青い大地の果てにあるものオリジナル_ 1_24_恋人達の休日

「なずな...とりあえず今日は休暇で任務ないはずだし、非常事態でも俺の携帯に連絡くるだろうから、お前の携帯は電源切っておけ」

ホップに呼び出されてブレイン本部に行って本部長同士の争いの仲裁をして部屋に戻ってからわずか時間。

「タマがいない~。どこ行ったのさ?(泣
とホップから電話が来たのを半ば強引に切らせて30分後、今度は

「ホップから聞いたんだけど、ユリさんがいないって...
ジャスミンもいないんだけどもしかして一緒なの
と、ファーから電話。

それも切らせたら今度は
「本部長が戻らないんだけど、知りません
と、スターチスから電話がかかってくるにいたって、ひのきはとうとうキレた。


俺達は休暇中なんだっいい加減巻き込むなっ!!
と、なずなの携帯を取り上げてスターチスに怒鳴りつけると、携帯を切った。

...ったく、どいつもこいつも...

最近人間関係の事になるとみんななずなに、任務関係の事になると自分に振ってくるので仕事が忙しいのもあいまって二人きりでゆっくりする時間がなかなか取れない。

「たぶん...直接的にしろ、間接的にしろ原因はユリちゃんな事は確かなのよね...
苦笑するなずな。

キャットの通り名の通り飄々と気ままに振る舞う行動が、あちこちで物議をかもしていたりするのだが...何故か関わる者関わる者みんなが最終的に夢中になって追い回している。

もしファーの言う通り今一緒にいたら、ジャスミンまでそれに加わるのか、と、ひのきは内心ずいぶん長い間彼女に片思いをしつつ尽くして来た金髪碧眼の同僚に同情の気持ちを禁じ得ない。

確かに整った顔はしているし悪い奴ではないのだが、みんながそこまで追い回す気持ちがひのきにはわからなかった。

「鉄線て...不思議ともてるよな...
「タカは...気になったりしなかったの

なずなの問いに、自分の彼女に他の女が気になるかと聞かれて気になると答える男が果たしてどれくらいいるんだろう...などと内心思うひのき。

まあでもなずなはそういう事には疎いので、素朴な疑問として受け取って、正直なところを答えておく。

「ん~...ぶっちゃけあれに女を感じねえな。
つか、熱狂的におっかけるのはホップ別にしたらみんな女だろ」
「そうねぇ...
同意するなずなにひのきはちらっと目をやった。

むしろその質問はなずなにぶつけてみたい。
あれだけ女心をくすぐるらしい人間がずっと側にいたのだ。

「なずなは...嫌な気分だったりしないのか鉄線が他とベタベタしてて」
ひのきの問いになずなは複雑な表情をみせた。

そして手にした湯のみから焙じ茶を一口飲むと、ハ~ッとため息をつく。

「ん~...不承の兄を持ってその彼女さんに馬鹿なお兄ちゃんでごめんなさい、ごめんなさいって心の中で謝罪するような感じ
なずなの言葉にひのきは小さく吹き出した。

「小さい頃から一緒にいすぎたからもう兄弟みたいなものだし...
正直カッコいいとか言われてもよくわかんない」

そういうものなのか...。ひのきはふと思う。
なずながもし妹だったら...男ができたりしたら自分はかな~り複雑な気分になるんじゃないだろうか。
まあ自分は弟しかいないので実際のところはわからないが。

「でも...モテるって言うなら...タカだってモテるでしょ」

そうでもない...というのは白々しい気がするが、肯定するのもなんだか...とひのきは返答につまる。
確かに交際を申し込まれたりというのはあったが正直あまり興味がなかったのでちゃんと彼女を作ったのは初めてだったりする。

「何人にもモテてもしかたねえから。誰に言い寄られてもあんまり関係ない。
女はなずなだけでいい」
言って隣に座るなずなの肩を抱き寄せて口づけた。

愛しの彼女の唇の柔らかさに昨日の夜の事を思い出して体が熱くなってくる。
たまらなくなってきて更に深く口づけると腕の中で小さな抵抗がある。

「…タカ…まだ…昼…間っ」

唇からそのまま首筋に唇をはわせるとなずなが切れ切れの声をあげるが、そのまま襟元から手を入れ柔らかい胸に直接触れると、抗議の声は甘い悲鳴に変わって来た。
いつもの桃の香りに今日は着物に薫きしめた香の匂いが混じる。

飛んで行く理性…

「夜でも...任務ある時はあるから。昼も夜もないだろ」
と、奇しくも旧友と同じ事を言って行為を続けた。

そうして事後、抱きつぶしてしまった恋人の身を清めて、脱がせたは良いが自分では着せられない着物はしかたないので掛布のように上にかけておく。

それから自分はシャワーを浴びて汗を流して服を着ると、なずなが起きた時のために湯をわかそうとポットの電源を入れた
そのとき、不意にドアのベルがなる。

「勘弁しろよ...
ひのきはため息をつきながら、それでもなずなを起こさない様に戸口に向かう。
ガチャっとドアを開けると涙をいっぱい貯めたファーが立っていた。

...なんだ
もう面倒くささマックスで聞くと、ファーがワッと泣き出した。


...まじ...勘弁してくれ」

なんでファーが自分の所に来て泣くのかはわからないが、とにかく自分には身に覚えが全くない。
最近任務も別だし接点すらないのだ。
ということは...また巻き込まれか....

