とある白姫の誕生秘話──乙女達の座談会2

システム開発部のギルベルト・バイルシュミット課長補佐…

今、女性達の話題になっているその人物の1人は、部署の違う茂部太郎でも知っているくらいの有名人だ。

なにしろ顔が良くてスタイルが良くて頭が良くてコミュニケーション能力も高くて仕事もできる。
その全ての優れた度合いが人並みをはるかつきぬけている。

実は茂部太郎が学生時代に見た学生向けのワールド商事のパンフレットの社内の様子を説明したページには彼がオフィスで部下に何かを指示している写真が大きく載っているくらいだ。
あれを見て、ワールド商事を目指した女子大生は絶対に居ると思う。


そう言えば…茂部太郎の面接の時も、面接官としてそこに同席していた彼は、──転んだ時、怪我しなかったか?気をつけろよ──などと、まるで自分の部下に対するようにフレンドリーに、実に温かい笑みと共に声をかけてくれていた。

まあ…何故転んだことを知っているのか…もしかして自分が転んだ事は人事の目に止まって情報として回されているのか…など、その時は色々がくるくるまわったわけなのだが……

とにかく、そんな諸々で彼のことはよく覚えていたし、今の部に配属されてからも毎日女子社員の誰かしらがその動向にきゃあきゃあ嬌声をあげていたので、なんとなく人物像まで知ってしまっていた。


確か……茂部太郎達が受けた最終面接で、彼の目に止まった学生がいたらしい。
それで、その場でその学生にキラキラしい笑顔で

開発部では君を欲しいと思っている。
出来れば開発部を希望してくれると嬉しい
と、直球で投げたスカウトは、もはや本社内の女子の伝説になりかけている。

主に…あんな風にバイルシュミットさんにプロポーズされたい…という方向で…


自部署の本田課長と仲が良く、根っからの技術者であまり人づきあいの得意ではない課長の代わりに部内の人事的なものの一切を引き受けている話だとか、開発部署からの説明要員として彼が同行すると、新人の営業でもベテランの営業よりも大きな仕事を取って来れるだとか、某財閥系オーナー社長が自分の孫娘の婿にと切望しているとか、諸々逸話の多い人物だが、そんな彼の最近の話題としてよくあがるのが、彼が例の面接で取った新入社員との話である。

とにかく可愛がっているらしい。
とてもとてもとても可愛がっている。

就業時間内はとにかくどこに行くのも連れて歩く。
昼食も一緒。
飲み会などでも隣に座らせてちゃんとアルコールや食べ物の管理までしてやる。
他の人間が新人君に何か勧めてきても、何故かバイルシュミット課長補佐がやんわりと断りをいれる。
自分の愛息子だから…と、公言しているらしいが、本当にそんな感じである。


茂部太郎の周りの女性陣だと、そこから
──バイルシュミット課長補佐の息子だと言うなら一緒に育てたい。
──子持ちでも良いから付き合いたい…
と、続くわけなのだが、どうやら今エリザ達が話しているのは、そのバイルシュミット課長補佐とその愛息子と呼ばれている新人君のことなのだろうが、続く言葉が少し違う気がする…。


「どうせなら私生活も面倒見て欲しいわよね。
一緒に住むとか…」

「ん~まずお泊まりとかからじゃ?」

「どちらかが風邪とかひきはって、お見舞いに行って看病して、放っておけなくなって…とかが王道ちゃいます?」

「もしくは新人ちゃんにストーカーとか現れて、俺様が守らねえと!みたいに使命感に燃えて、ミイラ取りがミイラにとかでも、あたし的には萌えるんだけど……」

「ストーカーは用意できないから、ライバル登場で焦らせるくらいが現実的なところネ」

と、髪に花を飾った愛らしい学生風の女の子にちらりと視線を送られた茂部太郎は、身の危険を感じてブルブルと首を横に振った。

「あ~、茂部太郎はダメよ。みんなの手足と諜報要員だから。
目立つ事はさせちゃダメ」

と、言うエリザの言葉は果たして助け舟なのだろうか悩むところだ。



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