青い大地の果てにあるものオリジナル _2_3_ ジャパニーズルーム

「部屋戻って休むか?それともカフェテリアでも行くか?」

軽くなずなの肩を抱き寄せていうひのきになずなは

「ん~、タカの部屋でゆっくりお茶飲みたいな」
と、甘えた声でにっこり答える。

その二人の様子を複雑な表情でみつめるアニー、ホップ、トリトマの男3名。



「...ホップ、ちゃんとユリつなぎとめておいて下さいよ、まじ頼みます」
ボソボソっとホップにささやくアニー。

「それはこっちの台詞。
ジャスミンをちゃんと押さえておいて欲しいさ、マジ。
ファーだけでも大変なのに...」
ホップもボソボソ返す。

「いいですよねぇ...ひのきは」

ため息まじりに声を揃える男二人から少し離れてジ~っと仲良く鍛錬室を出て行く二人を凝視するトリトマに気付いて、その隣にいたユリは前を向いたままボソボソっとつぶやいた。

「今のなずながあるのはひのきとつき合ったからだからな...
本部来た頃のなずなだったら話かけないどころか男が近づいて行ったら逃げて行ったぞ。
ひのきが根気よく距離を置きつつ慣らしていったから男恐怖症克服できたんだ。
11年間ずっと唯一気を許せる相手だったなずなから私が手を放したのも相手がひのきだったからだ。
なずなはひのきがいなきゃ本来は難しい女だし、あいつを幸せにできるのはひのきだけだ。
だからちょっかいかけるのはやめておけ。
でないと...私は全人脈使って全力でお前つぶすぞ」

ヘラヘラと女をはべらしているだけと思っていた美少年の思わぬ言葉にトリトマは思わす隣のユリを振り返った。

双子といい、観客の(愛でる会の)女達といい、かなりもてるらしいこの美少年は、実は心の底からなずなを愛しているんだろうか。

そして彼女を思って身をひき、その寂しさを埋める為に他のたくさんの女達をはべらしているのか...と、トリトマはユリに対する認識をあらためた。

ただチャラチャラしているだけと思っていた本部組も色々あるらしい。


「鉄線て...実はすごい良い奴だったんだな...」
唐突にトリトマがつぶやいた。
「はあ?」

よもやトリトマの中でそんなストーリーができてあがっているとは夢にも思ってないので、ユリはポカ~ンとする。

「これからもよろしく頼む」
真面目な顔で右手を差し出すところをみると、別に皮肉でもなんでもないらしい。

「あ、ああ」
いきなり態度の変わったトリトマに戸惑いつつもユリが右手を差し出すと、そんな二人に気付いたホップがいきなり声をあげた。

「あ~~~!タマはだめさ、トリトマ!タマは俺んだからなっ!」
言って二人の間に割って入ると、トリトマからひき放すようにユリに抱きつく。

「お前な~!」
ユリのこめかみに青筋がうかぶ。

「だって、俺以外の男とタマがベタベタすんのはやだ!双子ですらギリギリなのに!」
「ざけんなっ!いつ私がベタベタした?!この馬鹿犬!!」

二人のそんなやりとりを、今度はトリトマがぽか~んと眺めている。

ホモ?それともぎりぎりな友情からくる独占欲?
ホップの必死さを見る限り冗談でもなさそうだし...。

これまで同年代の人間が側にいた事のなかったトリトマは判断に迷う。
こういう時に自分はどう反応すべきなのだろうか...。


「馬鹿犬だし...どうせ」
いじいじと床にのの字を書くホップに、ユリが立ち上がった。

「いじけんなよっ!うっとおしい!」
ホップはそんなユリをじっと見上げる。

「...何したいんだ?言ってみろ!」
あきらめたようにユリが息をつくと、
「つきあってくれるんだ?!」
とホップが嬉しそうに立ち上がった。

ユリは馬鹿犬と言っていたが、確かに尻尾をブンブン嬉しそうに振っている犬みたいだとトリトマはそれを見て思った。
先に立って部屋を出るユリの後からホップが嬉しそうに鍛錬室を出て行く。



