本部ジャスティス7名。北欧支部3名。
本部、北欧支部の各ブレイン、フリーダム部長。計4名。
女が多くて若干やりにくいというか...本当に戦えるのか、と、全員での歓迎会に先立ってのジャスティスと部長レベルだけのお茶会でトリトマは少し眉をひそめた。
その女3名がお茶を手早くいれていく。
「いつも...アームスを発動したままで過ごされてるんですか?」
カチャっとティーカップが目の前に置かれると同時に優しげな声がふってくる。
いつも大きな鎌を背負って歩くトリトマを見て、コソコソと周りの者にそれを聞く者はいても、直接トリトマにきく人間は珍しい。
トリトマは自分の前にカップを置いてそう問いかけた相手を無言で見上げた。
大人しそうな印象の漆黒の髪と目を持った東洋人らしき女は、目が合うと柔らかく微笑んだ。
東洋の民族衣装なのだろうか。
淡いピンク色の変わった服を着ていて、その胸元にクリスタルのペンダントが揺れている。
トリトマがペンダントに注目している事に気付いて、女はやっぱり柔らかい笑みを浮かべて
「はい。私は本部のジャスティスです」
と、トリトマの無言の問いに答えた。
「...そういう装飾を身につけるのが好きじゃない。だから武器のまま持ち歩いている」
珍しく直接聞かれた事に多少戸惑いを覚えつつも、トリトマは答えて、またふいっとソッポをむく。
「そうでしたか」
女は微笑みと共に言って、トリトマを通り越して隣のシランににこやかに茶を渡した。
全員に飲み物が行き渡ると本部のブレイン部長が歓迎の挨拶とともに本部側のジャスティスを紹介していく。
それが終わると今度は北欧支部のブレイン部長のルビナスがこちら側の紹介をした。
そうして一通り紹介が終わると、各々歓談に入る。
「トリトマ、こいつがよく話してたひのきだ」
尊敬する大先輩コーレアが呼ぶ声にトリトマは席を立ってそちらに行った。
「タカ、こっちはトリトマ。
お前が本部に帰ってからジャスティスになったから会った事はなかっただろう?
お前と同じ歳で俺達と同じ武器持ちの攻撃特化ジャスティスだ。
少し人見知りだが仲良くしてやってくれ」
コーレアの言葉にひのきはうなづいて
「よろしくな」
と右手をだした。トリトマはそれに対して皮肉な笑みを浮かべた。
「握手は...利き手を相手に預けて敵意のない事を示すものらしいが...俺は左利きだから意味ないな」
トリトマの対応にコーレアは少し困った顔をするが、さてどうでるか?と相手の様子を伺うトリトマにひのきはにやりと笑う。
「俺は両利きだからそれ言ったら握手の意味ねえけど、まあ所詮慣習だろ?
深く考える事ないんじゃねえか?」
相手が意外に柔軟に対応を返してくる事にトリトマの方が少し戸惑って、仕方なく右手を差し出した。
ひのきはその手を握って少し力をいれたあと、放す。
まあ...さすがにコーレアの認めるほどの男だ。簡単には挑発にのってこない。
悔しいが一筋縄ではいかないということか。
隣ではコーレアがクックっと笑っている。
「タカ...大人になったな」
「まあ...いつまでもガキでいさせてくれねえからな、周りが」
肩をすくめるその姿は西洋人に比べると若干線が細く顔立ちも端正だが、どこか自分や他の同年齢のジャスティスにはない貫禄のようなものが伺える。
自分は信じていないがコーレアを差し置いてジャスティス最強と言われているのをトリトマは思い出して、なるほど、と思う。
そのまま談笑を始めるコーレアとひのきから少しまた離れてトリトマは辺りを見回した。
さっきの双子はお互いあまり仲が良く無いらしい。
というか、双子だけに同じ相手が好きなのか。
一人の東洋人の少年を取り合っている。
東洋人という人種のせいなのかひのきに少し似ているが、ひのきよりはさらに線が細い、いかにも女受けしそうな美少年は、左右の腕を双子に取られて苦笑している。
その隣には赤毛の背の高い少年。
こいつも何故か東洋人の少年の取り合いに参加している。
...ゲイなのか...?。
トリトマは思い切り眉をひそめた。
髪の長い方の双子の片割れの横には金髪碧眼の少年。
少し悲しそうに苦笑しているところをみると、その双子の片割れに気があるのか。
本部は本当に平和ぼけしているな、と、トリトマは彼らをみて結論づけた。
北欧支部は単体では存続が危なくなるほど、その地域でのレッドムーンの活動が活発化してきたので、本部に吸収される事になった。
確かここ数ヶ月の間に豪州支部と極東支部が壊滅させられているとも聞いている。
そんな状況でこいつらは何を色恋に浮かれてるんだ、と侮蔑の表情を浮かべつつ、トリトマは一人紅茶をすすった。
いつもなら何かと話しかけてくれるコーレアは今は例のひのきと話し込んでいるし、所在がない。
だいたい歓迎会というわりには本部のジャスティス達はコーレアといるひのき以外はみな、自分達だけで固まっていてこちらはほったらかしじゃないか...
