リトルキャッスル殺人事件_往路1

「俺…おかしくないか?」
当日…待ち合わせ場所の埠頭に行く道々、アーサーは心細げに少し身なりを整えた。

フェリの小学校時代の友人達との旅行。

ずっと一緒では緊張するからと、とりあえず行きは先に友人と合流するフェリとは別に埠頭まではギルとルートと3人。

そこからは全員でジェニーの叔父が操縦する船で行く事になっている。

アーサーはこれまで友人と言える人間がほぼおらず、ギル達と出会うまではプライベートで出かけることがあまりない生活だったので、私服のチョイスなどに自信がない。

フェリシアーノの友人知人におかしな目で見られたらと気にするアーサーの言葉に、

「…存在自体がおかしい」
と、きっぱりと答えるギル。

……?」

自信はなかったがそこまで?と涙目になりかけるアーサーに、ルートはため息を付いた。

もうこの先の展開は見えている。

なにしろ馬鹿っぷるだ。
兄は自分の兄とは思えないほど優秀な男で、ずっと尊敬はしているが、こと恋人のことになると大丈夫か?馬鹿じゃないか?と思ってしまうほど甘い。

今だって絶対に落としているわけではない。
このあとに砂糖のはちみつ漬けレベルの事を言い出すに決まっていると思ったら、案の定である。

「だって世界で一番なのは当然としてもだ、普通にこの世に存在してんのがおかしいレベルで可愛いだろ。
神様が手中の珠を磨いていたらつい手が滑って人間界に落っことしちまったって言われても納得の可愛さだしなっ!」

と、涙目の恋人様の肩に手を回して、そのこめかみに口づけを落とす。

それに対して人慣れない恋人の方がわたわたと動揺して離れようとするところまでがワンセットだ。


兄の恋人が愛らしい容姿をしているのは確かである。
それはルートも認める。

背はギリギリ170で特別低くはないのだが、とにかく細い。

幼い少年のように乱暴に触れれば折れてしまうのではないかと思うような華奢な手足をしていて、顔立ちも広い額と大きな丸い目など幼さを感じさせる要素が満載なので、自分と同じ高1という実年齢よりもかなり幼く見える。

しかも、その髪と同色の金色の長いまつげに縁取られた夢見るような淡いグリーンの目の上に鎮座するコミカルなレベルで太い眉毛がなければ、少女といっても納得できてしまうような顔立ちだ。
それもかなりの美少女である。

そんな幼な気で可愛らしい容姿の恋人様はまた非常に不器用な性格で、いつもどこか不安げな表情を浮かべていたりするため、実は生真面目で庇護欲に溢れた兄のギルベルトは、どうにも放っておけないらしい。文字通り溺愛。まさに溺れるように愛している。

…のは良いとしても、ルートとしてはいちゃつくなら2人きりの時にしてくれ…と、常々思っている。
切に切に思っている。

自分の側にもフェリシアーノがいる時ならまだ良いのだが、3人行動でそれをやられると非常に所在がない。

ハッキリ言っていますぐ帰りたくなった。

というか、フェリシアーノと一緒にクラスメート組に交じればよかった、俺の馬鹿と思っている。


そんな3人よりも一足先に待ち合わせ場所に向かっているフェリシアーノ。

4名に囲まれてルートあたりなら居たたまれなさに逃げ出す所だが、自宅では姉がいて、囲まれている女子高生達も小学時代の幼馴染達なのもあって普通に馴染んでいる。

「ね、今日来るフェリの親友って海陽の生徒会長ってホント?!」
と、初っ端にジェニーが身を乗り出す。

「「え?!マジっ?!!超エリートじゃないっ!!カッコいい子?!!」」
彼氏持ちのシンディ以外の2人もそれに食いついて来たのは、まあ普通のことなのだろう。
元々わりあいと恋愛関係に積極的な面々ということもある。

いつもならじゃあ紹介する?となるところだが、ルートだけは駄目だ。

「ルートだけは手を出しちゃ駄目だからねっ?!」
と、思わず焦って言うと、ぽかんとする面々。

「え~っと?」
「もしかして?」

と言われてハッとしたが、もう皆に迫られるという可能性を考えると、仕方ない。

「あのね、ルートは俺が好きな相手なのっ!だから駄目っ!」
と、カミングアウトした。

恋人同士と断言しないのは、もしかしたら気にするかもしれないルートに対するギリギリの配慮である。

「え~~?」
「そっかぁ。残念っ!」
「なになに?!片思い?!協力しちゃうよっ!!」

同性であるそれで若干何か言われるかと思えば、意外にも全くそのあたりは気にしないらしい。
フェリシアーノの言葉に4人は普通に女の子同士のノリで盛り上がる。

「みんな全然気にしないっぽい?」
と、むしろフェリシアーノの方がびっくりするが、4人揃って

「何を?」
と首をかしげてくる。

「うん…俺もルートも男だし…」

あまりに不思議そうに返されるので、むしろ自分の方がおかしいのかと思ってそう言うと、4人はようやく、あ~!と納得したようだ。

それに対してはジェニーが

「う~ん。フェリってあんまり性別感じないっていうか好きな相手が男でも女でも不自然さ感じないんだよねぇ」
と、喜んで良いのか悲しんで良いのかわからないが、とりあえず今の状況からするとありがたい言葉を返してくることに、フェリシアーノはホっと胸をなでおろした。

こうして和気あいあいと列車の旅を終え、電車を降りて埠頭に向かう一同。

しかしその和やかな空気も
「よぉ、シンディー。お前らもこの電車だったのかっ」
と後ろからかかった声で急に凍り付いた。

「あ…マイク」
少し硬直する3人と並んでくるりと振り向くシンディー。

同じく4人組で歩いていたマイクは他の3名より一歩前に出ると、シンディーに並んでその肩を抱いた。

同じく女3人に並ぼうとする男3人をさりげなく避けてフェリシアーノを防波堤にしようと回り込む女性陣。

「なんだよ、そのなよっとしたの以外の男は逃げたのか?」

それに男性陣の一人、ダニーがちょっとムッとしつつ、しかしすぐニヤニヤとからかいの表情を浮かべる。

「ああ、あとから合流するのよ。
逃げるわけないじゃない。そのうち1人は武道の達人なんだからっ」

フフン!とそれににこやかに返すジェニー。

あとの二人も男3人を完全に無視して、フェリシアーノにじゃれつきはじめて、さらに男性陣の顔が険しくなった。

(あ~、みんな早く合流しないかなぁ…)

アーサーが緊張するためなるべく合流を遅くしようと3人に別に来るように言い出したのは自分なのだが、そこで少し身の危険を感じてそう思うフェリシアーノ。

せめてルートだけでも一緒に来させておけばよかったなぁ…と、内心ため息をついた。

そんな事を考えつつ若干早足になるフェリシアーノを女性陣は小走りについていく。
そして…埠頭の船着き場に着くと、クルーザーの甲板に中年の男性が立っていた。



「こんにちは」
にこやかに挨拶をしてくる男性。

「こっちがジョン伯父さん。今回泊まらせてもらうペンションの持ち主よ♪
場所は離島だからここからは伯父さんの船で向かうから。」
シンディーの言葉に無言で少し頭を下げる男4人。

「どうもっ!お世話になります」
とフェリシアーノも頭を下げ、それに続いて女性3名も
「お世話になりま~す♪」
と揃って頭をさげた。

と、その時遠くから近づいてくる人影が三つ。
フェリシアーノは内心大きく安堵のため息をついた。


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