「んで?どこで何をするって?」
鍛錬室を出た所で足を止め、ホップをクルっと振り返ってきくユリにホップは言った。

「タマの部屋行きたい♪」
「はっ?」
「だから~タマの部屋行きたい」
「行ってどうすんだ?面白いようなものないぞ?」

ホップの言葉の真意を測りかねてユリが聞くと、ホップは

「ファーが俺よりポチの事知ってんの妬けるから」
と、すでに足を居住区の方にむけている。

「馬鹿か、お前は」
ユリは吐き捨てるように言うが、部屋に行きたいというホップの希望に異論はないらしい。
ホップに続いて足は居住区に向く。



「ここがタマの部屋かぁ~」
居住区についてユリの部屋に入るとホップは嬉しそうにつぶやいた。

入った瞬間に香の良い匂いがたちこめ、板の間の廊下を通って畳敷きの居間に入ると、足の低いテーブルと座卓がある。

「冬だったら炬燵だったんだがな」
ホップを座卓にうながしてユリは急須から茶をいれる。

「炬燵ってなに?」
という、絶対に聞かれるだろうなと思ってた質問をしてくるホップにユリは笑った。

「日本の伝統的な暖房。
テーブルの下見てみろ。電気ストーブみたいになってるだろ?
これをつけてテーブルに布団をかけると、暖かくて気持ち良いんだ。
出るのが嫌になるのがたまに傷だけどな」

「へ~、面白いなぁ」
ユリの説明にホップは素直に感心する。

「また冬になったらタマの部屋来ていい?炬燵入って見たい」
ニコパっと笑って言うホップにユリの顔からふと笑みが消えた。

「...ダメなん?」
無言のユリに少し不安げに聞くホップ。

「別に私は駄目じゃないけど...」
ユリはふいっと視線をそらした。

「その頃にまだお前が私といるのが嫌になってなければな、勝手に来い」

「嫌になんて絶対になってないさ。だから来るっ!」
力を込めて言うホップに、ユリはまだ視線をそらしたまま
「ま、嫌になるまでもなく私に殺されてるかもだしな」
と口を尖らせた。


以前鍛錬室でみせたような泣きそうな子供の様な表情に、ホップはことさら明るく言った。

「タマになら殺されても良いけど...そんな自体は起こんないさ」
「わからんぞ。私は今まで味方もいっぱい殺してるしな。
ポチ自身を殺さなくてもフェイロンとかひのきとかお前の大事な友人殺すかもしれない。
そうしたらお前も嫌になるだろ」

ホップの脳裏を以前ひのきに聞いた極東支部でのユリの話と、実際に自分が極東支部に行った時のフリーダムの話がかすめた。


「タマはさ...偉いさ。
ずっと長い間たった一人で全部背負い込んで戦い続けてさ。
誰だって犠牲だしたくないし、自らの手を汚してまで戦いたくねえさ。
タカですら自分じゃ無理だって言ってた。
でももしもさ...今度タマが味方に手を下さないとなんねえような状況になったら俺がやってやる。
タマがそうしなきゃならない事になったら、俺、フェイロンでもタカでも俺自身の手で殺るよ?
タマの事嫌になんてぜってえにならないし、タマのためなら何でもやる」

「...馬鹿か、お前はっ」

「うん♪もうタマの事に関してはもうホンット馬鹿になれるからっ、俺。
タマの事まじ好き。一生タマの馬鹿犬でいいや。
あ、でも馬鹿でも主人の事は忘れない忠犬だからさっ。
ずっとずっとタマの事好きだから、信じて?俺の事」


本当はより男が怖いのはなずなよりユリの方なのかも知れない、とホップは思った。

あれだけ女にじゃれついて気ままに気を引いて遊ぶユリが自分から男にちょっかいかけたのはそういえば見た事がない。

たぶん...女性が多いブレインは直接犠牲が出る事もないからもめる事もなかったが実際犠牲になるフリーダムは全員男だ。

一時的に仲良くなったとしても、犠牲がでるたび仲が良かったはずの相手から疎まれたりしてきたのかもしれない。
気を許した相手にある日を境に急に疎まれるのが嫌で男に近づかないのかも知れない。