そもそも他人と話す事が著しく苦手なトリトマは話しかけられても気まずいのだが、それでもそういう自分の事は棚にあげて不機嫌になった。
一人は慣れているのだが、それでも自分だけぽつねんとしていて、ひどく居心地が悪い。
「お茶、おかわりいかがですか?」
あまりの居心地の悪さに早々に何か理由をつけて帰ってしまおうかと思った時に、不意に声が振って来た。
最初に茶を配っていた東洋人の女だ。
「ああ、もらおう」
トリトマが見上げるとやっぱり柔らかい笑みが返ってくる。
半分減ったカップを置くと、女が舞いを舞う様な優雅な手つきでポットから紅茶を注ぎ足した。
「なずな...だったな?」
珍しく覚えた名前を相手に確認すると、女、なずなは小さくうなづいて
「ナズナ=ムツキ、治癒系ジャスティスです。よろしくお願いします」
と会釈をする。
そのままティーポットを片手に通り過ぎようとするなずなをトリトマは
「おい、」
と、呼び止めた。
「はい?」
ピタっと足を止めて振り返ると、なずなは少し小首をかしげた。
そのままトリトマの次の言葉を待つそぶりだが、当のトリトマは振り返られて戸惑う。
何故呼び止めたのか自分でもわからない。
しばらく続く沈黙。
気まずい...。
呼び止めたからには何か言わなければ...と、焦れば焦るほど言葉が出てこない。
あきれた、あるいは嫌な顔をされているだろうか...。
おそるおそるまたなずなを見上げると、なずなは相変わらずにこやかな表情で、目が合うと
柔らかい笑みを浮かべて言った。
「トリトマさんも...こういうお席苦手ですか?」
「ああ、苦手というか...あまり好きではない。も、という事はなずなは苦手なのか?」
相手から話題を振られた事に少しほっとして、それでも若干見栄を張ってしまう自分に内心舌うちをするトリトマ。
なずなは柔らかな雰囲気をまとっていて、どう見ても自分のように周りになじめない人間には見えない。
それがあえて"も"と言う言葉を使うのは、どう見てもなじんでない自分への彼女なりの気遣いだと思う。
それにそういう風に見え見えの馬鹿な返答しかできない自分に嫌気がさす。
今度こそあきれて行ってしまうだろうと思ったら、意外な事になずなは恥ずかしそうにうなづいた。
「ええ。私、1ヶ月ほど前に開かれた自分の歓迎会で苦手な方がいて、主賓なのに逃げちゃいましたから。
好きではなくてもきちんと参加なさるトリトマさんは偉いですよね」
「そうなのか...」
なんとなくホッとするトリトマ。
コーレア以外の人間とこんなに話をするのは久々だ。
「はい。それどころかその方が支部に帰るまで基地内逃げ回ってましたから」
なずなの素直な告白にトリトマは小さく笑った。
コーレア以外の人間と話していて気詰まりじゃない事は初めてくらいだ。
特に女という人種はよく話すタイプはこちらを小馬鹿にしたような態度がしばしば見え隠れするし内気なタイプは会話が続かずきまずい気分になるので苦手だった。
なずなはそのどちらにも属さない希有なタイプだと思う。
柔らかくどちらかと言うと内気で頼りなげな印象なのに、さりげなく会話を続けやすいように話題を振ってくる。
受け答えも控えめで相手をたてているようでいて、でもどことなく明るく楽しい。
「座ったらどうだ。さっきからずっと茶をついで回ってて疲れただろう?」
もう少し話をしたい…でもそう素直に口に出せず、トリトマはさも相手を気遣う風に言うが、なずなはそれも疑うようなそぶりもなく、額面通りとって微笑んだ。
