胸の前で祈りを捧げるように組まれる手。
愛らしい台詞と共に発動されるのは姿隠しの呪文だ。
これだ!これが白姫の理想形だ!!
とアーサーはリアルでディスプレイの向こうのノアノアのフレンド、ミアがパーティメンバーに姿隠しの魔法をかけていく様に見惚れている。
飽くまでディスプレイの向こう。
飽くまでデジタル。
同じフェイスタイプのプレイヤーもいる。
なのに、ありえないのだが、ミアからはお姫様オーラのようなものが溢れ出ている気がする。
──ギルさん、ギルさん、ミアさんてすっごく可愛らしいですよねっ!!
と、アリアでこのあがりきったテンションを伝えたくてギルにはしゃいだ気分でそうtellを送ると、
──ん~一般的にはそうなのかもな…
と、ギルからは同じ男とは思えない他人ごとのように平静な答えが返って来た。
──え~。可愛いじゃないですか、あのマクロの台詞とか。すごく可愛いっ!
と、さらに訴えるも、
──はいはい。とりあえずお姫さんはぐれないようにな。みんな姿消してるからKotoriさん追尾しとけ。
と、さらに実に現実的な返事が返ってくる。
まあ、でもこの場では正しい指摘だ。
このゲームでは指定した相手を追尾するという機能があって、あまりゲーム慣れしていないのでゲーム内で迷いやすいアーサーはいつもギルを追尾させてもらっていたのだが、今は姿隠しの呪文がかかっているので追尾出来ない。
だが、ギルが召喚しているKotoriさんは隠れないでも絡まれないので魔法がかかっていない。
だからアーサーはKotoriさんにターゲットを合わせて追尾のマクロを発動させた。
マクロと言ってもまあ、『アリアはKotoriさんの服の裾をそっと掴んだ』というメッセージと共に追尾設定をするだけのものである。
黙って追尾しても良いのだが、アリアがはぐれないようにちゃんと追尾しているということをギルに知らせるためにメッセージを入れたのだ。
ちなみにKotoriの部分はターゲットにした相手の名が入るので、普段は『アリアはギルさんの服の裾をそっと掴んだ』になる。
これが動作を示す紫色の文字となって、通常会話扱いで近隣に流れていくと、ざわり…と、ほぼ男キャラで占められたアライアンス内がざわめくのに、流した本人だけが気づかない。
竜騎士である自分に所属する子竜に…と言う事は、姿隠しの魔法を使っていない場合は自分にと言う事はおおよそ見当がつくであろうことに、悲しい男の性ではあるが、少し気分が良いギルベルトだが、一方で、これでもしかして新たなストーカー候補が出たりしないかとひやひやもする。
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