自分は違う。
ユリが好きで味方を巻き込んでるわけではないのは知ってるし、それでどれだけ傷ついているのかも知ってる。

もし自分や自分の周りがそれで犠牲になったとしてもユリのせいじゃない事も知ってるし、それでユリを嫌ったりする事はないと伝えたかった。


「ほんとにさ、俺、殺されるまでもなくタマのためなら自ら死ねると思う」
さらに言うホップに、ユリがボソっとつぶやいた。

「それは知ってる」
「え?」

「お前...死ぬつもりで戻ってきただろ、この前」
相変わらず視線をそらしたまま頬杖をついてユリは言う。

ああ、第二段階に目覚めた時の、と、ホップは思い起こす。

「ああ、あの時ね、うん。
タマのために死ぬなら良いかな~って思ってたんだけど結局タマに無理させちゃったよな。ホント俺って馬鹿」

ナハハっとなさけなく笑うホップに、ユリはまたボソリと

「死にに戻ってきた奴の気持ちが嬉しくて、意地でもこいつを死なせないなんてできもしない事しようとした私の方が馬鹿だ」
とつぶやいて、膝を抱え込んで膝に顔をうずめた。

「へ?」
思わぬユリの言葉に一瞬思考が停止するホップ。

「タマ...こっち向いて?」
「嫌だ」
顔の見えないユリの表情を見たくて言ってみたが、即拒否られる。

「...俺...ほんっとにタマの事好きなんだけど...」
「...知ってる」
ホップの言葉にユリは膝に顔をうずめたままボソリとつぶやく。

「タマも俺の事好きになってくれたら嬉しいんだけど...」
「......」

「タマ...俺の事嫌い?」
まさか嫌われてまではいないだろうと思いつつもドキドキしながら聞くと、

「...馬鹿か、お前は」
と、いつものぶっきらぼうな調子で答えが返って来た。


ファーやジャスミンのような女の子達には気前良く配られる"好き"という言葉は自分には簡単には与えられない事はわかっている。

が、ぶっきらぼうなその返答の中に変なところで照れ屋なユリのそれ以上の気持ちがこもってるのも知っている。

「俺...タマの"特別"になりてえなぁ...」

それでも多少それっぽい言葉が欲しくなってさらに続けると、

「勝手になってるだろ!馬鹿犬がっ」
と、彼女らしいおかしくも偉そうな肯定の言葉が返ってきて、ホップは吹き出した。


「タマ、そういうのって勝手になれるもんなん?」
思わずきくと、ようやく膝から顔をあげたユリはやっぱり視線は合わせないままムスっと言う。

「しかたないだろっ。名字まで教えちゃったし」

確かに...ひのきはたった一人特別な相手にしか教えられないと言っていた。

その認識はユリも同じなのか。ホップはあらためてその事を思い起こし、改めて嬉しさがこみ上げる。

やっぱり可愛いなぁ...。
ホップは端正な顔を少し赤くして口を尖らせるユリにみとれる。

確かに女の子達みたいに甘い言葉はもらえないかもしれないが、こんな可愛い表情を見られるのは自分だけなのだ、と、ホップは嬉しくなった。


「なあ、タマ。あれってさ、姫にも教えてないん?」
「ああ?」
「名字♪」

前言撤回、もう一人そういうユリの顔を見ているであろうユリのもう一人の特別を思い出してホップは口を開いた。

たぶん誰よりもユリにとって特別であるはずの彼女は、ユリによく似た、しかし浮いた噂一つなかった自分の親友をも一目で虜にした美少女で、ブルースター内の誰もがその姿に癒され誰もに愛されている。