「ありがとうございます。じゃあ少しだけお邪魔します」
隣に座るとふわりと甘い桃の香りがただよう。
人付き合いが得意ではないトリトマにとって本部吸収であらたにつき合わなければならない
ジャスティスが増えるのはとても憂鬱だったのだが、ここにきて初めて本部に来てよかったと心から思えた。
「絶対にタキシードよっ!」
「いや、ドレスさ!タマは女なんだし。なあ、タマ?」
北欧支部組の歓迎会という当初の趣旨も全く無視して、言い争いを続けるのは本部組ジャスティス。
論点は週末の北欧支部の人々の歓迎舞踏会の時のユリの服装だ。
タキシードを着たユリと踊りたい双子と、ドレスを着させてユリを独占したいホップの間で、本人の意向を無視して繰り広げられているその口論に、当のユリは面倒くさそうに逃げ場を探してきょろきょろしていた。
あとは本部長&支部長の4人組、ひのき、コーレア、シランの同窓会組、そしてトリトマと話すなずなの3組に分かれている。
ユリは口論に夢中な3名+傍観者1名の側をそ~っと抜け出すと、まず一番潜り込みやすそうな幼なじみの元にむかった。
「な~ずな、入れて♪」
ヘラっと笑って言うと、なずなの隣に座ってなずなと話していた鎌を背負った男に露骨に嫌そうな視線を向けられ、ユリは
「やっぱひのきんとこ行く」
とクルっと反転した。
敵意を向けられてまで相手と話したいという気はない。
なずなは隣にいるため位置的に相手の視線が目に入らなかったのだろう。
不思議そうな顔をしている。
「あら、そう?いってらっしゃい」
とヒラヒラと手を振った。
「ひのき...かくまってくれ。」
その足でコソコソと北欧支部大人組と歓談中のひのきの隣に潜り込む。
「またお前かよっ」
口ではうんざりしたような口調だが、久々に旧友と会って機嫌のいいひのきはそう言いつつも少しずれて隣を開けてくれた。
「こいつは鉄線。俺の親族で極東支部からきた中距離範囲のジャスティス。
状況によっては盾もこなすがな」
と、二人にユリを紹介する。
「んで、こっちが前話したコーレア。大剣使い。
で、こっちのじーさんがシラン。
人形を操って戦わせるちょっと変わったジャスティスだ」
と、ユリの方にも二人を紹介した。
「鉄線は人気者みたいだな。」
コーレアは今ユリが逃げて来た方を見て笑った。
「男にまで熱烈に愛されてるなんてすごいな」
コーレアの言葉をひのきが訂正する。
「いや、正確には女にまで、が、正しい。こいつこう見えても女だから」
「これは...悪かった」
あわてて謝罪するコーレアにユリは興味無さげに肩をすくめた。
「別に...男でも女でもたいして変わらないから。
私は私で、それ以上でもそれ以下でもないし」
「真理じゃな」
その言葉にシランがうなづく。
「まあどちらにしろ他人から好かれる事は良い事だ」
コーレアが言うのに、ひのきは
「他人に迷惑をかけなければな。こいつはしょっちゅう周りを巻き込むから。
つい先日もこいつをめぐる争いに巻き込まれて休暇がおじゃんになった」
と苦い顔で大仰に息をついた。
「節操なくあちこちにちょっかい出してねえで一人に決めとけ」
ひのきの声にコーレアが楽しげに笑った。
「本部は10代のジャスティスが多いだけににぎやかなんだな。
北欧は一人だけだったから。
トリトマもこれを機会に少しそういうのになじんでくれれば良いんだが」
「じゃな。だがもうなじんどるみたいじゃぞ。可愛いお嬢ちゃんと楽しげに話しておる。
あれが女子と話しているのは初めてみたが...」