「用件...言わねえなら帰れ」
ちょっと甘い顔をするとどんどん面倒ごとを持ち込まれる。
ひのきがあえて突き放すと、ファーはビクっと顔をあげて口をひらいた。

人間て...努力だけじゃだめなのかな


何を言ってるんだ、こいつは。

そもそもなんでそれを俺に聞くと内心思いつつも

「努力はしないとだめだ。ただ努力だけでもだめだな」
と律儀に答えるひのき。

「努力...必要なら、なんでジャスミンは努力もせずに何でも手にはいるの
とさらに聞いてくるファー。

「知るかっんな事ジャスミンに聞け

だ~か~ら、なんでそれを俺に聞くんだ、早く帰ってくれという気持ちを思い切りこめるひのきだが、ファーは帰ろうとする気配もない。

「ジャスミンなんか嫌いだもん口ききたくないし
と、ぷ~っとふくれる。

「んじゃ、お前のお兄様にでも聞いてこい
天才科学者様だ、きっと答えてくれるだろっ」

「兄さん...行方不明中...
「んじゃ、アニーにでも聞け」
「アニーはジャスミンの味方だもん」
「じゃ、ホップに...
「ホップもジャスミンと同じちゃんと話せそうなのひのきか姫しかいないもん

ほんっとに勘弁してくれ...とひのきは額に手をやって大きく息をついた。

「頼むから...俺達は放っておいてくれ」
「姫も...いる
ファーはひのきの言葉をスルーしてきいてくる。

「いるが...
「話したいんだけど...
「無理。寝てる」
「こんな時間から
「悪いか」
「悪くはないけど...起きるまで待たせてもらっていい
「だめだ」
「なんで
「他人に見せられる格好じゃねえから」
「どういう事

なんでここまで食い下がられなきゃいけないんだ、と、ひのきは若干イラついてきた。
俺達にプライバシーはないのか、と半ばヤケになって言う。

「あのなぁ...俺達は恋人同士で久々の休暇なわけだ。
んでなずなは今日着物着ててだな、俺は脱がせる事はできても、女物の着物を着せたりできねえんだ。
これでいい加減察しろ

「あ...
さすがにファーもその意味を察して赤くなる。

...わかったら帰れ。なずなには言うなよ。
んな事言ったってわかったらさすがに激怒される」

これでさすがに帰るだろうと思ったら

「うん...あの、じゃあ夕飯の時とか話しちゃだめ
とファーは食い下がる。

こいつ...うんと言うまで帰らないんじゃないだろうか...
ひのきは根負けした。

「んじゃ、18時から時間だけ談話室で話きいてやる。
話が終わろうと終わるまいと時間きっかりで終了だ。それでいいだろ?!

「うん。18時から談話室ね」
ファーは満足げに帰っていった。

結局...休暇なんて名ばかりじゃないかと、ひのきはうんざりして部屋に戻る。

なずなはまだソファの上でしどけない姿で寝ているし、まあこれに関しては自分のせいなのだが18時まであと時間弱、何をするにも中途半端な時間だ。
昼寝なんて滅多にしないが一緒に寝てしまうか。

ソファではさすがに狭いのでなずなを抱き上げて寝室に移動。
一緒にベッドに横たわる。

抱きしめると温かいし柔らかくて気持ち良い。
心身ともにすごくリラックスする。

任務についたらこんな風に一緒にまったり眠れるとは限らないわけだし、実はこれが一番贅沢な休暇の過ごし方なのかもしれない。
軽く目をつむるとふんわりとした眠気がおそってきたので、それに逆らわずひのきは意識を手放した。



気付くと優しい手が髪をなでている。
甘い桃の匂いに包まれ頬には柔らかい感触。
目を開けなくてもわかる。
なずなが胸元に自分の頭を抱え込んで髪なでているのだ。

小さな手の感触は言葉にできないくらい気持ち良い。
もう少しこの至福の時間を味わいたい気がするが、そろそろ起きて談話室に行く支度をしないと。
18時に話きくなんて約束しなきゃ良かった、と後悔する。


...起きてたの
そろそろとひのきが目を開く気配に、なずなの手が止まった。

「今起きた18時から約束があるから」
「約束
なずなの体が少し離れようとするのを引き寄せると、さきほどまで顔を埋めていたなずなの柔らかい胸の谷間にまた顔を埋めた。

「ああ。でもしなきゃ良かった。こうしてんのすげえ気持ち良い」
「約束は...守らなきゃね

クスクス笑い声をもらしながら、ひのきの頭をもう一度だけサラっとなでると、なずなはベッドから抜け出した。

「じゃ、私は一度部屋戻るね。夕食の時に食堂で待ち合わせ...かな
乱れた襦袢を手早く直しながら言うなずなに、同じくベッドから起き上がったひのきが言う。

「いや、一緒に話聞いて欲しいらしい。ファーが」
「あら。ファーが珍しいね」
髪をいったんバレッタで上で止め、手慣れた手つきで着物をきこんで行くなずな。

「俺となずな以外話にならねえって言うから...
ったく勘弁して欲しいよな、せっかくの休暇なのに」
「私もって言う事は...ユリちゃんかなぁ...やっぱり」
「かもな...

普段自分以上に接点のないなずなと話したいという事はその可能性は高いと思う。
着物を着終わりなずながバレッタを外すと綺麗な黒髪がパサっと落ちる。

「綺麗な髪だよな...手触りもいいし」
ひのきはその髪を取って後ろから櫛をいれた。
サラサラと櫛がまったくひっかかることはない。

「タカの髪も綺麗だよ
「いや...なずなのが柔らかくて細くて綺麗だ」
「そうかな
「ああ」

一通り櫛をいれてチラっと時計に目をやるともう1740分だった。

「急がねえとな」
言って二人してひのきの部屋を後にした。


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