以前姫自身が自分はユリの唯一の理解者だと言っていた。
そして、そのうち唯一ではなくなるだろうとも...。

自分は果たして彼女に少しは近づいたのだろうか...そしていつか追い越せるのだろうか。


ホップの質問にユリは初めてホップを振り返った。
若干あきれた目。

「お前...ひのきの説明、ちゃんと聞いてなかったのか?」
「聞いてた...けど」

「じゃ、わかるだろうがっ。
なずなは多分ひのきに聞いて名字知ってるだろうけど、私は言ってない」
またフイっと視線をそらすと、膝にあごをのっけて言う。

「そっか♪」
ホップは嬉しくてにんまりする。尻尾があったらブンブン振ってそうだ。


「タ~マ♪」
ホップは膝を抱えてうずくまるように座るユリの方へすりよると、後ろからその体を抱え込むように座った。

ジャスミンやファーといるとスラっと背が高く見えるユリも、西洋人にしても結構背が高いホップがこうやって抱え込んでしまうと小さく感じる。

「床に座るのってさ、椅子よりこうやってくっつきやすいから良いよね♪」
「...んだよっ。うざいっ!」

嬉しそうに言うホップをユリは口では突き放すものの、特に押しのけたりする事もしない。


「タマってさ...結構他人に触れられたりするの気になんない人?」

嫌がるでもなく、かといって意識して緊張するでもなく、何事もなかったようにそのまま膝を抱えているユリを少し意外に思ってホップは聞いた。

「...人による。
知らん奴だとさすがにどつくけど、小さい頃からなずながいつもひっついてたからスキンシップって意味ではあんま気にならないな」

なるほど、とホップは納得した。

「姫があんまり一緒にいなくなって寂しい?」
さらに聞く。

「しかたないだろ。
なずなも別に私の所有物なわけじゃないし、ひのきの事がいいって言うんだから」

「なるほど、寂しい訳ね」

素直じゃないその答えに思わず小さく吹き出すと、

「うるさいっ!」
と不機嫌な声が返ってくる。


「俺ならさ、タマの所有物だからいつでも呼んでくれてオッケーよ?」
ホップの言葉にユリは即答する。

「なずなの方がいいな」
「タマ~...冷たい~!!」
がっくりとユリの肩に額をつけるホップ。

「だって...なずなのが料理うまいし日本語話せるし...
寝間着代わりの浴衣とかだってなずなの手縫いだし」

「...嫁...ですか?」
「そそ、嫁嫁」
あきれるホップにユリはクスクス笑った。

「いいさ、じゃあ俺だって料理も日本語も裁縫だって勉強しちゃうさ」

ふくれるホップに

「ああ、頑張れ!なずな超えたら嫁にもらってやる」
と、まだ笑いながらユリが言う。

「うん。まじ頑張っちゃうさ。だから...先にエールくんない?」

「エール?」
ユリが頭だけ上向いてホップを見上げた。


不思議そうに見上げるその様子はいつもより少し子供っぽい無防備な感じで、ホップは焦る。

(やっば~...タマむちゃ可愛い!!)
あわてて片手で口元を押さえてクルっと横を向くホップを、ユリはいぶかしげに見る。

「なんだよ?ポチ」

(可愛い、可愛い、まじやばいくらい可愛すぎて、俺がやばいさ)

「お前な~、自分から言っておいて何だよ!」

ぷ~っとふくれる様子もホップの男心をモロくすぐるわけで...。


「タマ...」
「...んだよ?」
「...お茶、もういっぱい下さい」
「...?...ああ。」

いきなりの要求に不思議そうな顔で、それでもユリは立ち上がった。

(可愛すぎてやばいなんて言ったら...確実に殴られるよなぁ...)

なんとか一呼吸おくことに成功してホップは息を吐き出した。


コトっと置かれた湯のみの中身を口に含んだホップはあれ?っと思う。

「これ...さっきのと違う?」

ホップに注いでから自分の湯のみにも茶を注いでユリは

「ん。さっきのは煎茶。こっちはライス入りの玄米茶って茶」
と自分も湯のみの中身をすする。

「ファー来た時は玄米茶だったかな。確か。
飲みたきゃ他の茶も一通りいれてやるけど?」

その言葉でわざわざ茶の種類をかえてくれた真意を理解して、ホップは胸が熱くなった。

さっき、ファーの方がユリの事を知ってるのが嫌だと言った自分の言葉を気にしてくれていたらしい。


ぶっきらぼうで冷たい言葉の裏で、ユリは他人の悲しみや不安といったマイナスに沈み込んだ気持ちに敏感に反応する。

いつもジャスミンばかり注目されて放置されている気がしていたファーの寂しい気持ち、戦闘が好きではなくて恐怖で戦えなくて逃げてしまったジャスミンの罪悪感と心細い気持ち、そして自分の他と比べて自分は好かれているんだろうかという不安。