シランの言葉にコーレアとひのきも振り返る。
「ああ、本当だ。珍しいな、トリトマが他人になじむのは」
「さっき私が混じろうとしたら『お前は来んな!』って言わんばかりの目でにらまれたからこっちきたんだけど...」
ユリの言葉にコーレアは苦笑して謝罪した。
「それはすまなかったな。奴は人見知りが激しくてな。
鉄線が特別どうという事ではないんだ。気を悪くしないでやってくれ」
「ふ~ん...ま、私はどっちでも良いけど。
私が特別嫌いなわけじゃなくてなずなを特別気に入ったって事ね?」
ユリはニヤリと隣のひのきに目をやる。
「ああ、そうみたいだな。優しそうな子だし。
これを機会に女の子にも慣れてくれれば良いんだが」
コーレアの言葉にユリは小さく吹き出した。
不思議そうな顔をするコーレアとシラン。
「んで?いいのか?旦那は」
ユリは厳しい顔でそちらをにらんでいるひのきに声をかけた。
「...良くねえ」
ひのきはムスっと答えて、なずな達の方へ足をむける。
「あれね、ひのきの彼女」
ユリの言葉でそれまでのユリとひのきの態度に納得する二人。
「さて、修羅場にでもなるかねぇ...」
若干心配そうな顔の北欧大人組を尻目にユリは楽しげな目を3人に向けた。
「歓談中悪いな」
ひのきは二人の側に行くとそう言って軽くなずなの肩に手をかけた。
「あ、タカvどうしたの?」
なずなが嬉しそうに言ってひのきを見上げる。
一方のトリトマはさきほどユリに向けた様な露骨に嫌そうな視線をひのきにも向けた。
しかしユリと違って目的がはっきりしているひのきはあえてそれをスルーしてなずなに話しかける。
「コーレアとシランに紹介したいから、向こうに来ないか?」
ひのきの言葉になずなはちょっと戸惑ったようにトリトマに目をやる。
「別に今じゃなくても良いだろ。嫌でもこれから本部にいるんだし」
トリトマは不機嫌に言うが、ひのきはそれもスルーした。
「トリトマも来いよ。鉄線紹介するから」
「お前しきんなよ。なずなは今俺と話してんだから割り込んでんじゃねえよ」
トリトマの敵対心びしばしの発言になずながオロオロと周りを見回す。
「そろそろひのきキレるかな」
クスクス笑いをもらすユリ。
「鉄線は...いつもそうやって面白がっとるのか?」
シランはやれやれと言った調子で声をかけた。
「だって面白いし♪」
ユリは悪びれず言う。
「あれは...トリトマがあきらかに悪いな。仲裁に入ってくるかのぉ」
どっこいしょ、と、シランが重い腰をあげかけるのを、コーレアが制した。
「当事者で解決できないと今後困るだろうからな。
収集つかないくらいになるまで待とう。
大丈夫、タカがたぶんうまくおさめてくれる」
「おぬしは...昔からずいぶんあの坊主をかっとるな」
シランが椅子に座り直すと、コーレアはにこやかにうなづいた。
「タカは昔から人の倍の努力と鍛錬をする忍耐強い奴だったからな。
あれくらいでキレるような男じゃない」
コーレアの言葉通りひのきはトリトマの言葉で困った顔をするなずなの頭を少しなでて
「大丈夫。心配しないでいい」
と、まずなずなに小声で言う。
それからトリトマを向き直った。
「鉄線は本来は遠距離範囲アタッカーだが状況によっては盾もこなすから、治癒系のなずなとセットで純アタッカーの俺達は一緒に行動する事が多くなる。
同じ近接アタッカーの双子とかは一緒になることはそんなにねえから良いけど、盾の鉄線とアニー、遠隔のホップあたりは顔合わせしといたほうがいい。
