介しよっか」
全員が乗り込んで船が動き出すと、重い空気を破るかの様に、シンディーがにこやかに切り出した。
「まず私達からねっ。
私達女4人と男4人は都立青雲高校1年。
私はシンディー。今回の宿の持ち主の姪ですっ。で、ポニテの子がアン、その隣がジェニー、さらにその隣がソフィー。男性陣は私の隣がマイク、これは私の彼♪
その隣がダニー、リック、ユージン、敬称略って感じで。ということでよろしくね♪」
「んじゃ、俺の側ね」
シンディーが一通り紹介すると、今度はフェリシアーノが引き継いだ。
「まず俺の隣のムキムキはルートっ!
こんなにムキムキだけどすっごく頭が良くて、海陽学園の生徒会長なんだよっ!
で、ルートの隣の銀髪がギル。ルートの兄ちゃんで、小等部から海陽で一度もトップの座を他に明け渡した事がないっていう伝説の人物で、去年までやっぱり生徒会長やってたんだ。
今はルートにその座を譲って副会長やってる。
で、さらにその隣はアーサー。俺の一番の親友っ!聖月の生徒会長っ!」
フェリの言葉に女3名がまた嬌声をあげて、男4名が嫌~な顔をした。
「なんだ、ガリ勉かよっ」
と男側から声が飛ぶ。
それに対してルートがちょっとムッとして何か言いかけるのを制して、ギルベルトは淡々と
「ま、そうだな」
と答えるが、女3人からは
「いや~ね、ひがんじゃって~。」
と、声があがった。
当然空手部の男3人、それで引っ込むわけはない。
肩をいからせ、
「なんだよっ!」
と、立ち上がって一番近いジェニーのジャケットをつかみかけるダニーの手首を、しかしギルベルトが少し身を乗り出して掴んだ。
それを振りほどこうとするダニーの手がプルプル震えるが、軽く掴んでいるように見えて全く振りほどけない。
ギルベルトはそのままゆっくりダニーの手を本人の膝まで誘導すると、
「船の上でもめていると落ちるぞ」
と、自分も席に座り直す。
当たり前に押さえ込まれた事がかなり悔しかったのだろう。
「船降りたら覚えておけよっ!」
と、ダニーは赤くなった手首をさすりながらギルベルトをにらみつけたが、ギルは苦笑するにとどめる。
「俺ら全員空手部だからなっ、なめてると後悔するぞ!」
と言うダニーの言葉にやっぱりルートが口を開きかけるが、ギルベルトはまたそれを制して
「ああ、そうなのか。すごいな」
と、淡々と答えた。
『なんで言わせておくんだっ?』
制されたルートがコソコソっとつぶやくが、ギルベルトは
『言わせとけ。俺様に敵意が向いてるくらいの方が楽でいいだろ。
俺様やお前なら、物理で来られてもねじ伏せられるし?』
と、やはり小声で言う。
兄弟がそんな会話を交わしている間、アーサーは女性陣の熱い視線も男性陣の妬みに満ちた視線もフツメンの自分には関係ないし、ギルは強いからチンピラごとき何かあってものしてしまうし大丈夫だろうし、と、全てが他人事として、延々と続く波間に視線を漂わせていた。
なにしろ同じ生徒会長といってもルートやギルとは格が違う。
聖月学園も偏差値はそこそこ高いが、どちらかと言うとお坊ちゃん学校として知られていて、海陽のように全国レベルの進学校ではない。
容姿だってギルのような目の覚めるイケメンと違い、貧相なフツメンだ。
そう心の底から思っている。
……が、
実は他人事ではない。
本当は他人事ではないのだ。
その証拠に…
「ねぇ…あれ見て…。絵になるよねぇ…」
コソコソっと小声で言ってジェニーがそのアーサーを指差す。
「うん…物憂げに波間を見つめる美少年…」
アンがうなづいて同意し、ソフィーも
「可愛くて頭良くてお坊っちゃま?ノーブル…っていうか、プリンス?!殿下よ、殿下」
「あ~それいい!」
はしゃぐ女性陣。
そして、表面上はわからないが弟のルートにはハッキリわかる下降していく兄の機嫌。
あ~あ…と苦笑するフェリシアーノ。
「アーサーは無理。やめといて。恋人いるから」
そこでフェリシアーノが仕方なくフォローをいれると、
「え~」
と不満の声をあげる女性3人。
「あのさ…お前達恋人いないの?」
それに呆れて言うフェリシアーノに、3人が3人ともきっぱり
「最近別れちゃったっ」
と声を揃えた。
「えぇ~3人が3人とも?」
額に手をあてため息をつくフェリシアーノに
「だって…いまいちだったんだもん」
と、これも3人声を合わせる。
「ね、恋人持ちでもチャレンジしちゃおっかな」
とチラリとジェニーがまたアーサーに視線を向けた。
「あ~ジェニーずるい!私もチャレンジしようかと思ってたのにっ!」
とそこでアンが言うと、ソフィーまで
「いいねっ。誰が落とすかやってみよっか」
などと不穏な事を言い出す。
こうして不良達以前に女性陣との関係も不穏になりそうで、フェリシアーノは正直誘うのはルートだけにすれば良かった…と、不良達より怖いギルベルトの逆襲を思い、ため息をついた。
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