それを感じてさりげなく埋めようとするから、みんなユリにすがるように夢中になるのだろう。

おそらくほとんど無意識に自分の痛みは押し隠して他人の痛みを埋めようとするユリがホップはせつなかった。


「俺...タマのためならほんっとに何でもするからっ!」

思わず口をついて出たホップの言葉に、ユリはチラっと目だけむけて

「茶くらいで大げさな...」
とまた一口すする。

本当に考えている事を全部言ったら、たぶん照れ屋なユリの事、殴られるだけじゃすまないだろうな、とホップは口は災いの元とばかりに黙り込んだ。


「んで?エールってなんだ?」
ホップが黙ってできた沈黙をやぶるように、ユリが聞いて来た。

あ、そうだった。どうしよう。
一瞬迷うホップ。

お茶を一口口に含んで飲み干して考える。だいぶ自分の気持ちも落ち着いて来たよな?

「うん、だからさ、頑張れるようにキスなんてしてもらえると嬉しいかな...と」

湯のみに顔を埋めたまま上目遣いに伺うと、

「馬鹿か、お前は」
とあきれた顔でため息をついたユリがたちあがった。

ホップの側にくると、その手から湯のみを取り上げてテーブルに置く。


へ???
ぽか~んと見上げるホップを見下ろして、

「目くらいつぶっておけよ、ば~かっ!」
とユリが膝まづいてテーブルに片手を、ホップの肩に片手をおく。

(ええ~~?!!)

よもや本当にしてもらえるとは思っていなかったホップは内心焦りつつも、とりあえず目をつぶった。


次の瞬間

「うあっ!!」
と言う悲鳴と共に、ユリの体重がかかる。

どうやらテーブルに置いた手が滑ったらしい。
準備なしに全体重をかけられ、さすがにホップも後ろにひっくり返った。

「...ってえ」

頭をしたたか打って反射的に声をあげるものの、まあ下は畳なのでそれほど痛くも無い。

それでもホップにのしかかったままユリが
「悪い。大丈夫か?」
と心配そうな顔でのぞきこんでくる。

綺麗な顔が曇るのを見てホップはあわてて

「平気平気。よもやキスねだっただけで押し倒されると思ってなかったから。
タマ積極的すぎっ」
とわざとちゃかした。

「お前なあ...」
ユリの顔がかすかに赤くなる。

「もういい!とにかく目をつぶれ!」
やけくそのように言うユリの言葉に目をつぶると、サラっとユリの髪が頬をくすぐる。

「...美味い物食わせろよ?」
口元に息がかかった。
次の瞬間唇に柔らかい感触。体がカッと熱くなる。

すぐ唇が離れ、体の上の重みが消えたが、体の熱はひかない。

「ポチ?」
起き上がらないホップにユリが少し心配そうに声をかける。

「やばい...死にそう」
その声にホップはガバっと起き上がって両手で顔を覆った。

「お前...初めてじゃないよな?」
「うん。違うけど...セックスより気持ちいい。タマのキス」

触れるだけの軽いキス。それだけで心臓が飛び出しそうにドキドキする。

今まで何人の女と何回ものキスをしても、何回体を重ねても、ここまで気持ちが高ぶった事はなかった。

やばい、やばい、やばい...