一応全体の歓迎会と別にこういう少人数で集まる席作ってるってことは、そういう顔合わせもするって意味もあるんだろうしな。
実際この次の瞬間に任務はいる事もあるんだし。
いきなり全く知らない相手と命がけの仕事すんのも嫌だろ?」
悔しいけど道理は通っている。
「チッ偉そうに。まあいいや、じゃ、こっち呼べよ」
トリトマは渋々言った。
「鉄線!ホップ!アニーも来いよ!」
言われて3人がそれぞれ寄ってくる。
「タマ、いつのまに逃げてたさ」
「お前ら3人で私そっちのけで楽しげに話してる間?」
「ひっで~。楽しげにじゃねえさ~。タマが一言ドレス着るって言ってくれれば...」
ユリとホップのそんなやりとりを双子が遠目に見ている。
やりとりには加わりたいが、呼ばれた先にいる鎌を背負った無愛想な眼帯の新人に関わるのが怖いらしい。
アニーは
「ホップももっとしっかりユリ捕まえていてくれれば良いのに...」
とつぶやきつつ、なずなの隣に座った新人にチラっと目をやる。
「あの...なんで彼はあんなに姫に馴れ馴れしくしてるんですか?」
不機嫌に言うアニーの言葉を聞きとがめてトリトマは眉をしかめた。
「おい、このクソガキ何ひがんでんだ?」
相変わらず敵対心ビシバシのトリトマに、ホップが驚いてピタっと止まり、ユリがうつむき加減にため息をつく。
そしてクソガキと言われたアニーの方も完全にトリトマを敵とみなしたらしい。
にっこりと口元だけ笑みを浮かべて慇懃無礼な口調になった。
「他人の恋人に馴れ馴れしくちょっかいかけるような品位のない方は、口も悪いんですね」
「他人の恋人って...なんだよ、それ」
アニーの言葉にトリトマはポカンとする。
「トリちゃん、なずな姫はタカの彼女なんよ」
アニーにこれ以上言わせてはまずいとさすがに察したホップがあわてて口をはさむ。
トリトマの驚いたような表情に、アニーはひのきを振り返った。
「ひのき言ってなかったんですか?
駄目ですよ、変な誤解与える前に言っておかないと。僕みたいになりますよ?」
言ってちらりとユリに目をやるあたりが、別の私情が入ってたりする。
「別に聞かれなかったし。顔合わせだから話をするのはしかたねえだろ。
別に無理にせまってたとかでもねえし。
それともお前は何か?こういう席でジャスミンが他の男と話してたら自分の彼女だから手を出すなって言って回るのか?」
アニーの勢いに多少困った様に言うひのきにアニーは
「もちろん、言いますよ」
ときっぱり。
「言うのか」
あきれるひのき。
「馬鹿じゃねえの」
断言したアニーにトリトマが口の端を上げて皮肉っぽく言った。
「結婚してるわけじゃねえんだし、別に他とつきあうななんて言う権利ねえじゃん。
他人の女房に手出したら犯罪かもしれねえけど、彼女の間は別に勝手だろ」
「うあ...こんな外道な事言ってますよ?良いんですか?ひのき。
とりあえず姫、こんな危険人物の側にいちゃだめです、こっちに!」
アニーがなずなの手を取って立たせようとすると、トリトマが反対側のなずなの腕を取る。
「勝手な事すんなよ!てめえには関係ないだろうがっっ!」
なずなは二人に腕を取られて二人の間で硬直する。
「話すのはいいが、手は取るな。二人ともだっ!」
そこでひのきが二人の手をそれぞれねじりあげた。
双方の手が離れてなずなははじかれたように立ち上がるとひのきにかけよる。
二人の手を離して青くなって震えているなずなを抱きとめると、ひのきは舌打ちした。
「初対面のトリトマはともかく...アニー、お前は知ってるだろうがっ!なずながそういうの駄目なの」
