リトルキャッスル殺人事件_プロローグ

女難の相…自分ほどその言葉が似合う人間はいないのではないだろうか…と、フェリシアーノは思った。

本当に本当に女の子は可愛いと思っていて見ている分には楽しいのだが、実際に関わるとなるとなかなか難しい。

ましてやそれが、生まれながらにして自分の優位に立っている実姉となればなおさらである。



「フェリ~、あんた今度の試験休み、暇でしょ?」

いつもは暴君でフェリシアーノに対してはとても手厳しい姉のキアーラがにこやかに話しかけてくる時は要注意だ。

前回は熾烈な女の見栄張り合戦に担ぎ出された挙げ句、殺人事件に巻き込まれたのだ。

わりあいとおっとりとしているフェリシアーノではあるが、さすがに同じ轍を踏むまいと警戒しながら、

「ん~わかんない。ルートと出かけるかもだし?」
と、のらりくらりとかわそうとしてみる。

あの頃と違って、恋人のルートの名はフェリシアーノにとって切り札だ。

親は警視総監、本人は文武両道で国内でも一位二位を争う優秀な進学校の生徒会長という非の打ち所がない経歴を持つ。

最初に付き合い始めた頃はそんな情報もなく、キアーラは弟に出来た男の恋人に懐疑的ではあったのだが、彼女の見栄張り合戦に対する協力や、その後に起こった殺人事件での立ち振舞で、随分とその評価はあがっていた。

そこに、大財閥の総帥である祖父がフェリシアーノの交友関係について調べ上げた上でルートに関する諸々を知り、跡取りになるフェリシアーノの側にルートを置きたいという意思を明らかにした結果、ルートヴィヒ・バイルシュミットの名は、ヴァルガス財閥の親族の間では、かなりの影響力を持つものになっていた。

だからこそトラブル回避にとその名を出したのだが、今回は逆効果だったらしい。

「ルート?!ちょうどいいわっ!彼も一緒ならなお心強いしっ!」
と、姉が目を輝かせる。

しまった!と思った時にはもう遅い。
おそらくもう拒否権は空の彼方へと消えてしまったように思う。

で?今度は誰と喧嘩なの?姉ちゃん

ルートならきっと何をやってもらうことになっても勝てる。
申し訳ないとは思うけど思うけど、たぶん少し不器用にはにかんだ笑みを浮かべながら

──お前のためになることで俺で出来ることなら微力を尽くそう

とか言ってくれるのが目に見えているので、今度美味しい芋料理のレシピを調べて思い切り作ってごちそうすることで許してもらおうと諦めることにして、フェリシアーノは呆れ半分に聞いた。

すると、キアーラは

「なんで喧嘩って話になるのよっ!
まるであたしがいつでも喧嘩ばかりしてるみたいじゃないっ!」
と、口を尖らせる。

しかし、
「じゃ、今回は争いは一切なしなんだね?」
と、フェリシアーノが念押しをすると、ピタリと固まった。

そしてこわばった笑み……

(そんなことだろうと思ったよ
と、もう心の底から諦めながら、フェリシアーノは尋ねた。

「で?今度は何で競うことになったの?」

競うわけじゃないけど……
と、そこでごにょごにょと言いつつ視線を反らせる姉。

「けど?」
とそれにツッコミを入れるフェリシアーノに返ってきた答えは、思いもよらぬものだった。




「ええ~?!!現役空手部の不良4人組との旅行~?!!!」

珍しく言いにくそうに口ごもる姉から聞き出した話はとんでもないものだった。


フェリシアーノの家は祖父は大富豪だが、本来は実父は跡取りではなかった。
フェリシアーノが小学校5年の時に跡取りの伯父が急死し、フェリシアーノが中学になる時にキリが良いからと今の名門私立に転校したが、小学校までは地元の公立だった。

その頃、隣に住んでいた幼馴染がフェリシアーノの同級生で、ずっと一緒だったのだが、キアーラと姉妹のように仲が良く、引っ越してからも連絡を取り合って居たのだそうだ。

今回はその幼馴染、ジェニー・ローランドに相談を受けた事がきっかけらしい。

いわくクラスメートが数ヶ月前に付き合い始めた彼氏と旅行に行くとのこと。

行き先はクラスメートの伯父が経営する孤島のペンション。
シーズンオフなので格安の実費(食費)のみ。
その代りに滞在中の食事は自炊。
大浴場などの掃除も手伝うこと。

それだけなら高校生のバイト兼お楽しみ旅行としては悪い条件ではないと思う。

問題はその彼氏と言うのが、ずっと一緒だったジェニーも首をかしげるレベルの素行のよろしくない男で、さらにその彼氏が在籍している学校でも問題児ばかりが集まっている空手部の友人を3人一緒に連れてくるということだ。

ようは不良空手部4人と普通の女子高生1人の旅行。
それはいくらなんでも危なすぎるだろうと、ジェニーを中心とした仲良しグループの3人娘が一緒に行くことにしたらしいのだが、それでも相手は腕に覚えのある男4人で、こちらはか弱い女子高生4人組。

どう考えても何かあっても抑止にすらならない。
という相談だったらしく……

「あ、じゃあね、フェリ貸してあげるっ!いざとなったらフェリを差し出して逃げちゃいなさいっ!!」
と、暴君な姉が実に気軽に申し出てくれたらしい。

そんな真相を聞くとため息しか出ない。

「姉ちゃん場所、孤島って言ったよね?
もういいよ。俺を差し出すとしてもね、そんな4人を引き止めておくなんてできないし、孤島じゃ他に助けも求められないしジェニー達だって最終的に捕まるよ?」

怒る気にもならないと、呆れて言うフェリシアーノに、キアーラは

──大丈夫っ!あんたが行けばもれなくルートがついてくるでしょっ?!

──ねえ~ちゃああ~~ん!!!!

ああ、もう見抜かれている。
悔しいけど見抜かれている。

だけど……突き放す事もできない。
ジェニーはフェリシアーノにとっても物心ついた時には隣にいた幼馴染で、キアーラと違って学年も一緒だったため、幼稚園から小学校まではずっと一緒だったクラスメートでもある。

「ほんっとうに、ルートを巻き込んで迷惑かけるのは今度だけだからねっ!
絶対に今回限りだよっ!!」

と言いつつも、フェリシアーノはルートに了承を取る前にジェニーに状況を確認するため、スマホを手にとった。



>>> Next (6月20日公開予定)



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