「どうしよう...俺、本当にタマの事好きだ。
離れたらタマ不足で死んじゃうかもしんない」

「お前...今まで何人にその台詞言ってんだよ?」
戸惑ったような、あきれたようなユリの声に、ホップは真剣な顔で詰め寄った。

「言ってない!
俺確かに遊んでたけど、ノリでつきあっただけだったから1週間も続いた事なかったし!
本当だからっ!ちゃんと誰か好きになったのタマ初めてだしっ!
誰かを束縛したいって思ったのもタマだけだし、
その子のために死んでもいいって思ったのもタマが初めてだからっ!
本当だからっ!!」

「わ...わかったから。悪かったから泣くなよ、男が」
ユリの言葉にホップは初めて自分が泣いていたのに気付いた。

「...ごめっ。俺なんかみっともな...」
ホップがあわてて袖口で涙をぬぐうと、ユリが立ち上がった。

そのまま新しい急須と湯のみを持ってくる。

「次は...蕎麦茶な。文字通り蕎麦の実のお茶。蕎麦の匂いするぞ」

トポトポとお茶を湯のみに注ぐと

「飲めよ」
とホップに差し出す。

うながされるまま湯のみを手に取ると、香ばしい匂いが鼻をくすぐった。


「まあ...誰彼かまわず相手の為に死んでも良いなんて思ってたら、さすがに今頃生きてないよな、確かに」
ズズっと自分も蕎麦茶をすすりながらユリはいう。

「それでも...モテないわけでもないのに、もの好きだよな、お前も。
世の中もっと可愛い女の子なんていっぱいいるだろうに」

「そんな事ない!タマより綺麗な子なんていない。
俺はタマがいい!タマじゃないなら要らない!」

「ああ、そうかよっ。もうその辺でやめとけ!」
ホップの言葉に真っ赤になってソッポをむくユリ。

蕎麦茶をすすりながら少し落ち着いて来たホップは、その様子をまた可愛いなぁと思いつつみとれる。

「でも...本当のことさ」
「ああ、もうその話題は終わり!んで?タキシードは嫌なのか?!」
さらに言うホップに、ユリは強引に話題を変えにかかった。

照れるユリも可愛いと思いつつも、これ以上言うと怒らせかねない。
ホップは次の話題にのることにした。


「タキシード着ると...双子や色々な女の子達がタマ連れて行っちまうから俺一緒にいられなくなるし。
寂しくて死んじゃうかも」

「お前な~...」

「本当の事さ~。タキシードなんて着たらタマ絶対に返してもらえない!
そんなの嫌だっ!」

「ん~...別にタキシードじゃなくても良いんだけどな...
困った事に他にフォーマル持ってないんだよなぁ」
ユリがくしゃっと頭に手をやる。

「用意すれば...着てくれる?」

実はユリ自身それほど服装にこだわりをもっていないらしい事にきづいてホップが聞くと、

「あんまりとんでもないものじゃなければな」
と、ユリは答えた。


「でも今からじゃ無理だろ?明々後日だし。
買いに行くにもジャスティス全員外出禁止令出てるしな。
今度それをスルーしたらまじなずなにボイスかけてもらえなくなる」

「いや、用意してもらえるあてあるからっ!頼んでおく!」

やった!と心の中でガッツポーズをするホップ。
急いで携帯を手に取ると、登録してある番号を呼び出す。

「もしもし、俺。頼みあんだけどさ...明後日くらいまでにドレス用意して欲しいんさ。
できればオーダーメイドでカッコ良くて可愛いやつ。
え?違うさ、俺が着たら仮装じゃん。着るのタマ。
うん、許可もらったさ。用意すれば着てくれるって。
え?いいん?サンキュー」

どうやら交渉成立で携帯を切るホップ。

「お前...どこかけたんだ?」
「友達んとこ♪愛でる会の会長♪
もう皆すごい大喜びですでにデザイン考えたり素材集めたり始めてるらしいさ。
愛でる会の面々、今日から明後日まではみんな休暇とるらしい」

「まじ...かよ」
数十人が一度に休暇...他人を巻き込むなと言うひのきの渋い顔が脳裏にうかぶ。

大量の女性部員に一度に休まれるブレイン本部の部長シザーあたりからも苦情がきそうだ。
そして...あの面々が作るドレス。どういう物になるのだろうか...。

いまさらやめたとも言えないし...ああ、もう覚悟を決めるしかないのか...。ユリーは大きなため息をついた。


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