ひのきの多少怒りを含んだ声にアニーは少しうつむいた。
「あ、はい、そうでした。すみません」
「なずなは元男性恐怖症でな。
ひのきとつきあい始めて普通に話すくらいは平気になったけど、触られると怯えるから。
あ、彼氏様は別な」
ユリが不満げなトリトマに言う。
「わかりました?他の男なんて入る余地ないんですよ」
何故か嬉しそうに言うアニーにひのきがげんこつを落とす。
「余計な事言うなっ!お前はなんでわざわざ喧嘩売るんだっ!」
「すみません...でもあいつが先に...」
「売られてもいちいち買うな!ガキっ!」
ひのきとアニーのやりとりにユリがクスクス笑う。
「言われてるしっ」
「お前もだっ、鉄線!いちいち人間関係かき回して喜ぶなっ!」
ユリにもひのきの怒声が飛ぶ。
「へいへい。わかりましたよ、お館様」
ユリがヘラっと肩をすくめた。
「とにかく...紹介するからっ!」
というひのきに今度はトリトマがムスっとソッポをむいた。
「要らん。こんな奴らと仕事するなんてまっぴらごめんだ」
「それはこっちの台詞ですよ」
その言葉にアニーもソッポを向く。
「てめえら...」
二人の態度にひのきがフルフルと拳を握りしめた。
「お、キレるぞ、キレるぞ」
ユリがホップにクスクス笑いながら小声でつぶやく。
ホップはそのそれぞれの態度にあきれた顔だ。
「どっかの双子みてえなワガママ言ってんじゃねえ!!」
叫ぶといきなりトリトマとアニーの頭をそれぞれ左右の手でつかんでガツン!とぶつけた。
「いってえ!!何すんだっ、この野郎!!」
「ひどいですよっ!何するんですかっ、ひのき!!」
双方が頭を押さえてうめくのに、さらに怒鳴るひのき。
「っせえ!!俺だって面倒事も巻き込まれももうまっぴらなんだ!
てめえらいい加減にしやがれ!!」
「てめえの方がいい加減にしやがれ!調子こいてると殺すぞ!!」
トリトマが叫ぶのにひのきも怒鳴り返す。
「おお、やれるもんならやってみやがれ!返り討ちにしてやる!!
なんなら鍛錬室でも行くか?!相手してやるぞ!」
若者組ジャスティスのにぎやかさに部長達と合流した大人組は苦笑をもらす。
「ひのき君...キレましたねぇ」
シザーがのんびりした口調でお茶をすするのに、北欧支部のフリーダム支部長レンギョウが少し心配げにきく。
「止めに...入らないで大丈夫なんですか?」
「ああ、大丈夫大丈夫。彼はキレても一線超える事ないから。
あれでちゃんと冷静さ保ってますよ。」
「そう...ですか?」
「ええ、この場でやりあわないでしょ?
鍛錬室にって言うあたりが彼の冷静さの証です。
大丈夫。やりあったとしてもちゃんと手加減はしてくれますから。
再起不能にするような事はしませんよ。
その辺りは信頼できる子ですよ?」
「そうだな。」
シザーの言葉にコーレアも同意する。
「トリトマが...あんなに周りに反応するのは初めて見た。
大人の中で一人だったトリトマが同じ歳の子の中でもまれるのは良い事だと俺は思う。
そういう意味ではタカは安心してまかせられる奴だしな。
万が一の事もないとは思うが、どうしてもまずい事が起こってきたら俺がフォローを入れるから、とりあえず今は放置してやってくれ」
「そうよね、子供の喧嘩に大人は口出さない方がいいわよね」
さらに北欧支部ブレイン支部長ルビナスもそれに同意した。
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