青い大地の果てにあるものオリジナル _2_5_ 脳筋フレンズ

模擬試合が終わってそれぞれなんとなく散って解散となった顔合わせ。

いったん部屋に戻って兄に言われて着ていたジャスミンと色違いのワンピースを脱いでいつものようにTシャツとパンツに着替えたファーはタオルを片手に再び鍛錬室のある区に向かった。

決して気があうわけでもない、どちらかと言うと気が合わない部類に入る双子の姉が先に第段階の武器を使える様になってそれが少し心細い。
ホップもユリも続々とクリスタルとの共鳴率を上げる中、相変わらずな自分が悔しくも悲しい。

「こんなに頑張ってるのになぁ...

つぶやきながら、それでもひねくれる事なく黙々と鍛錬を繰り返すあたりが、よくも悪くもまっすぐな人間なのである。



区について手近な鍛錬室に足を踏み入れると、誰もいないと思っていたその部屋に人影をみつけてファーは入り口で立ち止まった。
何故か相変わらず大きな鎌を背負いながら、一心に腕立て伏せをしているのは、さきほどの顔合わせにいた北欧支部のジャスティスだ。

顔合わせが終わってそれぞれみんな旧交を暖め合ったり、最近あまり多くは無い自由時間を満喫したりとしている中、自分と同じようにその時間を鍛錬室で黙々と鍛錬に費やそうというその少年にファーは少し親近感を持った。

トリトマの方もやがて入り口で立ちすくんでいるファーに気付いて腕立てをやめて立ち上がった。


「ごめんね。邪魔しちゃった

顔合わせの時は鎌を背負って片目に眼帯をしたこの無愛想な少年が少し近寄りがたかったのだが、こうして改めて見るとそう気詰まりでもない。
元々ファーは物怖じをする性格ではないのだ。

普通に他のジャスティスの友人に話しかける感覚で気軽に声をかけると、話しかけられたトリトマは少し驚いたように、それでもちゃんと

「いや、ここ使うのか
と、普通に返事を返して来た。

こんな時間に鍛錬室を使うのはそう多くは無いし、他の鍛錬室も空いてはいるだろうが、鍛錬室自体数人で使っても大丈夫なくらいの広さはゆうにある。
いつもいつも一人で鍛錬なのでたまには、とファーは聞いてみた。

「えとね、一緒していい邪魔しないようにするから。
嫌なら私が後に来たんだし他も空いてるから他に行くけど」

顔見せの時は明らかに自分を避けてる風だった双子の片割れの思わぬ申し出にトリトマは少し戸惑ってしかし
「いや、別に構わないが」
と、答える。

その答えにファーの表情がパ~っと明るくなった。

「ありがと~♪私ね、ファレノプシス。
ファーって呼んでね♪みんなそう呼ぶから」
言って軽い足取りで中に入ってくる。

「トリトマって鍛錬好きなの
私はね、強くなりたいのっ。だから暇さえあれば鍛錬室♪」

ちゃっちゃと部屋の端に上着とタオルを置いて準備体操をしながら話しかけてくるファーのフレンドリーさに少し押されつつも、トリトマはうなづく。

「他に...趣味らしい趣味もねえから」
「同じ~他にも私と同じような人いてちょっと嬉しい♪」
言って楽しげに飛び跳ねるファー。

ついつい本当の事を言ってしまって引かれるかと思ったら嬉しそうな反応を返されて、ちょっと自分も嬉しくなるトリトマ。

「ファーも...近接だよななんならちょっと手合わせしてみるか
トリトマの言葉にファーが一瞬ぽか~んとトリトマを見る。

「あ、もちろんなずないないから鎌は使わね...

「いいの?!
あわてて付け足そうとしたトリトマの言葉を遮って、またファーはピョンピョン飛び跳ねた。

「トリトマってさ、最初超無愛想なのかと思ったけど、結構話せる人だったんだね♪」

にこやかに言う歯に衣を着せないファーにまたまた戸惑うトリトマ。
しかし腹は立たない。
むしろその率直さが好ましいと思った。

「無愛想っていうか...同じくらいの歳の人間いなかったから慣れてなくてどう接したら良いのかあんまりわかんねえんだ」
思わず自分も素直になって苦笑まじりに告白する。

トリトマの告白にまたファーは目を丸くしてトリトマを凝視した。そして次の瞬間
「じゃ、友達になろう私トリトマとは絶対に気が合う気がするっ
といきなり両手でトリトマの両手を握った。

「わかんない事あったら聞いて私もわかんない事いっぱいだから答えられない事も多いけどねっ」
満面の笑顔のファーにつられてトリトマも笑った。

「ああ、友達...だな」
「うん♪」
「じゃあ...いっちょ手合わせするかっ」
「うん!!

ファーの思い切り力の入った返事に少し笑って、トリトマは背中から鎌をおろして部屋の端へ置いた。


お互い素手での手合わせ。
リーチはトリトマの方が長いが、本部一くらいの素早さを誇るファーはそのフットワークを生かして双方良い勝負を繰り広げる。

しかししばらくやりとりを続けているうち、床に飛び散った汗でファーがツルっと足を滑らせた。

「うああ!!
後ろに倒れ込みそうになるファーをトリトマが慌てて支える。

「セーフっ
思い切り焦るトリトマと逆に、ファーはノンキに笑った。

「お前なぁ...何をノンキに。頭打つだろうがっ」
「大丈夫、大丈夫、これ以上馬鹿にはならないからっ」
「お前自分で言うなよ~」
がっくりとその場にしゃがみ込むトリトマ。

「どうせ脳筋だも~ん♪
それよりトリトマ、そろそろお腹すかないご飯食べに行こうよっ」

トリトマのため息もなんのそのニコォっとトリトマの腕を取って言うファーにトリトマはまた苦笑した。

「良かったら使って♪」
とファーが投げてくるタオルで汗を拭いて鎌を担ぎ直す。
そのまま二人は仲良く並んで区の食堂に向かった。



Before <<<        >>> Next


0 件のコメント :

コメントを投稿